4話 予期せぬトラップ
「ほらほらほら、ヨハン? よぉ~く見ておきなさい! これが私の本当の実力よ!!」
モンスターとの開幕初戦。
ツンデレお嬢様が非常にご機嫌に戦ってらっしゃる。
相手はなんと、かの有名な魔主混獣さん。
捜索初手にて、まさかの上階層ヒエラルキーの頂点に位置するモンスターとのエンカウントである。
ライオンの身体に、ヤギの頭、背中には蝙蝠の羽があり、そして尻尾は蛇というわけのわからん姿のモンスターだ。
しかし、そんなナリして、こいつが恐ろしく強い。
そう、普通なら。
普通なら我々が同情することもなく、激戦の果てに打ち倒すようなモンスターなのだが、目の前の光景を見ると魔主混獣に同情せずにはいられない。
ローズリリイの持つ炎剣ヴァルフレイア。
見た目は細剣のような装飾剣なのだが、鞘から抜いた刀身は片刃のサーベルのような形状だった。刃の腹には、これまた古代文字で何やら書いてあるが、童貞にはまったく読めやしない。
そんな謎の古代文字は、ローズリリイの意思に応じて輝くと、瞬く間に切っ先から爆炎を放つのだ。
それがこの剣の権能【真炎】。
権能が発動すると、ローズリリイが一振りするだけで、大地が灼熱のマグマと化す。
しかも射程も長く、その攻撃範囲はおよそ三百メートル。
空を飛ぶ魔主混獣さんが、ローズリリイの放つ炎で、まさかのフルボッコされたのだ。
もちろん魔主混獣も炎を吐くのだが、チャッカマンと火炎放射機くらいの性能差があるので、相手の炎すら吞み込んで燃やし尽くしてしまう。
「……魔主混獣の体毛には炎耐性があります」
モンオタのケイシーが、ぼそりとそんなことを呟くが、ローズリリイの炎で焼かれた魔主混獣が、上空からプスプスと真っ黒焦げになり落ちてきた。
……耐性とはなんぞや?
そしてドスンッと地面に激突すると、そのまま瘴気となって霧散した。
合唱。
「どう? ねえ、どう? 私凄くない? 空を飛んでる魔主混獣を倒したのよ!」
ああ、ツンデレお嬢様の脳汁が止まらない。ソロで魔主混獣さんを倒したことがよほど嬉しかったようだ。
通常、魔主混獣の討伐は、相手が空を飛び回るので、弓矢か魔法を用いて翼を射抜き、地上に落とす方法が主流とされる。
しかしそれでも並の腕では、翼どころか魔主混獣にすら擦りもしない。逆に返り討ちに合うまでがテンプレとも言える。
そんな強敵モンスターを、初めて手にした魔剣で、一方的に遠距離からフルボッコしたのだ。
剣の能力も凄いが、それを使いこなしたツンデレお嬢様の才能も大したもんだと思う。
「さすがです、リリイさん。その剣をいきなり使いこなすなんて驚きましたよ。しかも魔主混獣相手に圧勝じゃないですか! そのうちリリイさんに二つ名が付きそうですね」
アヘ顔ダブルピース嬢なんて最高にいかしてると思うんだがどうだろう?
「二つ名って大げさな……、でも悪い気はしないわね! ヨハンはどんなのが良いと思う?」
ゴブリンの孕み袋なんてのも良き。
「そうですね、爆炎の剣姫なんてリリイさんらしくて良いかと思いますが」
「それ、かっこいいわね! ヨハンのくせしてセンスいいじゃない! じゃあ、これからそう名乗ることにするわ!」
ん? あれ、二つ名って自ら名乗るものでしたっけ?
