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エピローグ

※第三十話のあとがきにて、「打ち切りみたいな雰囲気で終わりへ向かうと思います。未完結のまま放置はしたくなかったため、どんな形であれ完結はさせたいと思ってのことです。」と書いたにもかかわらず結局未完のまま5年も放置していて大変申し訳ないです…。


 せめて主人公とヒロインの最後だけでも綴りたいと思い、ラストシーンとエピローグだけ文章にしました。



※以下、前回のあらすじと、今話に至るまでのプロットによる説明です。


・前回のあらすじ

 革命を起こすと決めた主人公・ファラキルスと、彼の上司であり彼の背中を押したジハード、国を間違っていると嘆くヒロイン・エトワール。ジハードの味方が革命のための戦力を集めており、ジハードはファラキルスとエトワールを連れて、仲間と合流するべく隣国との国境へ向かう。

 一方、ファラキルス達の仲間であるカルトとセスとジエロは王都に残り、革命を起こした際に民衆を味方に付けることが出来るように立ち回る。


・以降、今話に至るまでのプロット

 ジハードの味方側と合流したファラキルス達は革命を起こす時期を窺っていた。カルト達が民の信頼を得られていない状態で動くことは避けたい。時期を見計らう間も戦力を増やし、各々鍛錬に励む日々。そして時を経て攻め入る日程を決めた日に、エトワールはファラキルスとジハードに安全な場所で待機しているよう言いつけられる。

 エトワールは戦えず、人を殺すことも出来ない少女だ。戦場に連れていく訳にはいかない。全てが終わったら連絡すると言われ、王都を戦場へと変えに行く彼らの背を見送った。

 けれどエトワールは戦いに向かったファラキルス達も、王都に残っているカルトのことも気がかりでならなかった。大人しく待とうとしたが、一人で呑気に待っている自分に嫌気がしてファラキルス達のいる王都へと向かっていった。

 彼女が王都に着いた時、街路は悲鳴と剣戟で満ちていた。争う人々から隠れるように城へと向かう。

 ファラキルスが王城で戦っているのだろうと、エトワールは彼の武運を祈って走った。


 点々と散らばる人体と血痕が、絨毯の模様を隠してしまうほど──そこには死が転がっていた。エトワールはここに辿り着くまで、いくつもの亡骸を見てきた。これが戦なのだと、あざあざと突きつけられてきた。それでも走り続けた足は、頽れてしまいそうに痙攣する。


 砕け散った窓硝子を踏み砕き、泥濘じみた腥血を擦り鳴らし、広間の奥へと進む。エトワールの耳には自身の心音と呼気だけがうるさく響いていた。


 奥の奥。いくつもの死を踏み越えた先で、白らかに注ぐ夕陽が、彼女の探し人を美しく照らしていた。


「ファラ、さん……」


 朱殷の中に横たわるファラキルスの体。白磁の肌も彼の衣服も紅く濡られている。その様を目の当たりにして膝が笑う。エトワールは、彼に影を落として崩れ落ちた。


「っ……なに、してるんですか……起きてください。私まだ、まだ貴方を許せてません……! まだ割り切れてません! それまで、それまで待ってって言ったじゃないですか……ッ起きてください、ファラさん! 起きて!」


 小さな手が必死に彼の肩を揺さぶる。エトワールの眼差しの先で、閉じていた瞼が苦しげに歪む。彼の睫毛がほどかれ、血色の瞳に少女の泣き顔が映り込んだ。虚ろな虹彩に反射する童顔は引き攣った安堵をかたどった。


「い、生きて、たんですね……」


「エト、手を……」


 力無い吐息に呑まれそうなくらい掠れた声。それに呼応してエトワールが手を持ち上げれば、彼の指が震えながら細い手首を握る。エトワールの手の平に触れたのは、彼の拳銃だ。彼はエトワールにそれを握らせると、灯火に似た微笑みを携えて、ささめいた。


「殺して、くれないか」


 涼風に吹かれ、今にも消えてしまいそうなファラキルスを見つめて、エトワールは身動ぎ一つ出来なかった。彼の頼み事を頭の中で糾返あざかえしてその意味を咀嚼する。簡単な言葉なのに今のエトワールには理解が追いつかなかった。握りこんだグリップの温度すら彼女には分からない。彼女は一心に思考していた。


