表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力なしの出来損ない令嬢ですが、不眠公爵様に溺愛されています  作者: 甘夏 みみ子@5/22発売!白い結婚の旦那様と紡ぐ、最後の一ヵ月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/57

35話 世界一素敵な誕生日

 


 私がグランハート寮にやってきてから、4ヶ月が経ち、季節は春になった。


 屋敷の庭には、薔薇以外にも、色とりどりの花が咲き始めていた。

 チューリップ、水仙、スノードロップ。

 冬の間は何もなかった庭が、一気に華やかになった。

 

 私は、花壇の前にしゃがんで花を見つめていた。

 

「やっと過ごしやすい季節になりましたね!」

 

 近くで庭仕事をしていたオリバーさんに話しかける。

 雪も溶けて、ぽかぽか暖かい。

 日差しが気持ちよくて、思わず目を細めた。

 

「そうですね。春は良い季節です」

 

 オリバーさんが笑顔で答えた。

 

「グランハート領の春は一瞬なんです。昼と夜の気温差が激しいので、あと数週間後にはその花も枯れます」

「……」

 

 ロマンの欠片もない発言に、何も言えなくなった。もしかすると、従者は主人に似るのもかもしれない。


 私が愛想笑いを浮かべていると、オリバーさんが、ふと思い出したように口を開いた。

 

「ところで、アリス様。王太子殿下とマリアンヌ様からお荷物が届いているようですが」

「……えっ」

 

 私は思わず立ち上がると、慌てて屋敷の中に戻った。

 応接室のテーブルの上には、綺麗に包装された箱が置かれていた。

 

(な、なんか凄そうな箱……!)

 

 恐る恐る開けてみると、中には可愛らしいチョーカーが入っていた。中央にオパールがはめ込まれた真珠のチョーカーだ。


 持ち上げるとずっしりと重いため、絶対にお高いものだ。

 

「突然、こんな贈り物なんて……」

 

 一体全体、何事なのだろうかと思っていると、箱の中に手紙が入っているのを見つけた。

 

『お誕生日おめでとう。アリス』

 

 そこには、マリアンヌ様の丁寧な字で、そう書かれていた。

 

「オリバーさん、今日って何日でしょう?」

「4月15日です」

 

 その言葉に、頬を掻いて苦笑いした。

 

「あ、今日誕生日だった……みたい、です」

 

 幼い頃は、お祝いされるのが当たり前だった誕生日。

 お父様とお母様が、ケーキを用意してくれて。プレゼントをくれて。

 

 けれど、叔父の屋敷に引き取られてからは、誰も祝ってくれなかった。

 いつの間にか、誕生日なんてどうでもよくなっていた。

 

「えっ、忘れてたんですか。ご自分の誕生日……」

 

 オリバーさんが、驚いた顔でこちらを見た。

 

「と、というか、私こそ忘れており……申し訳ございません」

「謝らないでください! 本当に大丈夫ですから」

 

 私は笑顔で答えた。

 

「まあ、別に誕生日なんて生まれただけの日ですし」

 

 私は、贈られたチョーカーを見つめた。

 マリアンヌ様にさっそく返事を書こうと私は手紙を抱えて魔道具庫へと向かったのだった。

 

 ◇

 

 いつものように、私は魔道具庫で仕事をしていた。

 最近は手慣れてきて、少しサボり気味だ。魔道具を磨きながら、窓の外を眺める。春の陽気で、少し眠くなってくる。

 

 気がつけば、もう夕方になっていた。

 

(お腹空いたな、そろそろ屋敷に戻ろう)

 

 今日はヴィクター様は仕事で遅くなると言っていたため、ひとりでのご飯になりそうだ。

 そう思いながら、食堂の扉を開けた瞬間。

 

「誕生日おめでとう!」

 

 ヴィクター様の声がして、ぽんっと魔法で花びらが私の周りに降ってきた。

 赤、ピンク、白。色とりどりの花びらが、ひらひらと舞い降りる。

 

「え? なんで、ヴィクター様、今日は遅くなるんじゃ……」

「驚いただろ」

 

 ヴィクター様が、得意げに笑った。いつもの不機嫌そうな顔じゃなくて、本当に嬉しそうな笑顔だ。

 

「早く来い」


 腕を掴まれて食堂の中へ引っ張られた。


 壁には色とりどりのリボンが飾られていて、天井からはキラキラ光る飾りが吊るされている。


 テーブルの上には大きなケーキが置かれていて、ろうそくの火が揺れていた。

 

 大好きなステーキもお皿に盛られている。湯気が立ち上っていて、美味しそうな匂いがした。


 少し前に真夜中にパーティーした時よりも、ずっと豪華だった。


 そして、テーブルの真ん中には、私が好きそうなクマのぬいぐるみが鎮座している。ふわふわで、可愛らしい。

 

「どうですか、私の今朝の演技! 本当に誕生日忘れてるように見えたでしょう!」

 

 オリバーさんが、嬉しそうに言った。目をキラキラさせている。

 

「うん、名演技でした!」

 

 私は思わず笑ってしまった。


 全部、計画されていたのだ。


 私を驚かせるために、みんなで準備してくれていたんだ。

 ヴィクター様が椅子を引いてくれて、私は座った。心臓がドキドキしている。


 ケーキのろうそくに、オリバーさんが火を灯してくれた。

 

「さあ、息を吹きかけて」

 

 私は深く息を吸って、ろうそくを吹き消した。

 

「誕生日、おめでとう」

 

 拍手が起こる。ヴィクター様とオリバーさんが、笑顔で拍手してくれている。

 

 ステーキは、柔らかくて美味しいし、ケーキも甘くて、幸せな味がした。

 どれも美味しくて、私は幸せな気持ちでいっぱいだった。


 こんなに楽しい誕生日、いつぶりだろう。

 

 食事が終わって、ヴィクター様が私の前に立った。

 

「生まれてきてくれて、ありがとう。アリス」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私の胸がじんわりと熱くなった。

 

 他人の誕生日に良く聞いた言葉だった。

 ベアトリスの誕生日でも、叔父の誕生日でも、誰かしらが言っているのを聞いた。

 

 ありふれた言葉だと思っていた。

 けれど。

 

(こんなに、嬉しい言葉だったんだ……)

 

 涙が、溢れそうになった。目頭が熱くなって、視界がぼやける。

 

「うれしい。今までの人生で、一番幸せな誕生日です」

 

 ヴィクター様が、優しく笑った。その笑顔が、ぼやけた視界の中で揺れている。

 

「ありがとう! ヴィクター様!」

 

 私は思い切り、ヴィクター様に抱き着いた。


 ヴィクター様が、少し驚いた顔をしたけれど、すぐに私を抱きしめ返してくれた。


 温かい腕が、私を包み込む。

 胸に顔を埋めると、ヴィクター様の香水の香りがした。

 

「お前が生まれてきてくれて、俺も嬉しい」

 

 ヴィクター様が、小さく囁いた。


 私は、ヴィクター様の胸の中で目を閉じた。

 ついに涙が、ぽろぽろと溢れてきてしまう。


 幸せで、胸がいっぱいだった。こんなに幸せな誕生日、初めてだ。

 

「プレゼントは、また届くから楽しみにしておけ」

「はい」

 

 後日。


 私宛にあまりにも大量のドレスやアクセサリーが届いたので、ヴィクター様にお説教をしておいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