5話 初代ダンジョンマスター
突如、童貞の前へと現れたジャスバールの元ダンジョンマスターだと言う魔法使いのじいさん。しかも当の本人は、自らが残留思念だと語る。
もう、転移するわ、少年にはSMプレイを強制されるわで、あまりに色々ありすぎて、もう何がなんだかわけわかめ。
とりあえずまずは話を聞かなければ。
そして出来ることなら友好関係を築かないと……、こんなところで童貞の心の尊厳をブレイクさせたくない!
裸で四つん這いになるのは絶対に嫌だ!
「はじめまして、ヨハンと申します。よろしければお名前をお聞きしても?」
「わしはホールキンじゃ。そいで隣の此奴はリアム、わしの孫じゃよ。よろしく頼む」
ホールキン氏がそう語ると、隣にいた美少年リアム君が”はじめまして”と元気に挨拶すると勢いよく頭を下げた。
うーん……、外見は中学生くらいだが、精神年齢は低そうだ。かなり幼く感じる。
「ご丁寧にありがとうございます。ところで、ホールキンさんは本当に残留思念なんですか? こうしてこちらと意思疎通が出来ているので、にわかに信じられませんが……」
「だろうのう。かく言うわしもまだ戸惑っておる。目覚めて数日経つが、実体がない状態で、ここまではっきりと意識があるのじゃ。もし考えられるとすれば残留思念か幽霊の類いじゃろうかのう、ほっほっほ!」
死んでる割に元気なじいさんだこと。
「そうなってしまった心当たりなどはないのですか?」
「心当たりがあるとすれば、……あれかのう」
ホールキン氏がそう語ると、その視線の先にはどこかで見たことのある大きな魔石が地面に転がっていた。
「これって……、転移石!?」
ねずみのおっさんが持っていたものと良く似ている。そう、魔法陣が暴走する原因となったアレだ。
「ほう、知っておるのか? あれは生前わしが研究していた魔石の一つじゃ。起動させるには大量の魔力が必要でのう。毎日ちまちま魔石に魔力を入れておったのじゃが、全然足りなくてな。わしの愛すべき失敗作の一つじゃて」
「なるほど、ではその魔力を元に、魔石がホールキンさんの記憶と人格を復活させたのでしょうか?」
「うーむ、わからぬ。可能性はゼロではないが、限りなくゼロに近いじゃろうな。魔石が暴走するにしても、魔導士数千人規模の魔力が必要じゃし」
「魔導士数千人分…………あっ!?」
「んっ? もしかして何か心当たりがあるのか?」
そしてカクカクシカジカと、ホールキン氏に瘴気流出事故について説明していく童貞。
話が進むにつれ、ホールキン氏が頭を抱えたのは言うまでもない。
「……というわけなんですよ。まさか友人の捜索中に、自分も転移トラップに引っ掛かってここにくるとは思いませんでした」
「そうじゃったか……、それにしても本当になんということを……。これもあのボンクラ王子にダンジョンクリスタルを渡してしまった、このじじいの責任じゃな」
確かに、なんでチンパン王子がダンジョンクリスタルを持っていたのかは気になるところ。
「ホールキンさん? もし良ければお話を聞かせていただけませんか? これでも王宮と繋がりがある身。もしかしたらお力になれるかもしれません」
「そうじゃの、リアムのこともある。こちらとしてもヨハン殿には話を聞いてほしい。少し長くなるがこのダンジョンの成り立ちを話してもええかの?」
応じて頷く童貞。
こうしてホールキン氏から語られることとなったジャスバールの歴史。
童貞は静かに耳を傾けた。
◇◆◇
かつて、このジャスバールの地は何もないただの荒野だった。
交易路からも外れ、作物も育ちにくいことから、人が住む集落も、小さな寒村が二つほどしかなかった。
そんな寒村に生まれた一人の子供。
名を「アルマ」と言う。
そう、彼こそが後のジャスバールの初代ダンジョンマスターとなる英雄王アルマである。
アルマはすくすく健やかに成長し、成人したと同時に冒険者となった。
元から才能があったのか、冒険者としてめきめきと成長していくアルマ。三年も経つ頃にはゴールドランクの冒険者となっていた。
――とある日。
アルマが野良のダンジョンを攻略した時だ。
彼はユニークモンスターを討伐すると、偶然にもダンジョンクリスタルを手に入れた。
そして同時に魔瘴宮創造のスキルにも目覚める。
アルマは歓喜した。
溢れる知識と、ダンジョンの可能性に。
さっそくアルマはダンジョンの制作に取り掛かる。
しかし、都市部ではせっかく作ったダンジョンを攻略されてしまう可能性があった。
