9話 迷宮狂葬曲 その6 想定外の想定外
「隊長! リリイさんは大丈夫ですか!?」
童貞が心の慟哭に耐えていると、ルナ氏とケイシーが上階から降りてきた!
どうやら童貞の腕の中でぐーすか寝ているツンデレお嬢様が気になったようだ。
「ええ、問題ありません。気を失ってますが、大事には至らないと思います」
仮に重傷だとしても物欲センサーが働いたくらいだ、おそらく問題ないだろう。
「良かった……、隊長もリリイさんもあのままモンスターにやられてしまったらどうしようかと本当に心配しました」
目元を少し潤ませながら、本気で我々を心配してくれるルナ氏。
ああ、ツンデレのせいで荒んでいた童貞の心に優しさという栄養が染み渡る。
女神ルナ氏最高かよ。
「ルナさん、ありがとうございます。ケイシーさんとお二人でモンスターを牽制してくれたおかげで自分の呪文詠唱も間に合いました。チーム連携の勝利ですね!」
「隊長……、そう言ってもらえて私も嬉しいです。あ、そういえば隊長もあのモンスターから攻撃を受けてましたよね? 怪我は大丈夫なんですか?」
正直なところ、さっきよりも脇腹の痛みが増してきてるんだよね。おそらく時間が経つにつれてダメになっていくヤツだと思う。
でも魔力切れが近い状況で、自分に回復魔法は掛けられないしなぁ。
それに今はまだやるべきことが残っている。
ここは我慢。
「はい、大したことないので安心してください。それよりも今はあの噴き出ている瘴気をなんとかしましょう。このまま放っておけば間違いなく街に影響が出ます」
中央ステージに目を向けると、カリュウーグの時とは比べものにならない量の瘴気が魔法陣から噴き出していた。
晴天だった空も瘴気が覆ってしまい、雨雲かよと思うくらい真っ黒になってしまっている。
正直手遅れ感半端ないが、それでもアレは”今”止めないと本当にまずい。
またあのクラスのユニークモンスターが現れたら、今度こそ詰みとなる。
「隊長? 絶対無理はしないでくださいね? 私が無理と判断したらどんな手を使ってでも隊長を止めますから」
ルナ氏に怪我のことを見抜かれているっぽいが、状況が状況なだけにルナ氏ストップは掛からずに済みそうだ。
「ありがとうございますルナさん。肝に銘じます。ではリリイさんをお願い出来ますか」
そう語り、お姫様抱っこしていたツンデレを女神に渡す童貞。
渡されたツンデレをおんぶする女神の尊いこと。
ツンデレおんぶ女神像とかあったらぜひ購入したい。
「わかりました。でも、隊長はどうされるんですか?」
「まだ魔法陣の中心にギリアム王子がいる可能性があります。王子の無事を確認し、そして救出。それが完了したら魔法陣を破壊する流れですかね」
「あの爆発でギリアム王子が無事だと良いんですが……」
ですよねー。
正直、チンパン王子生存の可能性は低い。
しかし、無事を確認しないまま魔法陣を破壊してしまえば、童貞が後日首ちょんぱとか泣くに泣けない。
やはり最低限のことはやっておかないとな。
「瘴気を吸収しますから、少し離れていてください」
そして鞄からダンジョンクリスタルを取り出す童貞。
次いで。
「――瘴気吸収!!」
童貞がダンジョンクリスタルを掲げると、そこに向かって渦を巻いた瘴気が吸い込まれていく。
……しかし。
噴出している瘴気量が多いせいか、吸収出来ているのは噴出している瘴気の半分ほど。
おかげで上空に立ち上っている瘴気の柱がなんともいえない歪な形となってしまった。
「さすがにこの量だと全て吸収するのは無理か」
「あ、隊長! 瘴気に隙間が出来て反対方向から魔法陣本体が見えます!」
女神……いや、ルナ神がそう語る。
ナイスサポートすぎてルナ氏が童貞の中で完全神格化するという。
「ルナさん、ギリアム王子は確認出来ますか!?」
「いえ、確認出来るのは魔法陣だけです!!」
「ありがとうございます!!」
よし、チンパン王子はいない。
きっとこれ以上童貞たちに迷惑をかけないように、見事に木っ端みじんに吹き飛んでくれたと信じよう。
