3話 変貌したダンジョン
翌日、準備を整えた童貞たちは、さっそくダンジョンの出入り口兼冒険者ギルドへと向かった。
到着すると、そこは捜索隊や救出された怪我人でごった返し、各所から怒号のような声が上がっていた。
きっと現場は慌ただしいんだろうなとは思ってはいたが、これは童貞の想像以上だ。それだけ今回の事故の被害が大きかったとも言える。
「これは酷いな。昨日からの捜索なはずだけど、もうこんなに人で溢れかえっているのか」
「ヨハン、見ろよ。あそこに医療班が待機してるぞ?」
ラウルの視線の先には、エントランスホールの一角に設けられた白テント。次から次へと呻き声を上げた冒険者が運ばれている。
「あんなところで治療してるってことは、病院はもう患者の受け入れが出来ないのか?」
「みたいだな。城の回廊も病院に入れない人で一杯だったろ? しばらくは病院もパンク状態が続くんじゃないかな?」
多少の怪我なら童貞でも治せるが、重症を負った場合、すぐに治療してもらえるか微妙だな。まあ、イケオジに頼めば、童貞とツンデレお嬢様のように、VIP扱いで治療はしてくれるだろうけど、それはそれでなんか心苦しい。
「確かに……、これは下手に怪我は出来んな。ラウル、まじで怪我には気を付けろよ?」
「おいおい、ヨハンに言われたくないわ!」
「そうよ、一番怪我してんのあんたなんだからね!」
「確かに。また隊長が大怪我しないか心配です」
「うんうん、あたしも隊長が怪我をする未来しか見えない」
「……また入院しそうです」
ラウルに言ったつもりだったが、なぜか外野からも盛大なツッコミを頂戴した。
そんなに一斉に言わなくても。
こちとらラウルを心配しただけなのに。
く……、解せぬ。
そんな会話を交わしながら、ダンジョンの入り口を目指してズンズン進んで行く我ら一同。
しばらくして到着すると、扉の前には守衛と見られる武装した男が二人立っていた。
肌着も付けずに直に鎧を着用した、いかにも世紀末ヒャッハーな守衛である。
そして童貞たちを視界に捉えると。
「何用か? 現在、ダンジョンは封鎖中である! 用のないものは即刻立ちされぇい!!」
金剛力士像のような片割れがそう語る。
劇画のようなそのお顔、とても厳つい。
惰弱な頃の童貞ならば話し掛けることすらしなかっただろうな。
確実に顔面だけでアウト判定を出している。
「スコルツ卿から行方不明者の捜索の許可を得てここへまいりました。微力ながら我々も捜索に協力させていただきます。中へ入れてはいただけませんか?」
童貞がそう語ると、双子かよとツッコミたくなるような、もう一方の金剛力士が。
「ぬっはっはっはっは! 冗談にしては面白いじゃないか! その装備やランクプレートすらないところを見ると、冒険者や騎士団関係者でもなさそうだな。いくら大臣の許可を得たとはいえ、関係者以外をダンジョンに入れるわけにはいかん! さっさと去れ小僧」
「そうだ、お前のような奴を入れるわけにはいかん。要救助者が増えるだけだ! 身のほどをわきまえろ!!」
ん、あれ? おかしいな?
イケオジの名前を出したのに入れてくれそうな雰囲気すらない。どういうこと?
「あのー、しかしですね、スコルツ卿が……」
そう語ろうとした矢先に、もの凄い勢いで言葉を被せられる童貞。
「だからさっさと去れと言ってるだろうが!! お前ら如きが入ってどうにかなる状況ではない!! これ以上、言うのであれば容赦はせんぞ!!」
「そうだ! みそっかすは引っ込んでおれぇい!!」
初対面なのに童貞の風貌だけで、完全に役立たずと思われてるこの状況。
これはどうしたものか……。
ここは出来る限り穏便に済ませたいところ。
なぜならギルド関係者と揉めても何一つ良いことはないと、童貞は既に学んでいる。
敵対関係になろうものなら、むしろ損しかない。
童貞がどう乗り切ろうかと考えていると、ふと背後から感じる異様な殺気。
振り返ってみると、ツンデレお嬢様がガチギレ寸前だった。
しかも周囲の空間が恐ろしいほどの殺気で歪んでいる。
あ、これはダメだ。
金剛力士さんたちが危ない。
今のツンデレは、触れるもの皆八つ裂きにする抜身のナイフ状態……。
なんとかせねば。
「あ、あの、これ! これを見てください!! 実はとある御方の紹介状もあるんです!!」
ツンデレお嬢様が爆発寸前なので、慌てて陛下の紹介状を金剛力士たちに渡す童貞。
「紹介状? ふん、そんなもの…………」
さすがに陛下の紹介状を見せれば、ダンジョンには入れてくれるはず。中に入れさえすればツンデレの機嫌取りなど、どうにでもなる!
とりあえずあいつらが紹介状を見ている間に、このツンデレを落ち着かせないと……。
「ヨハン、そこをどきなさい? 私の剣であの筋肉ダルマたちを消し炭にしてあげるから」
気持ちはわからんでもないが、ちょっと待っておくれよ、お嬢様? 強行突破は色んな意味でダメだ! そして消し炭はもっとダメだ!