そこでアルマは故郷であるジャスバールの地へと帰り、ダンジョン造りに励むことになった。
元々、凝り性だったアルマ。
冒険者だったこともあり、実に攻略しにくい地下迷宮を設計していく。
そして五年ほどが過ぎた頃。
ジャスバールの地に恐ろしく凶悪なダンジョンが完成した。出現するモンスターもさることながら、実に巧妙なトラップの数々。
”帰らずの迷宮”とまで二つ名が付いた。
しかし、それでもジャスバールのダンジョンへと、やってくる冒険者は後を絶たなかった。
なぜなら、高純度の魔石が取れるからだ。
この時代も魔石は高値で取り引きされる。より純度の高いものは高額に。
そんなこともありジャスバールのダンジョンは、ハイリスクハイリターンなダンジョンとして急速に有名になっていったのだ。
この時、アルマは何をしていたかというと、ダンジョンの隣に宿屋を作ったのだ。
そう、冒険者が休めるようにと。
そしてこれが大当たりとなる。
今まで野宿していた冒険者が、宿屋が出来たことにより、ひっきりなしにやってくるのだ。
次第に集まる多額の金銭。
こうなるとアルマは止まらない。
武具屋に薬屋、娼館に魔石の買取りなど、実に様々な業種に手を出すが、一度も失敗することもく、悉く成功していった。
そのせいもあり、ジャスバールの地はあっという間に都市として発展することになった。
そしてアルマが三十歳となった日。
彼はジャスバールの領主として宣言を出した。
元々、どこの国にも属さない不毛な土地、ジャスバール。
一代でここまで開拓したアルマに、誰も異議を唱えることもなかった。むしろ、その領民として生活出来ることに誰もが喜んだ。
しかし、面白くないのは周辺国家だ。
ダンジョンから得られる大量の魔石を資金源にしているジャスバールは、まさに金のなる木。他国からすれば攻め込まない理由がない。
そして開戦。
相手は東のシアラゼル帝国。
ジャスバールとは、象と蟻くらいの戦力差がある大帝国だ。
周りの国々も、ジャスバールが帝国に吸収されて終わりと、誰もがそう思っていた。
しかし、そうはならなかった。
アルマがある声明を出したのだ。
ジャスバールのダンジョンマスターが、このジャスバールの地を守ると。
ここで人々は初めてダンジョンマスターの存在を知ることになった。もちろん、アルマがダンジョンマスター本人であることは隠されているが。
ジャスバールの地へと攻め込んでくる帝国兵、それを迎え撃つ凶悪なモンスターたち。
――結果。
なんとただの一都市であるジャスバールが、大帝国であるシアラゼルを退けたのである。
この世紀の大勝利により、アルマは正式にジャスバールを国として宣言し、自らをジャスバールの初代国王として即位することになった。
それからアルマは、周辺国家と同盟を結ぶことで、ジャスバールを都市国家として確かなものとし、現在に至るまで繁栄することとなった。
◇◆◇
「では、ホールキンさんは初代国王であるアルマ様の末裔ということなのでしょうか?」
童貞の言葉に首を横に振るホールキン氏。
「初代様は自分の子供にはダンジョンマスターの力を引き継がせなかった」
「えっ、じい様!? なんでですか!? なんで引き継がせなかったのです!?」
童貞よりも一緒に話を聞いてた、リアム君の方が興味津々だという。まるで英雄譚を聞く子供のように、瞳がキラキラと輝いていた。どうやらワクワクが止まらないご様子。
でもまあ、国王アルマが自分の子供に、能力を引き継がせなかった理由はなんとなくわかるな。
「家督争いを防ぐためじゃよ。ダンジョンマスターの力は非常に強力かつ魅力的でのう。それゆえに自分の子供たちが、能力を奪い合う未来を想像したのじゃろうな」
やはりそうか。
能力を受け継げることが公になったら、お家騒動が勃発するのは必至。
仮にじゃんけんで決めるようなことになれば、最初はグーでお互いの顔面に拳を叩き込むオチまで見える。
それくらい欲しい能力。
「じゃから、わしらのような迷宮の守人が生まれたんじゃ」
「守人?」
「初代様より、ダンジョンを管理する使命を与えられた番人と思ってくれたらええ」
なるほど、国王アルマは信頼のおける第三者に能力を譲渡したのか。
「初代様より、迷宮の管理を任せられたわしら守人は、初代様との盟約により、何代も世代交代をしながら国を陰から支えてきたのじゃ」
「でも、あのギリアムっていう王子と偏屈大臣がじい様を裏切ったんだよね!」
おっと、ここでチンパン王子とねずみのおっさんが出てくるのか。あいつら何をやらかしんだ?