 エトワールは思う。自分にとってファラキルスは、大切な家族を殺した男だ。だから何度も死を願った。けれど彼が大切な命を奪ったのはそれが彼の仕事だったからだ。国によって絶滅させろと命じられている、人喰いの銀狼。当時の彼は人を喰わない銀狼もいるのだと知らなかっただけだ。彼はそれを知り、自分の知らない世界を知り、エトワールの言葉に耳を傾け、罪を謝ってくれた。


 許せるかと問われたならば答えは出せない。しかし、殺せるかと問われたならば、その答えはエトワールの胸裡でしかと固まっていた。


「嫌です……私は誰も殺しません。貴方を、殺したくありません!」


 エトワールの決意は高く響いて静寂に霧消する。彼を生かさなければと手を伸ばし、胸元の深い傷を必死に押さえた。溢れる血が止まらないのを肌で感じながら、エトワールは泣き出したい気持ちを堪える。風声ほどの静けさで、彼がうわごとみたいに呟いた。


「……俺は貴方に……少しでも、償うことが出来ていたか……?」


 それはエトワールの耳朶に触れて深くまで刺さっていく。深く、心臓を貫けるほどの言葉。肺腑を抉られて声帯を締め付けられ、エトワールは黙り込んだ。逃げたいと言わんばかりに彼から離れた手が、床に捨ておいた拳銃をなぞる。


 ──私はどうしたらいい?


 彼女は喘鳴を漏らして自問する。


 エトワールは分かっていた。彼が、許されて終わりたいのだと。彼が、償えたと実感してから死にたいのだと。分かっていた。彼の望み通り引き金を引いて、この手でその呼吸を止めたなら、彼は、償うことが出来たと感じられるのだろう。


 けれども銃を握ることすら出来ない。逃避する脳室で熟考して違う道を案出する。そんなことをせずとも、彼を罪から解放することは出来るのだと、思い至る。


 銃身を撫でた手の平は汗ばんでいた。エトワールは乾ききった唇を開く。声は出ない。


 私はもう、貴方を憎んでいません。


 口に出せなかった。伝えたい言葉は喉元で絡まったまま音にならない。そんな最中で彼が瞼を伏せたものだから、エトワールは己の顔が焦慮で染まっていくのを自覚していた。


「ま、待って、お願い、目を閉じないでください……!」


「エ、ト……」


 彼の手がエトワールの襟を掴む。引き寄せられるままに項垂れると、何かを告げられた。幽かな息吹は冷たい空気に染み込んで掴めなくなる。息がかかるほどの距離にいるというのに、彼の熱は一つも零れてこない。エトワールは錆び付いた人形のようにぎこちない動作で首をもたげた。


 眩いほどの夕紅が雲に隠され、室内に蒼然たる影が落ちる。銀色の眼がファラキルスを嘱目する。血管が見えそうなほど透きとおった頬に手の平を這わせる彼女。触れた表皮の冷たさに奥歯を噛み締め、睫毛を濡らしながら彼の手を握る。まだ、彼のどこかに熱が灯っているのを、感じたかったのだろう。体温を奪われるばかりの現実に、彼女は嘔吐いた。


「なに……なんて言ったんですか……もう一回、言ってください。聞こえなかったんです。ねぇ、ファラさん。ファラさん!」


 呼びかけても返事はない。動かない彼にしがみついていれば、背後から首根っこを掴まれて、エトワールは息を飲んだ。だが切迫した怒声は聞き慣れた声だった。


「っなにしてる桃色頭!」


「ジハードさん……ファラさんが……!」


「見りゃわかる! だからっていつまでもそこにいるな、向こうにはまだ敵がいるんだ! なんで戦えもしないのにココまで来た!?」


「っ私は皆さんに……!」


 死んで欲しくなかった、と言いかけた唇は引き結ばれた。ジハードの言う通りだと彼女も理解していた。戦うのをやめて話し合おうと彼女が訴えたところで、始まった殺し合いは簡単に終わるものでは無い。戦場で彼女は足手まといに他ならなかった。


 ジハードが歯噛みしているエトワールを抱き上げ、駆け出した。廊下に靴音を響かせ、彼は適当な扉を開け放つ。室内に誰もいないことを確認してから、彼はエトワールをそこへ放ると、扉を固く閉めた。


「お前はそこにいろ、絶対にそこを出るな! 終わったら迎えに行く……!」


「で、でも! 私……!」


 冷たいドアノブに片手を伸ばすも、エトワールはそのまま腕を垂下させた。誰も殺したくないと望む自身が、力になれることは何もない。拳を握りしめて硬い感触に目を落とす。ファラキルスの拳銃を、手にしたままだった。彼のことを想起して顔が歪んでいく。


