エピローグ
目が覚めると見慣れない部屋のベッドの上だった。
たぶん気絶する前の流れからして、ここは王城の医務室なのだろう。
しかもありがたいことにタコ部屋ではなく個室だ。
上半身裸で包帯を巻かれているのが解せないが、まあきっと治療されたのだろう、いた仕方なし。
くいくいと片腕をぐるぐると回し、怪我をした脇腹さんのご機嫌を伺う童貞。
「……うん、痛くない。治ってる」
と、なるとローズリリイもおそらく大丈夫だな。
手厚く看護されてるに違いない。
なんてったって奴は腐ってもアンガスター家のご令嬢、逆に相手が気を遣う。
「にしてもどれくらい気を失ってたんだろう? 今回も日付ワープしてないといいんだけど」
ふと近くにあったテーブルを見ると、童貞の服が綺麗に畳んで置いてあった。
こんなことをするのはきっとルナ氏に違いない。
なんなら今も部屋の中に、微かだが香しいルナ氏のフレーバーがするし。
特別なスキルがなくても、美少女探索において童貞の嗅覚は犬をも超える。
「さて、怪我も治ったし、とりあえず着替えるか」
巻いてあった包帯を粛々と解いていく童貞、ついでに着ていた寝巻のズボンもポイッと投げ捨てる。
全て脱ぎ終えると、童貞の視界に入ったのは、微かに割れはじめてきた腹筋。
「おお!? あれ、なんか俺、ちょっとだけ逞ましくなってないか!?」
部屋にあった鏡で確認してみると、紛うことなき筋肉が付き始めたマイボディ。
全然マッチョとかではないが、毎日部活動を頑張ってる高校球児くらいにはなってきてると思う。
そういえば狼さん倒した時に、例の刺激的な感触があったな……、色々あって確認どころじゃなかったけど。
「久しぶりに確認してみるか、――ステータスオープン」
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・名前:ヨハン
・種族:ヒューマン
・年齢:16
・職業:新米貴族 CHANGE!
・LV:30 UP!
・SP:301 UP!
〔発現スキル一覧〕
《アクティブ身体強化一覧》
・筋力強化 練度【10】★
・体力強化 練度【10】★
・反応強化 練度【10】★
・才覚強化 練度【10】★
・魔力強化 練度【10】★
・精神強化 練度【10】★
《特殊個有スキル一覧》
・魔瘴宮創造 練度【★】
《個有流派スキル一覧》
・我流:竜刃 練度【★】
《流派スキル一覧》
☆アルフェリア王国流護身術
・護身剣術 練度【10】★
・護身体術 練度【10】★
《戦闘補助系スキル一覧》
・気功法 練度【10】★
・硬気功 練度【10】★
・気刃 練度【10】★
《歩法系スキル一覧》
・天空闊歩 練度【10】★
・立体機動 練度【10】★
・縮地 練度【10】★
《感覚系スキル一覧》
・気配察知 練度【10】★
・気配遮断 練度【10】★
・威圧 練度【10】★
・殺気 練度【10】★
《古代魔法系スキル一覧》
・結界魔法 練度【10】★
《魔法系スキル一覧》
・上級火魔法 練度【10】★
・中級風魔法 練度【 1】 ※上級魔法解放可
・初級土魔法 練度【10】★
・初級回復魔法 練度【10】★
《魔法補助系スキル一覧》
・体内魔力操作 練度【10】★
・術式制御 練度【10】★
《加護一覧》
・ガイアードの祝福
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「うお、まじか!? レベルが七つも上がってる!?」
メタルキ◯グ並の経験値を待つボスモンスターて。
あの狼さんどんだけヤバい奴だったんだよ。
まじでカリュウーグの結界魔法がなかったら、我々は詰んでいたのではなかろうか?
毎度のことながら自分の行動に狂気を覚えるぜ。
そんなことを考えていたら、ふいに部屋のドアがガチャリと開いた。
「あ、隊長! 目が覚めたんですね……って、……ご、ごごご、ごめんなさい!!」
部屋へ入ってきたのは、水桶を持った我が癒しの女神であるルナ氏だった。
――が、何故かこちらを見て持ってた桶を盛大にひっくり返すルナ氏。
「だ、大丈夫ですか、ルナさん!?」
すぐさま置いてあったタオルを持って駆け寄る童貞。
ルナ氏の濡れた服にすかさずタオルを掛ける。
「だ、だだだだだ、大丈夫です! 大丈夫、大丈夫ですので!!」
何故か顔を両手で隠すルナ氏。
耳まで真っ赤である。
一体、どうしたというのであろうか?
様子が変だ。
「ルナさん、どうし…………、あ!?」
そして童貞は気付いてしまった。
俺、上半身裸でしかもパンツ一丁だったわ。
しかも起きたばかりで、パンツの中の息子さんが勝手に身体強化をしてるという……。
あれ、待って、どうしよう?
ちょっとこれ取り返しがつかなくなってないか?
