36話 魔法学校へ潜入せよ①
「アリス様、マリアンヌ様からお手紙です」
ある日の昼下がりのことだ。
居間でゆっくりしていたとき、オリバーさんが封筒を持ってきてくれたので、私は受け取って開封した。
(……なんだろう、お茶会のお誘いだったら嬉しいな)
王太子殿下もマリアンヌ様も結婚の準備を着々と進めているらしく、最近はめっきり会っていなかったのだ。
『アリス、久しぶりね。残念ながらこれはお茶会の誘いじゃないわ』
まるで、私の心の中を読んだかのような書き出しに、鳥肌が立った。
頭が切れるのは、王太子殿下だけではならしい。さすが未来の王妃様なだけある。
私は、恐る恐る続きを読み進める。
『実は、呪いの書の一部が解読できたの。ただ、内容が不確実な上に、公爵様に知らせるべきでない情報の可能性がある』
呪いの書。
ヴィクター様と王太子殿下が解読を進めているという古語で書かれた、古い本のことだ。
(でも、ヴィクター様に知らせるべきではない情報って一体……?)
私は不安な気持ちになりながらも、手紙に視線を落とす。
『内容をはっきりさせるためにも、アリスには『第二古語訳』の本を探してほしいの』
「だ、第二古語訳……?」
私は思わず声に出してしまった。
第二古語、とは古語より後にできた現代に多少近い言語だそうで。
古語と似たり寄ったりのこれまた難解な言語らしいのだが、今回は一部解読出来ているため翻訳の補強として使えるのだとか。
『くれぐれも公爵様には内密で。殿下曰く、魔法学校にあるんじゃないかとのことよ』
魔法学校は、ノスウィックに出かけた時に見たっきりだ。
空高くそびえ立つ塔が印象的だった。
『追伸:お茶会の誘いじゃないっていうのは嘘よ。近々会いに行くわ』
「やった!」と小さくガッツポーズをした。
マリアンヌ様はこういう小悪魔なことをするのが上手い。
(にしても、魔法学校かぁ……)
どうやら、私には、とんでもないミッションが科されてしまったらしい。
ヴィクター様に内緒で、魔法学校に行って、本を探す。
(……どうしよう)
◇
「ヴィクター様」
「なんだ」
私は、書斎にいるヴィクター様に声をかけた。彼は本から顔を上げる。
「部外者って魔法学校には入れないんでしょうか」
ヴィクター様は、私の意図を察してか眉をひそめた。
「お前は無理だ。魔法が飛び交っている。危ない。辞めておけ」
「ええ! いいじゃないですか!」
私が食い下がると、ヴィクター様は不思議そうな顔をした。
「突然どうした。今まで魔法学校には興味なんて無かっただろう」
「えーっと」
まずい、何も考えてなかった。
「本を読みたくて!」
「本……?」
ヴィクター様が、疑わしそうに見てくる。
まずい。これでは本を拝借することがバレてしまうではないか。
「わ、私、屋敷の本全部読み終わっちゃって!」
「見え見えの嘘は辞めろ。うちの本は1000冊以上ある」
ばれた。
私は、少し考えてから正直に言う。
「――魔法学校に行ってみたくて」
それは、本当だった。
領地にそびえ立っている高い塔。遠くからでも見える、あの美しい建物。
ヴィクター様も講師として働いていると聞いていたし、一度、行ってみたかった。
「お願い。ヴィクター様……」
私は、上目遣いで見上げてみた。
ヴィクター様が、ぐっと悔しそうな顔をしてから数秒後。
「わかった……」
そう呟いた。
最近分かったことだが、ヴィクター様が意外とお願いに弱い。
これは、お兄ちゃんの性かもしれない。




