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魔力なしの出来損ない令嬢ですが、不眠公爵様に溺愛されています  作者: 甘夏 みみ子@5/22発売!白い結婚の旦那様と紡ぐ、最後の一ヵ月


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28話 君の世界に居たいのに:後編③

 

 屋敷に帰ってくると、オリバーさんが玄関で出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ」

「ヴィクター様の状態は?」


 真っ先に聞くと、オリバーさんは穏やかに笑った。


「今、ぼーっとしながら本を読んでいます」

「え、本を……?」


 私は思わず聞き返した。

 あんなに苦しそうだったのに、もう本を読めるまで回復したのか。


「なんだ、元気じゃないか。あれだけ大騒ぎして、もう本を読んでいるとは」


 魔女様の呆れたような言葉に、オリバーさんも苦笑いしている。


「魔女様の薬のおかげです。朝には熱も下がって、普通に起きていらっしゃいます」

「そうか」


 魔女様は満足そうに頷くと、籠を持ち上げてすたすたと歩きだしてしまう。


「では、書斎の隣の空き部屋に行くぞ。娘」

「な、なんで空き部屋の場所までご存じで……!?」


 屋敷には初めて入ったはずなのに、もはや空き部屋の場所まで把握しているのは、少し怖い気もする。

 私の問いに魔女様は、ぴたりと立ち止まった。


「……魔女だからな。なんでも知っている」


 魔女様は背を向けたままそう言う。

 私は自分の籠を持って慌てて彼女を追いかけた。


 ◇


 空き部屋に入ると、魔女様がテーブルを指さした。


「そこに花を並べろ」


 私は言われた通り、集めた花をテーブルに広げた。

 紫の守護の花、青い癒しの花、赤い活力の花。ひとつひとつ丁寧に並べていく。


「いくぞ」


 魔女様が手をかざすと、花がふわりと浮かび上がった。

 そして、あっという間に乾燥していく。水分が抜けて、花びらが縮んでいった。


「これから作るお守りは、ポプリみたいなものだ」

「なるほど」


 私は乾燥した花を見つめた。色は鮮やかなままで、魔力の光も失われていない。


「魔力の下処理は終わった。あとは好きに詰めろ」

「えっ」


 私は思わず魔女様を見た。

 てっきり、魔女様が呪文を唱える中で私がお守りを作ると思っていたため驚いたのだ。


「さっき、花の効果を教えたろう。こういった守護系の魔道具で一番大切なのは、想いだ」

「想い……?」

「物は何だっていいんだ。作った人間が、どれだけ相手のことを想ったか。それによって効果が変わる」


 魔女様は花を一つ摘み上げて、じっと見つめた。


「下手な魔女が作るよりも、恋人や家族が作った方がよっぽど強い効果を発揮するんだ」


 その言葉に、私は少し驚いた。


「じゃあ、私が作ってもちゃんと効果があるんですか」

「お前がどれだけあの領主を想っているかによる」


 魔女様にヴィクター様を好きだと白状しているから、その言葉に恥ずかしくなって飛び跳ねそうになってしまう。

 彼女は、私に呆れ顔で溜息をついた。


「お前も想いが籠りまくったお守りを持っているじゃないか、見てるこっちが胸焼けするわい」

「……?」


 そう言われて、私は首を傾げた。


(お守りなんて持ってたっけ? 身つけてるのは、ヴィクター様に買って貰ったネックレスくらいだけど……)


 まあいいかと私は、魔女様の用意した小さな巾着を手に取った。

 半透明の布で作られた、手のひらサイズの袋だ。


 魔女様の言うようにヴィクター様のことを想いながら、一つ一つ丁寧に花を詰めていく。


 紫の花は、ヴィクター様を守ってくれますように。

 青い花は、ヴィクター様の傷を癒してくれますように。

 赤い花は、ヴィクター様に元気を与えてくれますように。


 そんなことを考えながら、ゆっくりと作業を進めていく。

 魔女様は、そんな私を見ながら大あくびをしていた。


「オリバー、茶を出せ」


 オリバーさんに大声で命令し、お茶を出してもらった彼女はずいぶんとくつろいでいた。

 私が懸命に作っている横で、時々、こちらをちらりと見ている。


「できました……」


 ようやく、お守りが完成してテーブルの上に乗せる。


 巾着の口を紐で結んだそれを魔女様が手に取った。

 まじまじとお守りを見つめられるとなんだか緊張してしまう。


「悪くないんじゃないか」

「本当ですか!」

「ああ。お前の想いが、よく込められている」


 稀代の魔女と呼ばれる彼女に褒められて、私は嬉しくなった。

 魔女様が返してくれたお守りを大切に両手で包んだ。


 ◇


 夕方になり、魔女様が帰る時間になった。


「魔女様!」

「なんだ?」


 馬車に乗り込む前の彼女に声をかけ、私はあるものを差し出しだ。


「……なんだ、これは」

「私から、魔女様にお守りです」


 私は、魔女様の手のひらに上に小さな袋を置く。

 ヴィクター様に作ったものと少し中身を変えたお守りだった。


「魔女様は、おひとりで森にいらっしゃるので……」


「いらなかったら捨ててください」と小さく付け足す。

 私は、先ほどの魔女様の孤独そうな瞳がどうしても忘れられなかったのだ。

 些細な効果しかないのだろうが、魔女様へのささやかなお礼だった。


 魔女様は、なぜかうつむいたまま、ふるふると肩を震わせている。

 そして、


「っ、ははははっ、本当に変な娘だ!」


 そう言って大声で笑った。

 魔女様は、お腹を抱えてひとしきり笑ったあと、私に向き直った。


「娘」

「……はい」

「魔力が無くても、人を思う心があれば役に立てる。それを忘れるな」


 魔女様がこちらを振り返った。その声は、いつもより優しかった。


「はい」

「領主を頼んだよ」


 魔女様が乗り込んだ馬車が、ゆっくりと動き出す。

 私は、馬車が消えていくまでじっと見送った。



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