455【09】『深紅のドレス』
私は倒れるようにバスルームの着脱室にあったソファーで寝込んでいたのだが、一眠りすると精霊の侍女達に起こされて着付けを開始させられていた。
用意されたドレスと宝石と生花がきらきらしている。
精霊の侍女達は
「これで着付ければこの娘とて華やぐはず」
「そうに違いない」
「精気が楽しみ楽しみ」
と言いながらころころ笑っていた。
精霊って立ち直り早いね?
一眠りしている間に彼女達の機嫌はあっさりと回復し、過去は忘れ去られていた。
過去というのは、私を磨き上げることによって放出される? と想像されていた美の精気のこと。
予測に反して美の精気は放出されることなく、彼女たちは一滴も吸い込むことが出来なかった。
残念といえば残念。
悲劇といえば悲劇。
しかし、どちらかといえば喜劇?
私は機嫌の治った精霊達を見てほっとする。
良かった。切り替え早くて。助かるね?
そんなことを思いつつ、用意されたドレスを見る。
深紅のベルベットだ。
春に着るようなドレスではない気もするが、精霊の国に四季はない。
よって季節に寄せてドレスの生地を選ぶこともない。
紅のベルベットか…………。
大人の女性が着るような雰囲気もするが、形は可愛らしいデザインになっている。
それは少し背が縮み始めた女王陛下の為の独特のデザインなのかもしれない。
首の部分が詰まっていて、可愛らしいカットワーク刺繍になっているのだが、肩がざっくりと出ている。どちらかというと聖女の制服の夏用に近いかもしれない。
このドレスは薔薇を連想させる。
咲き誇る前の、蕾のような薔薇。
慎ましくもあり、鮮やかでもあり、程よいバランス。
クラシカルなデザインなのに、遊びがあるところが女王らしい。
女王陛下を連想させる一点物。
「素敵なドレスですね?」
私は精霊の侍女達に伝える。
嘘偽りなく素敵なものを素敵と伝えた。
貸して頂けるなんて光栄です。
そんな気持ちを込めて。
「そうであろう。これは女王陛下が、もしも自分の恋人が紅の魔術師だったら? という妄想仮定恋人ごっこを行うために作られたものよ。そなたが纏うのに相応しい」
「…………」
ん?
なんだろ?
今、なんか変な言葉が聞こえなかった?
空耳??
女王陛下が紅の魔導師の恋人だったらという妄想で…………。
え?
なにを言っているんですか?
精霊の皆様大丈夫ですか?
変なことを口走っていますよ?
「……………………あの、女王陛下は妄想の恋人ごっこがお好きな方なのですか?」
精霊達は瞼を瞬きながら私を不思議そうに見ている。
「当たり前であろう」
「……当たり前なんですね?」
「そうでなければ、こんな永劫の時を何をして過ごすのでっしゃろ」
「…………」
でっしゃろ?
精霊語?
いや、でも、突っ込みはそこじゃなくって……。
確かに永いよね? エルフの時間は。
その永い時をやり過ごすために、妄想が活用されていると?
空耳じゃなかった。
本当にそういう意図で言った言葉だった。
「恋人妄想ですか?」
「そうよ。七賢者全員分あるわ」
「……それはそれは」
翠の賢者は実の兄なのでは? と突っ込みたい。
六賢者の間違いでは…………。
流すが突っ込むか迷うよ?
そして突っ込む方を選ぶ。
だって気になるし。
「風の魔導師様はお兄様なのではないでしょうか?」
「それもまた趣があるというもの」
あ、うん、趣?
趣? …………。
兄妹は趣がある恋人ごっこなのですね。
でも趣とは?
風情とか味わいという意味だよね?
風情か……。
風情。
私は自分の実の弟であるリエトが恋人だったらという想像をしてみた。
うーん。妄想力が逞しくないと色々な壁を破ることが出来ない。
どこの壁を壊すべきなのだろうか?
姉弟というところを壊す?
でもそこから壊すと一緒に趣も壊れてしまわない?
やはり姉と弟が故にみたいな場所から妄想を働かせてゆくのだろうか?
妄想の世界は広くて深い。そして自由だなと思った。
「雷の賢者が恋人だったらという妄想のドレスもあるのですか?」
「あるあるあるわい? 王の恋人ごっこは鉄板よ。そこから始めないでどこから始めるのかえ」
「…………」
雷の賢者は鉄板で始まりで基本なんですね?
……ナルホド。
「どんなドレスなのですか?」
「見たいか?」
「見たいです」
「では用意して進ぜよう」
見せてくれるのですね?
楽しみです。