いや、待て、まだ大丈夫だ、大丈夫、落ち着け俺よ。
冷静になってルナ氏をフォローすればまだ間に合うはずだ!
しかし、肝心のルナ氏はというと、童貞のガン勃ちしている息子さんを指の隙間からチラ見してガクブルと震えていた。
うん、アウトだな、完全にアウトだ、なんならアンパイアが卍ポーズでアウトコールするくらい見事なアウトだ。
くっ、息子さんが勝手に身体強化練度【10】になるから、また一歩ルナ氏バッドエンドルートに足を踏み込んでしまったぞ、おい!? もはやリカバリー出来る気がしないんだが?
「す、すぐ着替えますね!」
「は、はい! わ、私も、き、ききき、着替えてまいります!」
そう語り、逃げるようにして部屋を出ていくルナ氏。
ああ、女神に嫌われていないことを祈るばかり。
そろそろどこかに人生リセットボタンか、指定した記憶だけ消せる忘却魔法とかないかなぁ?
まじで欲しいわ。
そうしてしばらく。
我々は服を着替え、部屋にあったテーブルに向かい合って座っているが、恐ろしいほどの気まずい空気が流れている。
でもまあ、年頃の女の子があんな身体強化練度【10】状態の息子さんを見たら、そういう反応になりますわな。
よし、話題を変えよう。
そしてなかったことにしよう。
それがきっとお互いの幸せに繋がると思うんだよね。
「ルナさん?」
「は、はははは、はい!」
だめだ、ガチガチに緊張されてるわ。
これから童貞と行為を致すんじゃないかと思うほどガチガチに緊張されてる。
まあ、それはそれではいよろこんでー、なのだが。
「あの後の動向をお聞きしたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「だ、大丈夫です!」
そう返事をすると、顔を真っ赤にしながらも語ってくれるルナ氏可愛い。
女子社員にセクハラするおっさんの気持ち、今ならわからんでもない。
「隊長が倒れて丸二日ほど経ちますが、まだ街の混乱は収まってません。いえ、むしろ時間が経つにつれ広がっているような気もします」
やっぱり日付ワープしていたか……、でも二日で済んで良かった、まじで。
「ルナさん? 広がってるというと街に何かあったのでしょうか?」
「はい、あの事故の後、隊長が懸念していた通り、街中に魔瘴石が出現しました」
「……やはりそうでしたか。ということはモンスターも?」
こくりと頷くルナ氏。
「街の至るところに現れて人々を……」
そう語ると徐々にルナ氏の表情が曇っていく。
空気を読んだ童貞は。
「それはなんとも痛ましいことでしたね」
と、すぐさま言葉を被せた。
「ジャスバールの騎士団や冒険者ギルドが、すぐに対応に乗り出したのですが、モンスターの出現した数が多すぎて未だ解決しきれてません」
「それだけ流出した瘴気が多かったってことですか」
「……はい、街中にモンスターが現れたことで、民間人の避難誘導が大変で犠牲者も多く……その」
そう語り終えると俯いてしまうルナ氏。
どうやら童貞の想定以上に被害が大きいようだ。
く、女神の悲しむ顔は見ているこちらが辛い。
なぜ俺は魔法陣を優先して破壊しなかったのか。
「すみません、ルナさん。もっと早くに魔法陣を破壊しておけば、ここまで被害が大きくなることもなかったですね。優先順序を間違えた俺のミスです」
そう語り頭を下げようとすると……。
「違います!! 隊長のせいではありません!!」
何故か声を荒げるルナ氏。
若干、言葉に怒気を感じたが、語ったルナ氏の顔はとても悲しそうだった。
「ですが、ルナさんが悲しむような結果となってしまいました。とても不甲斐なく感じます」
「そんなこと言わないでください! 隊長がいなかったら、もっと被害が広がってました!! 隊長がいなかったら……、隊長がいなかったら……」
ルナ氏の瞳からボロボロと溢れる大きな雫。
おうふ……、どうしよう? 思わぬ展開で女神を泣かせてしまったぞ?
え、まじでどうすれば……? と、とりあえず、ハンカチを……。
「ル、ルナさん、これを」
「ありがとう……ございます」
童貞のハンカチで涙を拭うルナ氏。
ハンカチを渡しに行ったことにより、座ってるルナ氏の隣で棒立ちとなる童貞。
イケメンスキルが恐ろしく乏しいせいで、ルナ氏に掛ける言葉が見つからない、どうしよう?
しかし、声を荒げられたことよりも、目の前で泣かれたことの方にびっくりした。
心臓の鼓動がルナ氏に聞かれるんじゃないかと思うほどドキドキしている。
根性でなんとかポーカーフェイスを保ってるが、内心冷や汗だらだらのガクブルだ。
まじでそろそろイケメンスキル生えろや、おい。
そんな折、ルナ氏の口が先に開く。
「ごめんなさい、こんなこと言うつもりじゃ……。でも、本当に隊長は何も悪くありません。むしろ最悪の展開を身体を張って防いだんですよ? 感謝されこそすれ非難される覚えはありません」
「ルナさん……」
「だから自分が悪いだなんてことを言われると、その方が私は悲しい気持ちになります。……だって私にとって隊長はヒーローなんですから」
ぐぅぅぅうう……。
胸が、胸のドキドキが止まんねぇぇぇぇええ。
なんなんだこれは、おい、心臓、ちゃんと仕事しろ!?