でもまあ、ツンデレお嬢様が気に入ってるのであれば、まぁいいか。
「では、皆さん。周りにモンスターも多いので、先を急ぎましょう」
童貞の気配察知に引っ掛かる大量のモンスター。
正直、さっきの魔主混獣を除けば、相手にするのも無駄な雑魚モンスターばかり。
戦って体力を消耗するよりも、出来るだけ戦闘を避けて下層を目指した方が良いと判断した。
もちろん、人の気配があれば、すぐにお声掛けに伺う次第なのだが、この近辺にそれらしき気配を感じることは出来なかった。
「でもさヨハン? こんな一階層で魔主混獣が出るなんてちょっと異常すぎないか?」
「……魔主混獣は希少モンスター。人よりも家畜の肉を好む習性があるので、冒険者の前に中々姿を現しません」
ラウルとモンオタケイシーから助言を頂戴した。
「そう考えるとさっきの魔主混獣は生まれたてで、腹を空かせていたのかもしれませんね。まさかいきなり襲われるとは思いませんでした。もしかしたら濃度の濃い瘴気のせいで、魔主混獣クラスのモンスターがわんさか湧いてくるかもしれませんね」
「隊長が、気配察知でいち早く魔主混獣を捉えてくれたおかげで、私たちは無傷で済みましたが、他の冒険者たちが同じように出来るとは思えません。早急にフィリスさんを見つけないと危険です」
「確かに。ルナさんの言うと通りですね。ここの森も、かなり様相が変わってきてるので、早いとこ下り階段を見つけましょう」
と言っても広大なフィールドダンジョンで下り階段を見つける難しさよ。
基地の人間に話を聞いても、奥の方としかヒントをいただけなかった。まだ情報共有もままならないこの状況。ハードモードもいいとこだ。
そして森の中をズンズン進んで行く我ら一同。
どうしてもモンスターの数が多いため、強制的にエンカウントするモンスターは、ツンデレお嬢様がご自慢の炎剣で葬ってくれた。
その後も、モンスターとエンカウントする度に、放たれる真紅の獄炎。
まるで汚物は消毒だと言わんばかりにモンスターを消し炭にしてくれた。
ちなみにこの権能【真炎】は、ローズリリイの意思とリンクしているので、燃やす対象を任意で選ぶこと可能となる。
よってフレンドリーファイアや建物などに燃え移ることもないため、森だろうが、市街地だろうが、お構いなしに能力をフルに発揮することが出来るのだ。
まあしかし、控えめに言っても最強だな、……剣が。
そのせいでツンデレお嬢様が、我が隊の戦略級超兵器と化してしまった。
魔力消費なしのノーリスクでこの威力……、これはもう童貞よりもチートと言わざるを得ない。
恐ろしや、ツンデレお嬢様。
再び童貞に斬り掛かってこないことを祈るばかり。
それからしばらく。
森の中を歩き続けてると。
「お、ヨハン? 見ろよ、なんかあるぞ」
ラウルが見つけたのは、二股に分かれる道の真ん中に置かれた大きな石碑。
これまた古代文字でなにやら書かれているが、知識のない童貞にはまったく読めずじまい。
「なんだろう、これ……。この前、視察に来た時にはこんなものなかったぞ?」
「隊長? この文字って、隊長やリリイさんの持ってる剣の文字と似ていませんか?」
「そう言われると確かに似てますね」
ルナ氏にそう言われたので、剣の腹に刻まれた文字と比較してみる。
「というか、もう書体が一緒ですね。じゃあこの石碑も何かしらの権能持ちの物体なんでしょうか?」
「権能持ちの石碑って。いくらなんでもそれはないんじゃないの? 調べるだけ無駄よ」
童貞が石碑をこそこそ調べてると、ツンデレお嬢様からまさかのツッコミを頂戴してしまった。
「一応、念のためですよ、リリイさん。何かしら重要なヒントがあればラッキーじゃないですか」
「ヒントって……、ヨハンってそういうところは子供ね」
お前に言われたくはないわと、心の中で思いつつも、しっかり笑顔を返す童貞。
ツンデレお嬢様は知らないだろうが、某RPGゲームとかだと、こういう石碑って何かしらの重要ポイントなことが多い。
ここは調べるコマンド一択で。
