454【08】『錫杖へのアクセスポイント』
ゆらゆらゆらゆらと揺らぐ水面を見ながら、私は自身の体内魔力の流れを意識する。
魔法媒体というものを使った経験はないが、直感でこの神の錫杖と呼ばれる聖女のタクトに魔力を流すのではないかと考えている。
使い方を知っていそうなルーシュ様やシリル様に聞いてみたいのだが、彼らは彼らの武器との邂逅を果たしているところで、その儀式の邪魔はしたくない。そもそも私が会いに行く隙などないはずだ。武器対魔導師の特殊な関係構築中なのだから。
私はそっと息を吐く。
とても良い香りがする。
この花の香りが移り込んだ水へゆっくりと私の使役式を流していく。
自然法則の中を漂っていた物質に、上位存在を作るのだ。
命令する人間。慣性の法則ではなく、魔導式による動きの拘束。
ゆらゆらとただそこにあった水が、私が魔法式を紡ぐと、一瞬で私に掌握される。
揺れていた水だけじゃない。
空気中に漂っている水の素。
今は水という状態を取っていないだけの、水を構成するもの達。
このバスルームという限られた空間の水という水を全て自分の魔法式で下位におく。
よし。
水は掌握出来た。
次は空気中に漂っている水分を、液体に変えて空間を乾燥させる。
それをこのタクトを使ってやってみようと思う。
私は自分の体内に魔力を行き渡らせるような感覚の延長で、手に持っていたタクトに魔力を流し込んでいく。
どうかな? と心配していたが拒絶反応はなかった。
良かった……。
そのまま丁寧に石の隅々まで流し込んでいく。
でも、時を置かずして私は違和感を受ける。
媒体というからには、タクトに魔力を流し込んだことにより、魔力は増幅されなければならない。
一の魔力を二、もしくは三に変えなければならないのだ。
しかしながら、そんな気配は全くない。
私はタクトを自分の目の高さに翳してじっと観察する。
増幅するどころか、魔力は消失している。
タクト内に留まってもいない。
私が通した魔力は、増幅もストックもされずに消失している?
私はタクトを振ってみる。
一滴の魔力も流れ出ない。
霧散してしまった?
でも有ったものがなくなるのは不自然だ。
この空間は私が水も空気も掌握しているのだ。
ならば誰かに魔力を奪われることはない。
奪われない以上、そこに有る筈なのだ。
消えてなくなるものじゃない。
どこかに?
タクト内には気配がない。
私の体内にも戻っていない。
私は魔法式を紡ぎ、魔法陣を具現化させる。
目の前に水色の魔法陣が出現する。
しかし、この魔法陣にも余剰分の魔力が乗っていない。
私は再度首を捻る。
そして瞳を瞬いた。
……いや……これは。
増幅どころか無効化……。
そういうものは媒体とは呼ばない。
待て待て。
私はそれから全身がふやけるほど、タクトでの魔法増幅を試みたが、増幅どころか減少でもなく消失していく現実に茫然とした。
神の錫杖?
神の錫杖!?
大層な名に恥づることなしの武器の筈が……。
どこをどうとっても逆現象しか起きていないとなると、百害あって一利もないという事に。
せっかく放出した魔力が消失するんだよ?
そんなのは魔導師にとって悪夢でしかない。
むしろいらないのでは?
そこまで考えて首を横に振る。
いや、大聖女様に託された物だ。
そんな不敬なことを言ってはいけないだろう。
思っても駄目な気がする。
だってこれはありがたい錫杖な訳で……。
のぼせすぎて頭がぐるぐるしてきた。
出よう。
どうにもなりそうもないので出よう。
そう思って顔を上げたら精霊の侍女達が怒りの形相で私を見ていた。
「精気が消えた」
「美しくない」
「美はどこにもない」
「体はゆだゆだ」
「自信は喪失」
「そんなものは美味しくない」
「不味いわ不味い」
「この子は美の素質か皆無だ」
「ほど遠い所にいる」
「あの水着が悪いのか」
「いっそ燃やしてしまおうかっ」
燃やす!?
なんて物騒な発想っ。
私は精霊の侍女達ににっこりと微笑んだ。
ごめんなさい。
美の精気皆無で。
あんなに楽しみにしていたのに、期待を裏切ってしましました。
せっかく水着着用を許可して頂いたのに。
私は申し訳ないやら、タクトの謎現象やらで、ほうぼうの体でバスタブから這い上がり、魔力が減って倒れそうになるのを持ち堪えながら、なんとが着脱ルームに一人で引き取り、バスローブに着替えたところで、横にあったソファーに倒れ込んで寝た。
眠い。
普通に眠い。
魔力の使いすぎで眠い。
タクトの使い方が分からなすぎて辛い。
そんなこんなを全身にせめぎ合わせながら苦悶の表情で寝た。
起きたらまずはポーションを飲もう。
でも私、ポーション持っていたっけ?
夢の狭間で魔力回復のポーションを切望していた。