「ちょ、ちょっと待ってください、リリイさん! と、とりあえず落ち着いて!!」
童貞があたふたしながら、ツンデレを止めていると、背後から掛けられる意外な言葉。
「「も、申し訳ございませんでしたーー!!」」
振り返ってみると、キレイな土下座を披露する金剛力士たち。
「…………えっ?」
なぜか額を地面に擦り付け、筋肉のおはぎみたいになっていた。
「まさか貴殿が、かの英雄”炎狼殺し”のヨハン殿とはつゆ知らず、大変失礼なことを……本当に申し訳ございませんでした!」
「国王陛下の御印を持ってらっしゃる方に、我々はなんということを……、しかもアルフェリア王国の貴族の御方とは……。何卒、何卒ご容赦をいただきたく、何卒!!」
陛下の紹介状が恐ろしいくらいの重力操作の効果を発揮してくださるという。
というか、金剛力士たちの怯え方が半端ない。炎狼殺しのヨハンってなんだよ。初耳なんですが。
さっきまで常夏の西海岸でウェーイな感じだったのに、いきなりシベリアの強制労働所送りになったような豹変の仕方だ。
「あ、あの、特に気にしてませんので、とりあえず頭を上げていただけませんか?」
さすがに金剛力士たちの土下座は目立って仕方がない。騒ぎを聞きつけた野次馬たちがゾロゾロと集まってきている。
「それではヨハン様は我々を許していただけると!?」
「命をもって償わなくても良いとおっしゃられるのですか!?」
ついに様付けになってしまったよ、おい。
しかも命て。
童貞がヤクザの御曹司かなんかに見えてます?
「許します、許しますから、土下座はやめてください!」
そう語り、やっとの思いで立ち上がる金剛力士たち。
あんな怯え方されると、逆にこちらが申し訳ない気持ちとなってしまう。
きっといつぞやの童貞のように、不敬罪というワードが脳裏に浮かんだのだろうな。
まあ、こちらとしてもそんなもの使いませんけれども。
「それよりも、お二方にお聞きしたいのですが、ダンジョンの中はどんな感じになってますか?」
立ち上がったもののガッチガチに緊張されてる二人のために、少し空気を変えようと話題を振った童貞。
これが意外と功を成して饒舌に語ってくれる。
「はい、現在のダンジョン状況ですが、下層部より大量の瘴気が上階まで上がっており、上層階にも凶悪なモンスターが出現するようになりました!」
「ですので我々探索隊は、ダンジョン出入り口付近に基地を構え、要救助者の捜索にあたっております! が、しかし。モンスターの数が多すぎて捜索が困難を極めております。間引きするのすら、ままなりません」
まるで軍の兵隊のように敬礼をしながらそう語る金剛力士たち。強面の金剛力士たちですら、こうして自らの牙を引き千切るのだ。権力の力ってなんて絶大なんだろう……、逆に怖い。
「わかりました。他に何かありますか?」
まあ、相手が強かろうが童貞の気配察知で先手を取れるのだ。戦うにしろ、逃げるにしろ、コマンドの選択権は常にこちら側にある。モンスターエンカウントに関してはどうとでもなるから問題はないな。
「はい、一番重要なことがまだ一つ。実は、……ダンジョンの内部構造が変わりました」
「はい?」
おいおいおい、まじかよ。
一番重要なことじゃねーか。
真っ先にそれを言って欲しかったんだけど?
「階層自体の構造もそうなのですが、問題なのが下り階段の位置まで変わってしまったため、簡単に七階層まで降りれなくなってしまったのです」
「ということは、あの広いフィールドダンジョンの中で下り階段を探さなければならないということですか!?」
「ええ、そうなりますね。ですので先遣隊がどこまで調査出来ているのかわかりませんが、要救助者の捜索と同時に階層のマッピングもしなくてはなりません」
なにぃーー!?
それはちょっと話が変わってくるぞ。
ダンジョンの内部構造が変わってるのなら、新規ダンジョンのアタックとなんら変わりないんですけど? さらに出現モンスターも強いときた。
え、待って、どうしよう?
このパターンは考えてなかった。
急に童貞の心のリスクメーターが、アクセルペダルをベタ踏みしたようにグンっと跳ね上がったのだが? このまま潜っても大丈夫なのだろうか。
そんなことを自称高速思考で考えていると、ルナ氏が。
「隊長? 大丈夫ですよ、行きましょう? きっと私たちなら上手く立ち回れますよ。鉱山の時もそうだったじゃないですか」
「ルナさん……」
童貞の心がブレブレなのがわかったのか、ルナ氏より心強いお言葉を頂戴した。
すると続いて。
「そうだぞ、ヨハン! お前が指揮してくれるなら、いくらモンスターが強くても負ける気がしない! マッピングは俺に任せろ!」
「確かに、隊長殿の指揮なら あっという間に殲滅出来ますもんね。ならあたしはラウルさんの補助でもしよっかな」
「……後は見つかるまで食料が持つかどうか。食材の残りをメモします。でも帰還の判断は早めが最適かと」
「ヨハン、さっさと行くわよ」
最後のツンデレは省くが、みんなそれぞれ考えてくれているようだ。
俺もなるべくみんなに危険が及ばないように、警戒を怠らないようにしないとな!
「わかりました! それでは突入しますので、扉を開けていただいてよろしいですか?」
「「承知っ!!」」
ゴゴゴゴゴッ……っと地面を引きずるように開かれるダンジョンの扉。
ここでやっと、空間が湾曲するほどの殺気を放っていたツンデレお嬢様が普通に戻った。
そのうちツンデレお嬢様が、某海賊剣士のように、気合だけで三面六臂の鬼神になりそうで怖い。
そしてダンジョンに入ると、金剛力士の片割れのアイオンさんが前線基地まで案内してくれて、捜索隊の指揮官の人と顔繋ぎをしてくれた。
意外と気遣いが出来る筋肉である。
こうして我々は一階層【ラウーゲの森】の探索を始めることになった。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございました♪
明日も更新です!
やっと物語が進む汗
応援ありがとうございます。
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