第三十八話-運命の歯車
これと一緒に、序章も自分の文で書き直しましたので、
ぜひ見てくださると嬉しいです!
藤山の過去を明かす間に、太陽はすでに没し、天狗山の上からのびる月光が、二人を照らしていた。
「その後俺は、この異能を利用して探偵を営み、なんとか自立して生きてこれたんだよ」
藤山は杉本の方を向いて言った。
杉本は、藤山の悲しさを押し殺した微笑みをみて、胸の奥がキューっと締め付けられる。
「紅蓮は俺がいなくなってすぐ、突然の病に倒れて死んじまった。その紅蓮の息子で、若くしてこの国の領主になったのが郷田蒼蓮だ」
一拍間をおいて杉本が問う。
「じゃあお前は、紅蓮…いや、蒼蓮を恨んでんのか」杉本は、回答を聞くのが怖かったのか、無意識に目を逸らしていた。
藤山はそれを見て微笑して口を開いた。
「そんなわけないだろぉ?」
藤山は突然、元気の良い声を出すと、杉本は驚いたように目を合わせた。
「俺が関係ないやつを恨むわけないだろ?それに……」
藤山は肩を落として続けた。
「本当は別に、親父のことを怒ってるわけじゃないんだぜ……あの日、俺を突然国から追い出したのも、俺を郷田たちから守るためだったんじゃないかって思ってる。でも――」
藤山は俯きながら、言葉を絞り出した。
「一言ぐらい、何かなかったのかよ……」
浮き上がる硫黄の蒸気は、嘆いても変わらぬ過去を突きつけるように、ただ同じ景色を繰り返す。
「ま、どうせ昔の話だ。今は昔みたいに地獄のような生活を送ってないし、すこーし大変だが、相棒もできたしな?」
藤山は杉本の顔を覗き込んでニヤリと笑いかけた。
「お前なぁ?昔の話だし、どうでも良いみたいなこと言ってるが、俺はそうは思わないぜぇ?」
「――翔」
「嫌なことがあんなら言ってやりゃあ良いんだよ。“親父のくせに、ふざけんなよ!”とか、“俺のこと見捨てやがって!”とかさぁ」
藤山は被せるように声を張る。
「だ、だから怒ってるわけじゃないって!」
「でも!」
藤山はその言葉に、胸の奥がどくり震えた。
「話さないと、一生後悔するぞ。お前の本当の気持ちを、ちゃんと伝えんだな」
翔のやつ…こういう時だけ、意味がわからんくらい鋭いんだな――
「ああわかったよ。ちゃんと、親父と真正面から話してみるよ……」
藤山は少しだけ顎を高くし、諦念するように言葉を溢した。
「んじゃ、お互いの悩みも解消したことだし、上がるとしますか」
杉本はそう言って立ち上がった。
「そうだな」
藤山も遅れて立ち上がる。
突然、後ろの扉から、物音が聞こえ出した。
二人は扉の方へ目線を集める。
次の瞬間、ガラガラと扉が開かれ、そこから現れたのは裸体の女性。純白の布切れで、体を隠していた。
「ああ、あの人、この宿の受付のところにいた人だな」と藤山。
「そういえばここの温泉、男女で分けられてなかった気がする……」と杉本。
連枝はすっと顔を合わせて同時に言った。
「てことはここ――」
――混浴かよぉぉ…。
女性が扉から出てきた瞬間、強い向かい風に襲われた。
女性は驚いて短く悲鳴をあげ、思わず目を閉じた。すぐに風が止み、目を開けて辺りを一瞥するが、なんの異変もなく、誰も立ってはいなかった。
「い、今のは……?」
夜が明けた火前の街は昨日と変わらず、濃い硫黄の霧がすべてを白く包み込んでいた。
東から姿を見せるお天道様の朝日が、大地を橙色に染め上げる。首を百八十度回すと、火中――火山が堂々と聳え立っていた。
連枝は、朝の景色を眺めながらも歩みを止めず、再び郷田の屋敷へと足を踏み入れる。
藤山は「今日こそ親父と真正面から話す」という翔との約束を胸に、静かに覚悟を決めていた。
だが、屋敷の廊下を進む二人の前に、血相を変えた出井が飛び出してきた。
「大変です! 秀真様が、昨夜から行方がわかっておりません!」
出井の焦燥しきった声が、静かな屋敷に響き渡る。
「……親父が、いない?」
藤山は息を呑み、杉本も目を丸くして立ち尽くした。
やっと過去と向き合い、本音を伝える覚悟を決めたその瞬間に、父親が煙のように雲散霧消してしまった。ようやく動き出そうとした二人の運命をあざ笑うかのような最悪の報せに、連枝はただ激しく驚愕するしかなかった。
少し短く終わってしまいましたが、
引きを強くするためにここで終わらせていただきました。
続編も期待して待っていてください。
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