17-2 八日目の出掛け先は
先を行くミシュエルについていくあやねが一階の音楽教室の受付前を通って外へ出ると、モノレールの駅がある大通りへ歩いていき、十字路の手前でタクシーを拾って目的の市営競技場へ向かった。
「ミシュウさん、競技場へ行ってどうするんですか?」
「行けばわかる」
「……そうですね」
季節的に暖かくなってきたので日が長く、午後七時前でもまた空がうっすらと明るい。
目的の場所には十分足らずで着き、タクシーを降りると、正面奥に照明の点いたフィールドが見える。
陸上部員たちだろうか。こちらも県大会が近いのでまだ走り込みをしている選手たちがいて、コーチのゲキが飛んでいる。
ミシュエルはスタンドへ行くとゴール地点が見える一番前の席に座るので、あやねも左隣に座り、さらに左側の席にアーモのバッグを置くと、中から出して抱っこする。
「何とか間に合ったな」
「何がですか?」
「目の前を見ろ」
「目の前ですか? アアッ!」
ゴール地点に数名の選手がかたまってコーチの話を聞いているが、選手たちは、数日前に駅前のデテーラで話をしていた北条高校のメンバー。
そして、その中にセイジツがいる。
「ここで練習してるんだ!」
「競技場へ行くと聞いてわからなかったのか?」
「エッ?」
「……もういい。見てろ」
「はい!」
これから走り込みを始めるのかと思っていたら「じゃあ、今日の練習はこれまで。明日もここで練習だからな」
「はい! ありがとうございました!」一礼して練習が終わる。
「エーッ! 終わり? そんなぁ」あやねがガッカリすると「ワンワン!」突然、アーモが大きな声で鳴きだす。
「ワンワンワン!」
すると、選手たちの荷物が目の前のベンチに置いてあるらしく、こちらへ向かってくるセイジツがアーモの鳴き声に気づき、あやねとアーモを見ると「あれ? 君はこの前、座山駅で会ったブラックタンの仔じゃないか」目の前に来ると、一メートルほど高くなったスタンド席を覗きこむ。
「覚えててくれたんですか?」
「もちろんだよ。そういえば最近、連絡通路先にいないけど、何かあったの?」
「エッ?」
「あ、逆? もしかして、今まで用事があってあそこにいたの?」
「あ、いえ、その、ちょっと……」
「ハッキリ言え」業を煮やしてミシュエルが急かすと「ワン!」アーモが止める。
「えっと、チョコ君だっけ? ブラックタンの仔」
「あ、いえ、アーモ君です」
「アーモ? あ、もしかして、顔の形がアーモンドに似てるから?」
「違う!」即否定のミシュエル。
「ワン!」同意と鳴くアーモ。
「……隣の人は……外国人?」
「違う」
「ワン!」
「あ、え、あの、アーモ君の飼い主です」
「違う」
「ワン!」
「……あ、気にしないで! なんでもないの!」
「……そうなの?」
その時、後ろから「セイジツ! 行くぞ!」と陸上仲間が呼ぶので「今行く!」返事をし「もう連絡通路のところには来ないの?」と聞くので「あ、いえ、その……」
「明日は行けるだろう?」とミシュエルに言われ「行っていいの?」
「ワン!」
「お前も一緒に来るのか?」アーモに話し掛けると「ワン!」と鳴くので「そっか。じゃあまた明日な」
「ワン!」
セイジツは返事を聞くと、ベンチに置いてあるバッグを持って仲間のところへ走っていく。
「私たちも帰るぞ」ミシュエルが立ち上がるので「あ、はい」アーモをバッグに入れる。