そんな童貞のゲーム根性が功を成したのか、石碑の背面に埋め込まれた小さな魔石を発見した。
ん、あれ、これどこかで見たような……。
「隊長? どうかしたんですか?」
「どうかしたってほどではないんですが、ここに何やら魔石があるんですよね」
まるでボタンのように押してくれと言わんばかりに、突出している小さな魔石。
触らない方が絶対良いんだろうけど、こういう物を見ると押したくなるが人のさが。
えいっ、ぽちっとな。
――瞬間。
童貞の周囲に展開されるいくつもの小さな魔法陣。
チキチキチキっ……と、時計の歯車のように回転していた。
「隊長!?」「ヨハン!?」「ちょっと何やってるのよ!」
「え、あれ!? もしかして触っちゃダメなヤツだった? というかみんなすまん!」
そんな童貞の言葉を最後に、魔法陣から突如発せられた光が童貞の身体を包むこと一瞬。
あまりの眩しさに閉じた目を開くと、周囲の景色が一変していた。
緑豊かな森の中から、岩壁剥き出しの洞窟の中へと転移した童貞。
目の前には、三階建ての家屋くらいはありそうな、巨大な白水晶が童貞の視界に入った。
それはとても幻想的で美しく、キラキラと星のような優しい輝きを纏っていた。
童貞がそんな巨大水晶に見惚れていると――。
「誰だ!?」
――背後から聞こえた若々しい少年の声。
振り返ってみれば、そこには槍を構えた銀髪の美少年の姿があるではないか。
「動くなっ!! 下手な真似をすれば刃を突き刺す!!」
どうやら、完全に警戒されているもよう。
当たり前か、こんなわけわからん奴が突然現れたのだ。少年でなくても警戒すると思う。
とりあえず彼に危害を与えるつもりはないので、両手を軽く上げて害意がないことをアピールしてみる。
「驚かせてすみません、こちらには戦闘の意思はありません。少しお話を聞いていただけませんか?」
そう語り掛けるも、少年は小刻みに震えるばかり。何かよほど怖い目にあったのだろうか? 女の子ような顔してるし、そっち系のおっさんに襲われてないと良いのだか。
「嘘だっ!! そう言って僕を不意打ちするつもりだな!? 僕に信じて欲しければ、着ている服を全部脱いで、裸で四つん這いになれ!!」
えっぐ。
少年のくせに要求えっぐ。
え、待って、理解出来ない。
全裸で四つん這いて。
童貞のケツにその槍をぶっ刺すつもり?
その歳で、その顔で、そのプレイはあかんて。誰かに開発でもされたんか?
そんな少年の要求に、童貞が困惑していると。
「……これこれ、リアムよ。わしの客人を困らせるではない。武器を下げるのじゃ」
少年の背後から現れた白く長い髭を生やしたおじいちゃん。とんがり帽子にローブと、いかにも魔法使いらしい装いだった。
「じい様!? もう身体は大丈夫なのですか!?」
「リアムよ、何度も言うが、わしの身体は残留思念じゃから大丈夫も何もないんじゃぞ?」
「はい! ザンリュウシネンだとじい様が元気になるんですよね! わかってますよ!」
まじかよ。
二人の会話から推測するに、少年の理解力がちょっと残念な気がしてならない。
それよりも残留思念て。よく見たらじいさんの身体、半透明やんけ……。
「さてと。まずは、はじめましてじゃな。アルファリア王国のダンジョンマスター殿」
「……なっ!?」
まずった。
突然のことすぎて思わず顔に出てしまった。こういう時のポーカーフェイスは大事なのに。
というか、俺のこと言い当てるなんて、このじいさん何者だ?
「まぁまぁ、そんな警戒せんでも大丈夫じゃぞ? わしはこのジャスバールの元ダンジョンマスターじゃ。見てのとおりもう死んでおるがのう、ほっほっほ!」
そう語るとにっこり笑う魔法使いのじいさん。
こうして俺は、ジャスバールの元ダンジョンマスターだと言う老人と出会った。
童貞の運命の歯車はどんどん加速していく。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございました♪
明日も更新です!
応援ありがとうございます。
頑張ります!
よろしくどうぞ!




