第143話、仮面の男
そしてシナリオはこうです。特別に身分を偽装して亜人国家ハルシオンのダークエルフ族の王族に扮する僕が、奴隷として売られている同胞を助けるためにオークションに参加。そんな僕はターゲットを確認したら、力を使い速やかに連れ去ると。因みに別働隊もいて、そちらはニコライの邸宅に突入するそうです。
そうして中継地点である商業国家連盟トウセイに着いた僕は、真剣な表情で姉さんの瞳を見つめると——
「姉さん、行って来ます! 」
「アルカナ、手に負えないと思ったら逃げますのよ。……それとこれを私だと思って大切にして下さいね」
「ありがとうございます」
お守りを貰った僕は、ルージュ姉さんと別れます。その代わりにダークエルフで壮年である執事役のコーネリアスさんと、ルージュ姉さんと同年代に見えるコーネリアスさんの孫娘と言うスーザさんと合流。また専用の綺麗な馬車、そして僕の服装をタキシードに変えレイジンに入国です。
それからの旅路、無事テイユンに到着した僕達三人はオークション会場近くの高級なホテルの一室に一泊。またそこでコーネリアスさん達と明日の夜に開かれる奴隷オークションでの動きやニコライの人相などを再度確認して行きます。
そして逃走経路の仕上げを行なっていっていると、コーネリアスさんが微笑みかけて来ました。
「しかしアルカナ君、貴方はお亡くなりになられたお館様の幼い頃にとても顔が似ていらっしゃる」
「そうなんですか? 」
「えぇ、それと香りも」
「えっ、香りまでわかるのですか? 」
「はい、我々ダークエルフ族は鼻が効く種族だからですね。しかし貴方の母君がハーフダークエルフだと聞いていますが、ここまで似ているのはもしかしたらどこかで王族の血が流れているやも知れませんよ」
「はははっ、それだけはないですよ」
僕やおっちょこちょいなリーヴェ母さんが王族だなんて。でもルージュ姉さんとロージュ姉さんは優しい中にもキリッとしている部分があって、下手な貴族より雰囲気があるかもです。
そうして次の日の晩、僕達は煌びやかな街中を馬車で移動してオークションが開かれる三階建てである館の玄関先まで移動します。そして下車した僕とコーネリアスさんはスーザさんが馬車を邪魔にならない場所に移動させる中、堂々とした足取りで正面入り口から館内へ入ります。
しかし——
「凄い警備ですね」
僕の呟きにコーネリアスさんが首肯で応えます。またレイジンの要人が参加する事もあるこのオークション会場の外の警備に、あのレイジンの裏の組織である暗殺部隊ジンの息もかかっていると噂されています。
ここは変に怪しまれないよう、間違っても魔力回路を起動させないようにしないとですね。
そして通路を進み三階まで座席が並ぶ吹き抜けの会場に入った僕達は、案内された一階席の中央の座席に腰を下ろすと正面のステージに視線を送ります。
これからここで人の売買が行われるのですか。カタログを見れば今回二人のダークエルフが売りに出されるそうですけど。
そこで辺りを見回すと二階三階にはテーブルと椅子が置かれており、着飾った身なりの良い多くの男女の姿が。あと出入り口は各階に一箇所ずつ。
しかし会場は、香水の匂いがきついです。それとまだニコライはいないみたいです。でもニコライは必ず来ます。自身で言うのもなんですけど、僕と言う囮がここに来ているのだから。まぁ来なかったら来るまで参加する事になるのですけどね。
そしてオークションが始まります。売りに出されている人種の中に人族もいましたけど、その多くが若い亜人達であります。みな誘拐された子供達なんでしょう。また首輪を装着させられたその姿を見るのは心が痛みます。
「アルカナ様」
「はい」
そしてコーネリアスさんが一瞬目配せした三階席に、ニコライの姿を確認します。
現れましたね。
それからオークションは進んでいくのですけど——
突然会場が暗くなり、僕達を照らすようにスポットライトが。そしてアナウンスが流れ始めます。
『会場の皆様方、今宵はカタログに無い特別な出し物があります。それはなんとあのダークエルフの王族の男の子。同胞を買い戻そうとはるばる訪れたのに、自身が売りに出されるとも知らずにノコノコとこの場に来てしまった可哀想な男の子。ただこれより捕縛しますので少し傷が付いてしまうかもですが、それでも良ければこれより入札をお願いします』