童貞を不整脈で殺したいのか!?
「も、もう二度と言いません! ルナさんの悲しむ顔を見るのは俺も辛いので約束します! やはりルナさんには笑顔でいてほしいので。それに笑ってるルナさんの方が好きですし!」
「わ、私もそうやっていつも優しくしてくれる隊長のことが……、って、何言ってんだろう、私。そうじゃなくて……その」
童貞が優しいですと?
いやいや、逆だからルナ氏よ。
「ルナさん? 逆ですよ。優しいのはルナさんの方です。そんな優しさにいつも勇気づけられ支えられています。だから本当にルナさんには感謝してるんですよ?」
「隊長……」
ん、あれ、どうした?
なんか変だ。
ルナ氏が潤んだ瞳で、しかも上目遣いにこちらを見つめてるんだが?
あれ、なんだ、これちょっと良い雰囲気なのだが、あれ? あれー? ちょっと、おい、まじか。
自然とお互いの顔をゆっくりと近づけていくルナ氏と童貞。
ルナ氏が目蓋を閉じたので、童貞も同じように目蓋を閉じる。
そして鼻先が触れる距離までくると……。
ガチャリと再び部屋のドアが開いた。
「おおー、ヨハン殿! 目が覚めたのですね、良かったー! 心配で様子を見にきたんですよ! 身体の調子はどうですかな?」
入ってきたのは空気を読まないクソ親父……、そう、イケオジ大臣のブリスタンだった。
そしてブリスタンが入室したと同時に、狼さん顔負けな超反応で平静を装う童貞とルナ氏。
「え、ええ……お蔭様で……な、治りました……」
「そうでしたか! いやー、ほんとにヨハン殿が無事で良かった! これほど嬉しいことはない!」
どうしよう……、殺意の波動に目覚めそうだ。
これほど全力で爆炎千魔を撃ち込みたいって思ったことないんだけど?
あと少しで、あと少しでぇぇぇ、くそぉぉぉぉぉ!!
もはや血の涙が止まらねえよ。
「本来であれば陛下より、ヨハン殿にお言葉掛けをしていただきたかったのですが、今は状況が状況だけに難しくなってしまいましてな」
「……それほどまでに街の状況が悪いのですか?」
権力の臭いを感じ、気持ちを切り替えてイケオジの話を聞くことにした童貞。
空気は読まないが、イケオジは決して悪い男ではないのだ。
むしろ良い奴。
それだけに今のように笑って地雷を踏まれると殺意が湧いてしまう。
「はい……、魔瘴石の出現にモンスターの発生、そしてそれにともないダンジョンも完全封鎖したため、陛下は現在諸外国の対応に追われております」
「え、ダンジョンを完全封鎖したんですか!?」
あれ、これは中々ヤバい状況なのではなかろうか?
魔石もそうだが、一番重要な食料や水といったライフラインが完全に途絶えると、国民による暴動が起きることは歴史が物語っている。
特にダンジョンありきの生活をしているジャスバール国民にとって、ダンジョンの完全封鎖は大問題だろう。
「ええ、あの瘴気流出事故の後、ダンジョン上階にも魔物が溢れ出したため、入り口を閉めざるを得ませんでした」
「ではその時ダンジョンに潜っていた方は……」
「……はい。苦渋の決断でしたが、仕方なく……」
なるほどなー。
中にいた冒険者たちは我々の救助待ちかー……。
街は街でモンスターとエンカウントするような世紀末設定となってしまったし。
つーかさ、もうそこら中問題だらけやんけ、やってくれたな、あのチンパン王子め!!
そして、しばらくそのまま会話を交わしていると、イケオジは満足したのか部屋を退出して行った。
ふぅ、やっと帰ってくれた。
ルナ氏とのスウィートタイムを邪魔しやがって。
早くあの続きをせねば。
「た、隊長! わ、私もそろそろ行きますね! ま、また後でみんなと一緒に集まりましょう!」
そう語るとルナ氏も慌てて部屋を出て行ってしまった。
え、なんで? 続きは?
「………………」
おい、イケオジ、覚えてろよ?
まじでお前を一生恨むからな?
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございました♪
五章はこれで終了とさせていただきます。
しかしジャスバール編はまだ少し続きますので悪しからず。
六章でジャスバール編は完結予定ですので、もう少しお付き合いください。
現在、六章を作成途中なのである程度書き溜め出来ましたら、またUPしてまいります。
こんな小説を面白いといって応援してくださる皆様、本当にありがとうございます。
六章も近いうちにアップしますので、また読んでもらえると嬉しいです。
最後に夜に幕間の人物紹介だけアップ予定です。
よろしくどうぞ!




