27話 君の世界に居たいのに:後編②
朝食を食べ終えた、私はオリバーさんに声をかけた。
「オリバーさん、魔道具管理以外に魔力なしで出来る仕事ってあると思いますか?」
「と、言いますと?」
オリバーさんが不思議そうにこちらを見た。
「私、ヴィクター様に助けてもらってばかりなので。恩返しがしたいなって思って」
傷ついたヴィクター様に、何もできない自分が悔しくて仕方なかったのだ。
オリバーさんは少し考えてから、言った。
「魔力を込めたお守りを作ってはどうでしょうか? 魔道具の作り方はご存知ですよね?」
私は頷いた。
魔道具管理をするようになってから、色々と勉強したから一通りのことは知っているはずだ。
「でも、魔道具作りって魔力がいりますよね?」
「そこにいらっしゃるじゃないですか。稀代の魔女様が」
オリバーさんが、ちらりと見ると、まるで自分の家かのようにソファでくつろいでいた黒い塊が顔を上げた。
「また面倒ごとか?」
(なるほど、魔女様の魔力をお借りして私がお守りを作ればいいんだ!)
私は、魔女様のもとに擦り寄るように跪いて両手を合わせて懇願する。
「あのう、ヴィクター様に贈るお守りを作りたいんですが、魔力を貸してはいただけないでしょうか……」
「お前たち、魔女は便利屋でも何でもないぞ」
私が頭を下げると、魔女様は大きくため息をついた。
「……仕方ない。あの領主はもう大丈夫だろう。少し出かけるぞ」
「ほ、本当ですか!」
稀代の魔女様は、意外と気前がいいのかもしれない。
浮かれた気持ちで、コートを羽織って準備をしていると、魔女様が、こんっと小瓶をテーブルに置いた。
「オリバーとやら。何かあれば、とりあえずこれを飲ませておけ」
そうして、私と魔女様は出かけることになったのだ。
◇
魔女様に連れられてやってきたのは、魔女様の家の近くの森だった。木々の間を抜けて、しばらく歩くと、視界が開けた。
「わぁ……」
そこには、冬だというのに色とりどりの花が咲き誇る花畑が広がっていた。まるで、ここだけ春が訪れたかのようだった。
「魔法花だからな。季節は関係なく満開だ」
「へえ……っ」
屋敷の赤い薔薇も魔法花だと聞いていたが、ここに咲いている花たちは種類が桁違いだ。
私が感動していると、魔女様は花畑の中へとずんずん歩いていく。
「好きなのを摘んでいけ」
私は魔女様の後を追うように、花畑に入る。
じっと観察してみれば、花によって形や香りが違っている。青い花は、触れると淡く光るし、赤い花は、甘い香りがした。
「この花、綺麗……」
私が小さな紫色の花を見つめていると、魔女様が言った。
「それは、守護の花だ。お守りを作るには最適だろう」
私は、魔女様の解説を聞きながら、丁寧に様々な花を摘んだ。魔女様も、いくつかの花を摘んでいる。
「魔女様もお守りを?」
「これは魔法薬の材料だ。ついでに、回収しようと思ってな」
いつの間にか魔女様の籠の中は、花と薬草でいっぱいになっていた。彼女の手には、他にも空の籠があるため、まだまだ回収するらしかった。
「グランハート領は、魔獣も多いが魔力が多い肥沃な大地なのだ。だから、こうやっていい材料も取れる」
「この土地は、特別なんですね」
私がそう言うと、魔女様は同意するように頷いた。
「守っていかねばならんな。この土地も」
そうして、花を摘み始めてしばらく経った頃だった。
「わっ」
突如、びゅうっと強い風が吹いて、魔女様のフードがふわりとめくれた。
その瞬間、私はいつも隠れている魔女様の顔を見てしまった。
(……えっ)
整った顔立ちに白い肌。私と同い年くらいか、少し下に見える。滑らかで艶のある、黒髪がふわりと靡いた。
――魔女様は、思っていたよりもずっと若かったのだ。
けれど、すぐにフードが元に戻って、再び見えなくなった。
(魔女様って、若いんだ……)
私は心の中で驚いた。
あのしわがれた声からは、想像できないくらい綺麗な女性だった。
(魔女だから、若さを保っているのかな?)
もしかしたら実年齢はとっくにおばあちゃんの可能性もある。そんなことを考えながら、私は何も見なかったことにして花を摘み続けた。