「というと、どういうことでしょうか?」
「わしら守人は、普段は王宮で魔導士として働いておってのう。かくいうわしも魔石技術開発局に在籍しておったのじゃ」
だから転移石なるものを開発してたのか……、これで一つ繋がった。
「国の重要機関ですね。ということは当代の国王陛下は、ホールキンさんのことをご存知で、その部署に配置をされのですね」
「いや、当代の国王ライオネス様は、わしがダンジョンマスターということは知らぬ」
「え、まじですか……」
「それが初代様との約束じゃからな。あくまでもわしらの存在は陰。今までも一子相伝にて能力を引き継いできたのじゃ」
おうふ、まるで世紀末の拳法のような世襲制。時代遅れ感が半端ないが、三百年も続くとこを見ると上手くいってたのだろう。
「では、なぜギリアム王子たちにダンジョンマスターであることがバレたのですか?」
そこで初めてホールキン氏とリアム君の表情が曇った。
「……事故で怪我をしたリアムを救うために、ダンジョンクリスタルを起動したところをあの王子たちに見られてしもうたのじゃ」
カクカクシカジカと、ことの顛末を語るホールキン氏。
簡単に話をまとめると……。
当時、研究室で遊んでいたリアム君八歳。
彼は幼くしてダンジョン内に捨てられていた子供だったようで、世継ぎのいないホールキン氏が後継者候補としてリアム君を引き取り育てていたようだ。
家でも、研究所でも、ダンジョンでも常に一緒の二人。血のつながりはないものの、本当の家族のようだった。
そんな折、リアム君はホールキン氏が開発していた、採掘用の爆破魔石に誤って魔力を流してしまい、城の研究室が爆発するという大きな事故を起こしてしまった。
瀕死の重傷を負ってしまったリアム君。
ホールキン氏は今にも死んでしまいそうなリアム君を抱きかかえると、クリスタルを起動してハイポーションを作成した。
そこをチンパン王子に見られたというわけだ。
「……その後、リアムを人質に取られてしまい、わしはあの王子の言われるがまま行動するしかなかった」
「そうでしたか……、それは災難でしたね」
「なんとか、リアムだけは奪い返すことは出来たのじゃが、肝心のわしが怒り狂った王子に斬り殺されてしまってのう。このざまじゃ、ほっほっほ!」
笑いごとではないと思うのだが?
それと知ってます?
この世界って残機設定概念がないんですよ?
「でも、どうやってこんなダンジョンの奥底まで?」
「簡単じゃよ、リアム。見せてやりなさい」
「はい、じい様!」
すると、首に掛けていたペンダントを童貞に渡してきたリアム君。
ペンダントの先に付いていた魔石をよく見ると……。
「これって……、もしかして……」
「そうじゃ、転移石じゃよ」
「え、完成していたのですか!?」
「ほっほっほ! 完成してたも何も、元々、転移石は瘴気を使って起動する石でのう。それをなんとか魔力で使うことが出来ないかと、わしが研究していたのじゃ」
「そうだったんですね」
「……欲しいじゃろ?」
ズイっ……と、童貞に寄ってくるホールキン氏。
ええ、それはもう喉から手が出るくらいには欲しい。でもその見返りに、何を要求してくるかが怖いんだよな。
「……俺に何をさせたいんですか?」
咄嗟に警戒する童貞。
心のシャッターをいきなり全てクローズ。
「そんなに警戒せんでも大丈夫じゃ。一つ、ヨハン殿に頼みがあっての」
頼み……か。
まあ、なんとなくわかるが。
そしてリアム君の方へと視線を向ける童貞。
ホールキン氏もそれを見計らったかのように。
「リアムを……、リアムをどうかここより連れ出してくれんかの? そしてお前さんの元でリアムが成人するまで保護してほしいのじゃ」
ですよねー、ですよねぇー、ですよねぇーー。
そんな心のエコーが響いた童貞であった。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございました♪
遂にホールキン氏との絡みとなりました。
また今後の物語の展開をお待ちください!
次の更新は16日の土曜日です!
よろしくどうぞ!




