38話 魔法学校へ潜入せよ③
私は、生徒たちに道を教えてもらいながら、なんとか図書室にたどり着く。
扉を開けると、目の前に広大な空間が広がっていた。
「わぁ……」
思わず声が漏れた。
図書室は、あまりに広かったのだ。
天井は高くて、何階にも渡って本棚が並んでいる。
螺旋階段が上へと伸びていて、上の階にも無数の本が並んでいるのが見えた。
「失礼します……」
本棚の間を歩くと、古い本の匂いがする。
魔法の本、歴史の本、薬学の本。色々な本が、雑然と並んでいた。
私は、本棚の間を歩き回った。
広すぎて迷子になりそうになりそうだ。
「えーと、呪いは……と」
しばらく歩くと、明らかに禍々しいエリアが存在していた。
黒い本棚に、古びた本が並んでいる。空気が重い。
(ここだけ、文字が読めないんだけど……)
このエリアだけ、私の見たことがない文字の背表紙がずらりと並んでいる。
もしかすると、呪い関連の本は、ここら辺にあるのかもしれない。
私は、怪しそうな本を一冊手に取って開いてみた。
その瞬間だった。
地響きのような音が鳴り響き、本から私に向かって魔獣の絵が飛び出してきた——気がした。
「……ひっ」
私は思わず本を落としてしまう。
だが、辺りを見渡しても魔獣はいないし、何かが起こった様子はない。
本を拾い上げて、先ほどのページを見る。
「気のせいか……」
だけど、そのページの魔獣の絵は、いつの間にか消えてしまっていて。
(き、気のせいだよね……)
私は、慌てて本を棚に戻した。
ふと、奥を見ると、普通に呪い関連書の札がかかっているのが目に入った。
なんてことない本棚に、普通に本が並んでいる。
(なんだ。こんな普通のところにあるのか……)
私は、そのエリアに向かった。
「第二古語訳……第二古語訳……」
本の背表紙を見ながら探すと、目当ての本はすぐに見つかった。
「よし、これで私のミッションは終わり」
私が本を抱えて安堵したとき、生徒たちの声が聞こえてきた。
「おい、そこは禁書エリアだから近づくなよ!」
「はい、先輩!」
先ほどの禍々しいエリアに近付こうとした後輩を先輩が注意したらしい。
(わ、私、本触っちゃったよ……)
私は、何も聞かなかったことにしてその場を離れた。
◇
図書室を出ると、まだヴィクター様は講義中だったらしい。
私は、講義室の外から、彼の姿をこっそり盗み見た。
「気になるの?」
突然、背後からレイア先生の声がした。
「レイア先生……」
「好きな人のいつもと違う姿、見たいわよね」
そう言って、レイア先生は講義室の扉を静かに開けると、私を手招きした。
教室は広いから、静かに入れば目立たないらしい。
そっと、1番後ろの席に腰掛けて座った。
「ヴィクターって、説明がとても上手いのよ。自分が苦手だからでしょうね」
ヴィクター様が、黒板に魔法陣を描きながら、堂々と説明している。
「動的魔法と静的魔法については先ほど説明した通りだが、単に動的魔法が攻撃に特化しているわけではなく――」
ヴィクター様の声が、教室中に響いている。
(本当に、先生なんだ……)
いつもとは違う表情に、ドキドキしてしまう。
真剣な顔で説明しているヴィクター様に生徒たちも、必死にペンを走らせていた。
数ヶ月も一緒に暮らしていたのに、こんな姿、初めて見た。
(かっこいいな……)
まるで、ぬかるみに足を突っ込んでしまった気分だ。ヴィクター様のことをどんどん好きになっていく。
「以上!」
ヴィクター様が授業を終えると、生徒たちが拍手をした。
生徒たちが全員教室から捌けたあと、資料を纏めていたヴィクター様がこちらに気づいた。
「……なんだ、いたのか」
私とレイア先生を見た彼は、少し驚いた顔をしている。
私は、ヴィクター様に駆け寄った。
「ヴィクター様! とても格好良かったです」
「……恥ずかしいから、あまり見ないで欲しかった」
ヴィクター様は、顔を赤くした。
「格好いいと言ってくれるなんて、いい婚約者じゃないの」
「……レイア先生は、さっきから俺のことを馬鹿にしているでしょう」
ヴィクター様が翻弄されているところを見られるのも貴重である。
レイア先生には感謝しかない。
「本当にこの学校で働きたかったら働いてもいいが」
「……本当ですか!」
私は即答した。
生徒たちも皆親切だったし、レイア先生のことも大好きになってしまった。
魔法学校で働けたら楽しいに決まっている。
「こんなに喜ぶなら、もっと早く連れてくればよかった」
ヴィクター様が、優しく笑う。
目的があってやってきた魔法学校だったけれど、こんなにも楽しい時間になるなんて思ってもみなかった。
◇
学校の門を出る時に、わたしはぶるりと寒気がして振り返る。
(風邪かな……)
私は、肩を丸めながら学校を去るのだった。