すると会場全体から値段を口にする声が上がり始めます。その中心に立ち尽くす僕達は、まるで狂気の炎に焼かれるようであります。そして係の者が僕を捕まえようと近寄って来ました。
うーん、よし。この場にいる全員、お仕置きしないとですね。
「コーネリアスさん、行きます! 」
「わかりました、それでは!」
コーネリアスさんが蹴りで係の者を吹き飛ばした後、その場に飛び上がり宙返りします。
そうして会場にいる全員の視線をコーネリアスさんが集めてくれる中、僕は床に片手を触れ唱えます。僕のとっておきの一つ、召喚魔法を。
『11人の戦乙女』
すると外界に音が漏れない色褪せた世界、テリトリーが屋敷内に展開された上で床に広がる僕の影から次々と飛び出してくる、霊体構築されているため青白い光を放つ人影達。それは僕の11人の姉さん達であり、回復魔法と幻影思考が扱える上で各々の武器や闘気術を巧みに扱う戦乙女達。
因みに召喚中、アルド父さんと四人の母さん達が姉さん達の実体を守ってくれている手はずです。また僕は召喚者と遠く離れていても、テレパシーでやり取りが出来るようにもなっています。
「アルカナには指一本触れさせないですから、安心してね」
そう言いながらルージュ姉さんの霊体が、僕の前に陣取ります。
そして逃げ惑う観客達に姉さん達が幻影思考を唱えて行く中、鋭い視線を感じとり上を見上げます。すると仮面を被った男がニコライの隣に佇んで僕を直視していました。
◆ ◆ ◆
あのダークエルフの少年、私の視線に気がついたようですね。
第十三部隊から離脱した私は、仮面を被り身分を偽った上で主人を転々として現在ニコライに仕えるようになりました。そして第十三部隊、脱退当初はよく私に刺客を送り込んでいましたが、十数年前ダンジョンで多くの人員を失って存続の危機に陥ってからはパタリと襲撃が無くなりました。何者か分かりませんが第十三部隊を削ってくれた者に感謝ですね。
「えぇい、ジーザス! どこからあの青白い兵隊達が出て来たのですか? 」
ニコライが怯えた様子で私に質問を投げかけてきました。
「ニコライさん、驚く事にあのダークエルフの少年一人が仲間を召喚しているようです。ただそのため、恐らくあの少年の手足の一本でも奪えば精神力を維持できなくなり仲間が消えるはずですが」
「なんだと、……あのダークエルフの少年を傷付ける事は私が許しません。あれだけの上玉はそうそう手に入るものではないからですね。あやつは私の一番のコレクションに加わる予定なのです。だからどうにかして絶対無傷で捕らえて下さい」
難題を言いますね。
因みに今あのダークエルフを守るために陣取っている執事の男とフォルムからして青白い女、魔力回路が全て起動しているようですしかなり出来ます。そして他の仲間達も、あのドラゴニックオーラを纏っている者も複数人いますしかなりの使い手のよう。来賓客達も護衛を付けていますが時間と共に動ける者が減っていっていますし。
そしてダークエルフの少年を捕縛するにはニコライの護衛が疎かになってしまいますが、本人の命令。危険を承知の上で指示を出したとみなします。まぁ使える暗器使いのチェンにニコライを守らせれば私が少年の意識を刈り取る間くらいは安全かもですが。
「わかりました。チェン、あなたはニコライさんを頼みますよ」
「キヒヒヒッ、先輩任せな」
チェンの返事を待ってから、私は三階からその身を投げ出します。そして音もなく着地すると同時にデビルオーラを纏い、少年との距離を詰めます。と見せかけてまずは邪魔な女の方から片付けますか。そして爆発的な闘気を纏ったデビルインパクトで女の頭を吹き飛ばそうとしたのですが、別の者が割って入ってきて私の拳を盾で受け止めます。
「片手が無い上にその闘気! まさかお前、オレの爺ちゃんに致命傷を負わせたと言うナナシって奴か? 」
「そう言うお前はやはりラーグの血縁者か。面白い」
邪魔なそいつ等をすぐに退場させようとするのですが、私の攻撃はドラゴニックオーラに包まれている者が防いでいきます。とそこで、音もなく私の首筋に斬撃が。それを紙一重で躱したつもりでしたが、首筋に一本の傷が。新手ですか。しかしこの二本の短剣を持ったこの女、私に傷を負わすとはかなり良い武器と練られた闘気を纏っていますね。