まったくまじで迷惑かけまくりやがって。
「皆さん、魔法陣を破壊します!! 距離を取ってください!!」
周囲にいる騎士たちにも聞こえるよう呼びかけをする童貞。
先ほどの狼さんとの戦闘を見ていたからか、童貞の呼びかけにも素直に応じてくれる騎士さんたち。
空気を読んでくれてありがとう。
そして騎士たちが引いたのを見計らって放つのは。
「……っ痛、――――竜刃!!!!」
脇腹の痛みに耐え、なんとか放つ竜刃。
魔力切れで魔法が撃てないので、仕方なくこちらをチョイスしたが、半泣きになるほど痛い。
くそぉ、チンパン王子めぇ、まじ恨むぞ。
ただ、そんな痛みを我慢したせいか、それが火事場のバカ力となり見事に巨大な魔法陣を一刀両断とした。
見ていた周囲の騎士や避難途中の観客から何故か歓声をいただく。
「瘴気の柱が消えていく……」
ルナ神から嬉しいお言葉を頂戴した。
どうやら無事、魔法陣の術式を破壊出来たようだ。
そして瘴気の柱はみるみるうちに細くなっていき、最後はガス欠したかのようプスンっと瘴気の噴出を停止。
「良かった……、なんとか止まったみたいです」
「隊長、やりましたね! 凄いです!」
「いえいえ、ルナさんやケイシーさん、そしてリリイさんが頑張ってくれたおかげですよ。自分一人ではここまで頑張れませんでした」
そう、童貞のバックに美少女がいるからこそ童貞は頑張れるのだ。
野郎どもだけだとまじでモチベ上がらないもんね。
それに童貞の頑張る姿を見せていれば、いつしかルナ神たちがバグって惚れてくれるかもしれないし。
意識の高い童貞は近くに美少女がいるのであれば、僅かな可能性にすら全力投球できるのです。
「ただ、ルナさん? 瘴気の噴出を止めたとは言え、まだ噴き出た分の瘴気がそこら中に漂ってます。これを処理しない限りは安全とは言えないでしょう」
そう、時間にして僅か一時間ほどの出来事だったが、童貞の膝下くらいまで溜まっている紫色の瘴気。
おそらくこの会場だけではなく、ジャスバールの街全体まで広がっているはずだ。
このままだと街中が魔瘴石だらけとなってしまう。
「その前に処理しないと……、瘴気吸収!」
童貞がダンジョンクリスタルに瘴気を吸収しようとすると、突如目の前にメニューウィンドウが強制的に開かれた。
【ダンジョンクリスタル内の瘴気が満タンとなりました。内包瘴気をダンジョンコアに移してください】
「まじかよ!?」
確かによく考えればカリュウーグの時と合わせると、恐ろしいほどの量の瘴気を吸収している。
そりゃ瘴気を使ってなきゃ満タンにもなるか。
「隊長、どうかされたんですか?」
「あー……、どうやらクリスタル内の瘴気が満タンのようで、これ以上吸収出来ないみたいです」
「え、じゃあこの噴き出た瘴気って……」
「自然に消えるのを待つしかないですね……」
童貞にはメインとなるダンジョンコアがないので、内包瘴気をよそに移すことが出来ない。
このジャスバールの視察が終わったら、適当な魔瘴石を見つけて、それをダンジョンコアに育てるつもりだった。
まさかこうも早くクリスタル内の瘴気が一杯になるとは夢にも思わなかったし……想定外過ぎるって!
持っているダンジョンクリスタルが満タンになった以上、童貞にはこの現状をどうすることも出来ない。
なので……。
「ルナさん、とりあえず最悪の状況だけは回避出来ました。リリイさんのこともありますし、一旦引きましょう」
「わかりました」
ツンデレもそうだが童貞もこれ以上の戦闘は無理だ。
脇腹さんが限界を迎えて、欲しくもない激痛という無料オプションを付けてくださってる。
早いとこ、このバトルフィールドをお暇したい。
そんな折、聞こえてくるのは……。
「おーい、ヨハーーン!! 大丈夫かーー?」
イケオジの護衛指示を出したはずのラウルの声だった。
「ラウル!? なんでここに? スコルツ卿は!?」
「ヨハン殿、私はここにおります!」
犬耳イケメンの背後からひょっこり顔を出すイケオジブリスタンと熊耳スポーツ女子のネイ氏。
おい、逃ーげーろーやー、おっさん!!
