456【10】『段階的妄想領域』
私は精霊の侍女達が『雷の賢者が恋人だったら』という妄想用ドレスを持って来てくれるのを待ちながら『妄想仮定恋人ごっこ』というものに思いを馳せてみる。
先程は実の弟という、たぶん妄想ジャンルの中でも高難易度のものにチャレンジしてしまったのがいけなかった。それは上位者、つまり達人が挑戦する領域だ。
私はもっと初級の、難易度低めの妄想からスタートして然るべきだろう。
……初級妄想。
それってどんな?
七賢者全員分のドレスがあるということは、紅、黄、蒼、白、紫、緑、黒だ。
紅は炎の賢者。つまりイメージはルーシュ様の祖先。初代紅の賢者。
初代紅の賢者とはいっても、どうしても今のルーシュ様をイメージしてしまう。
『魔術師達が集うお茶会の庭』というお店でみた初代紅の賢者のフィギュアもルーシュ様にそっくりだったんですよ?
つまり私に取っては御主人様。御主人様と侍女ルートの妄想ということだ。
これは……ちょっとリアル過ぎて、逆に妄想で楽しむなんて心の余裕は出来なさそうじゃないか?
だって凄く身近というか、目の前というか、直ぐそこに対象がいて動悸、息切れなど多数催してしまう。
妄想は……もう少し遠目の……。
蒼いドレスは蒼の賢者。
それは氷の魔導師のことだ。
これまた父なので有り得ない。
弟以上に有り得ない。
義父とかならまだなんとかなるのかも知れないが……実父は……うん。
こう、想像するとどこまでもどこまでも親子のお茶会というような、そういう雰囲気にしか誘導していかないというか…………。妄想もなかなかどうして難しい。
やっぱり実ではなく義理から入ろう。
義理はどこまでいっても義理なのできっと妄想しやすい筈。
黒のドレス……と考えていたら、真っ黒で黒目がちな瞳を持つミシェルが思い浮かんだ。
義理……の弟という訳ではないが、弟分? 弟子? 教え子? 的な立ち位置だろうか?
血は明確に繋がっていないし、歳も六歳差。
大分離れているが、妄想領域としては許容範囲ではないだろうか?
黒のドレスか……。
真っ黒だとあれだから、少し光沢をつけた方がいいかな?
動きに合わせて少し光を反射するような。
私の髪色との相性も良いかも知れない。
ここで妄想してみようかな?
『妄想仮想恋人ごっこ』はドレスを纏うところから始まるんで良いんだよね?
私は黒いドレスをどんなデザインにするかを延々考え始めた。
ああこれは……。
意外にドレスのデザインを決めるデザイナー的な楽しみがあるんだな? と実感する。
つまり、相手を思って、どんなデザインが可愛いか?
自分に似合うか?
そして相手にエスコートされた時、相手のイメージにも合うか? ということが焦点になり、なかなかわくわくしてくるではないか?
相手の好きなお菓子を添えたり、好きなお茶を用意したり。
ミシェルのことを思うと、やっぱりフルーツサンドかな?
ソフィリアの街の屋台で食べた、素朴だけど新鮮でサービス精神溢れた一品。
また食べたいな? いつでも食べられたら幸せなのに。
そういう意味では……クロマルがいてくれたら……いつでも……。
そこまで辿り着いて、一瞬思考停止を起こす。
あのフルーツサンドを仕入れてクロマルに空間移動して貰ったら……。
…………。
道を制するものが商売を制する。
アクセスというのはそれだけ重要なのだ。
距離=コストだから。
つまり……クロマルがいればゼロ距離に……。
あるものをない場所に持っていくから高く売れる。
商売の基本中の基本。
でも商売というものは、一回や二回ではなく毎日もしくは定期的に安定した流通が必要なのだ。
雨や風。盗賊や飢饉。
いろんな障害があるが、それを乗り越えて安定供給を確立することが重要。
そしてこれも大切なことだが、移動的時間のロスで食べ物は傷む。
でも……。父の冷蔵ボックスとクロマルの空間魔法を合わせることが出来れば……。
一瞬、肌が泡立つ。
何か商売の法則を壊してしまうイノベーションのような――
私はいつの間にか『妄想仮定恋人ごっこ』というものから大分脇道にそれて思考に没頭していた時、精霊の侍女達がくすくす含み笑いをしながら、黄色い雷の賢者用のドレスを持ってきてくれた。
そして私はそのドレスに目を奪われることになる。