 エトワールは暗室の中でうずくまった。拳銃を胸にかき抱き、歯を擦り鳴らす。


「……ファラさん、ごめんなさい」


 溢れた涙は彼女の視界をぼかしていく。


 彼女は祈る。せめて彼の望んだ結末になるように。せめて、彼が幸せな眠りに落ちていけるように。


 彼を苦しませる罪が、溶けてくれるように。


     *


 お元気ですか? 私、エトワールは元気です。


 お手紙を書いてお供えしたら届くんじゃないかって、ジハードさんに言われたので書いてみました。


 ファラさん、私は、貴方に出会ってたくさんのことを知りました。私達の一族以外の人々のこと。この国のこと。悲しいことも嫌なことも沢山ありましたが、何も知らなかった時の私よりも、大人に近付けたような気がします。


 何も知らないのは幸せでした。でも、知らないままだったら何も変えられなかった。私の一族にとって大切な銀狼を、簡単に殺すこの国。私の一族を利用しようとするこの国。それに怯えて逃げることしか出来なかったでしょう。逃げ続けていても、いつかは捕まったのでしょう。


 ファラさんが国のことを知っていく姿を、私の味方になってくれる姿を傍で見ていて、私自身も前に進めました。革命の時、私は何も出来なかったけれど、なんの力もないちっぽけな子供だけれど。変わったこの国で、少しずつ何かを成せる大人になっていきたいです。


 そう、変わったんです。この国。今はジハードさんが一番偉い人になって、差別や貧富の差がなくなるように動いてくれています。難しいことは分からないのですが、血筋に関係なく国民も政治に関われるようになったとか……。ジハードさんがよく分からない言葉で説明してくださったのですが忘れてしまいました。子供には分からない話です。


 カルトさんとセスさんは、革命の時に亡くなったと、ジエロさんから聞きました。お二人は王都の人たちととても親しくなっていたみたいで、死ぬ間際までこの国が間違っていると訴えるお二人の姿に胸を打たれ、武器を握ってくださった方々も多くいたと聞いています。ルクスさんが処刑された時の言葉を覚えていて、行動してくださった方もいたみたいです。


 そういえば、敵将を討ったのはファラさんだったとジハードさんから聞きました。貴方は、フェルドさんや王族を倒してくれたと。一人で何人倒したんですか、だからあんなに傷付いていたのですね。貴方は、本当に、無茶ばかりしますよね。


 私、今は、ちゃんと言えます。ファラさんに、ありがとうって。ほんとは、ちゃんとこの声で伝えたかったんです。いいえ、伝えたいことはほかにありました。


 ファラさん、私はもう貴方のことを憎んでいません。


 貴方がしたことは許せないけれど、貴方の優しいところを知ってしまいました。貴方という人を知れば知るほど、殺したいなんて思わなくなりました。貴方は罪人だけれど、貴方は悪人じゃありません。


 私、貴方のこと結構好きだったんですよ。ヘイルさんの次くらいに好きでした。あっ待ってください、やっぱり家族も入れさせてください、うーん、五番目くらい? とにかく、殺したかったのに、好きと言えるくらいには貴方のいろんな一面を見つめてきました。


 私はもう貴方のことを引きずりません。だから貴方も、私のことを引きずらないで、幸せになってください。


 私もたくさん幸せになってから、また貴方に会いたいです。私が見てきたもの、私が学んだこと、楽しかったこと、たくさん貴方に聞かせて自慢したいです。だから待っててくださいね。


 おやすみなさい。


完結です。

この作品は中学生くらいの頃に練り始めたもので、今となっては書き直したいところが多く、長い時を経て忘れてしまったことも多く、続きを書けていませんでした。

他の作品を書いているうちにこの作品のことは忘れていたのですが、ふと思い出し……書き途中で放置はやはり嫌だったので、完結という形にはしたくて結末だけ書くことにしました。

ポジティブな話だけしますと、書きたい結末を書けたこと、未完の連載作品をなくせたことはとても嬉しく思います。

プロローグからエピローグまでで本当に長い年月がかかっているので、作者の文章力の成長が見えたら…嬉しく思います。そして画力も大分成長したのでこの作品の自作挿絵はどれも恥ずかしいですね…。文章や絵の新作にご興味がある方はぜひ探してみてください…。

お読みいただきありがとうございました。

あまりにも古い作品で恥ずかしいので、検索除外の設定にさせていただきます。

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