何のために童貞が身体を張ったと思ってんの!?
この国の大臣じゃなかったらまじでぶっ飛ばしてた!
というか。
「ラウル、なんで戻ってきたんだ?」
こいつが命令違反を犯すくらいだ、きっと何かあったはず。
「実は……」
犬耳イケメンが語り始めようとすると、なぜかイケオジが割って入ってきた。
「ヨハン殿、彼らは悪くありません。私がここに戻るよう二人にお願いしたのです」
「スコルツ卿が?」
「ええ、実はあの後すぐに会場の外に出れたのですが、噴き出した瘴気が急に固まり出し魔瘴石が会場の出口付近に出現したのです」
「魔瘴石がですか!?」
おいおい、まじかよ。実はもうこの国ってかなりヤバい状態なのではないだろうか?
魔瘴石の出現が童貞の想定よりも断然早い。
しかもこれだけ地上に瘴気が噴出したのだ、出現した魔瘴石が一つとは考え難い。
「はい、ただ護衛のお二人がすぐに処理をしてくださり、大事には至りませんでした。ですが、このまま瘴気の噴出が止まらなければ、市街地にも魔瘴石が発生すると思い、瘴気の噴出を止めるべく戻ってきた次第です」
「なるほど、そうでしたか」
「しかし戻ってみればヨハン殿がユニークモンスターを討伐し、瘴気の噴出を止めているではありませんか! いやー、年甲斐もなく興奮致しました!」
パグと言い、兄貴と言い、イケオジと言い、何故か中年にモテる童貞、これ如何に?
まさか童貞の身体から中年を寄せ集めるパフュームでも出てんのかなあ?
そうだとしたら呪いのチョイスがエグすぎる、勘弁してくれ神様。
「スコルツ卿? 話を戻させていただきますが、他に魔瘴石は確認されましたか?」
「おっと、これは失礼しました。話が逸れましたな。我々が確認したのは出口に出来たもの一つです。他は……」
イケオジがそこまで語ると、息を切らした近衛騎士が慌ててこちらまで駆け寄ってきた。
「ブリスタン様、ここにいらしたのですね! ご無事で良かった! 外が大変なことになっております! 来賓の皆様と一緒に王城まで早く避難をお願い致します!」
「どうした? 街で何かあったのか? 詳しく話してくれ」
「はい! 先ほどの瘴気の流出により、街の至るところに魔瘴石が発生いたしました! 騎士団が対応にあたっておりますが、なにぶん数が多く、民間人の被害も甚大です! 取り急ぎブリスタン様や来賓の皆様は、王城に避難をするよう陛下より仰せつかっております。早くこちらへ!」
「し、しかし……」
「ブリスタン様、王命です!」
どうやら王様はこんな底辺貴族である童貞の身も案じてくれているようだ、ありがてぇ。
出現した魔瘴石をなんとかしてあげたいが、怪我+疲労+魔力切れという三重苦トリオが童貞を苦しめる。
というか、まじでもう限界が近い。
それに身体強化の影響もあり、さっきから急激な睡魔が童貞を襲っている。
きっとローズリリイと同様に、身体が休めと申しておるな。
これは抗えんわ。
もう無理。
「ラウル……すまん、後は……頼む」
そう言い残し倒れる童貞。
「ヨハン!?」「隊長!?」「ヨハン殿!?」
最後の最後でローズリリイ共々お荷物になるとは。
ほんと申し訳ない。
そんな想いを抱きつつも、童貞の意識はブラックアウトしていった。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございました♪
昨日、誤字報告していただいた読者の貴方様。
本当にありがとうございますm(_ _)m
お恥ずかしい限りですが助かりました!
明日も更新です。
お楽しみに。
よろしくどうぞ




