第3章 魔導士と反転の間隙
カイは木の枝から跳び降り、森の最奥へと進んだ。
木々が不自然に枯れ、地面に魔力の黒い霧が漂っている。
「……やっと会えたか」
そこに立っていたのは、黒いローブをまとった長身の男。
顔の半分を仮面で隠し、手には禍々しい杖を握っている。
『影の魔導士』――黒森を支配する中ボス級の存在だ。
「冒険者か。珍しいな、物理偏重の小僧がここまで来るとは」
魔導士は低く笑う。「だが所詮、魔法の前では無力。味わえ、死の炎を」
杖が輝き、詠唱が始まる。
「――灼熱の業火よ、すべてを焼き尽くせ!」
前方から巨大な火球が高速で飛来した。
直撃すれば即死級の威力。
だがカイは動じない。
「反転!」
自分の体を反転させ、後方へわずかに飛ぶ。
即座に再反転。前方への加速が爆発し、火球の軌道を紙一重でかわした。
「魔法自体は反転できない。でも――俺の動きは自由だ!」
魔導士の目がわずかに見開く。
「ほう……? 物理だけとはいえ、よく避けたな。だが次は――」
次の詠唱が始まる。今度は左右から氷の槍が同時に飛来。
カイは地面を蹴り、近くの木へ跳躍。
落下開始→反転で上空へ跳ね上がり、
上昇中に再反転して急降下。
氷の槍をすり抜けながら魔導士へ一直線に迫る。
「遅い!」
「チッ……この距離で!?」
魔導士は慌てて詠唱を中断し、後退しようとする。
だがカイは着地と同時に木を蹴って連続反転。
森の中をジグザグに加速しながら、瞬時に間合いを詰めた。
「反転スキル・応用……『間隙疾走』!」
詠唱の間隙を狙い、反転連鎖で一気に距離をゼロにする。
魔導士の胸元に双剣の切っ先が迫る。
「させるか!」
魔導士が杖を振り、風の壁を展開。
しかしそれは魔法――物理反転では直接はね返せない。
カイは風の壁の直前で自ら反転。
後方へ飛んだ勢いを即座に再反転し、壁の側面をすり抜けるような軌道で回り込む。
「風も反転できない。でも風が吹いてる『空間』の中を動く俺は、自由に軌道を変えられる!」
双剣が閃き、魔導士のローブの袖を切り裂く。
血が飛び、魔導士が初めて苦痛の声を上げた。
「くっ……この小僧、ただの物理使いではないな!」
魔導士が本気になり、杖を地面に突き刺した。
「ならばまとめて葬る! 『黒死の嵐』!!」
周囲の空間が歪み、黒い風と雷が混合した死の嵐がカイを包み込む全方位攻撃。
普通なら逃げ場はない。
だがカイは高く跳び上がった。
「落下……反転!」
上空へ跳ね上がり、嵐の上空に逃れる。
さらに上昇中に反転して急降下。
嵐の隙間を狙いながら、魔導士の頭上から襲いかかる。
「天空反転刃・改!」
ズガァァンッ!!
双剣が魔導士の肩に深く突き刺さる。
魔導士が膝をつき、杖を落とした。
「まさか……物理だけで、魔法の嵐を……」
「魔法は反転できない。でも詠唱の間、動きの隙、軌道の予測――全部物理だ。
俺の反転スキルは、そこを突くためのものなんだよ」
カイは双剣を抜き、魔導士の喉元に突きつけた。
「降参するか? それとももう一回、森の中で踊るか?」
魔導士は苦笑いを浮かべ、ゆっくりと両手を上げた。
「……認めよう。お前は、物理の化け物だ」
森に再び静けさが戻った。
カイは息を整えながら、空を見上げる。
「魔法使い相手でも、やりようはあるな……
でも本当の強敵は、まだこの先にいる気がする」
彼は双剣を収め、軽く木の幹を蹴って反転跳躍。
黒森の奥深くへと、再び疾走を始めた。
(第3章 終わり)




