4話 オーク掃討戦その3 一つの壁
またもや一日早く更新です。
魔障石が、三十匹のオークを生贄に自らを防衛させようと生み出したユニークモンスター。
オークよりも遥かに巨体で、体長は軽く三メートルを超えていた。その醜悪な顔から伸びるは人の腕ほどの太さの四本牙。
こんもりとした筋肉のついた両肩には、牙と同じ太さのスパイクが付いたショルダーアーマーを装備。
巨大な戦斧を右手に携えて、凶悪極まりないモンスターが俺たちの眼前に現れた。
おいおいおい……、まじかよ。
この世界ではオークが三十匹集まると合体するみたいなんだけど、どーいうこと? スライムじゃないんだからさ、勘弁してくれよ。
「ケイシーさん? ちなみにあのモンスターって何だかわかります?」
こんな時に頼りになるモンスターオタクのケイシー様。知っていると助かるが……。
「ガ……、四牙巨豚鬼だと思います! 非常に好戦的で、オークなんて比較にならないほど強いモンスターです!」
知ってたし。
そのモンスター知識はさすがと言わざるを得ない。
「何か弱点はありますか?」
「い、いえ、特にはそのような記載はなかったかと……。で、でも、それは逆になんでも通じると言うことだと思います! 相手は近距離戦闘が得意なようなので、距離を取って戦えばもしかしたら私たちでも倒せるかもしれません」
なるほど。もしかしたら、ね。
であるならば、そんな危険な橋は渡らない方が無難だな。ここはオーキスさんに任せた方がいい。
――しかし。
そんな甘っちょろい俺の考えを見透かしたかのように、オーキスさんが。
「いいね、それは面白そうだ! ヨハン君? 俺から一つ課題を出そう。君たちのチームだけであのモンスターと戦ってもらおうか」
そんな馬鹿なことを語り始めると言う。
いきなりボス戦とかふざけるなとしか。せめて何かしらの準備はさせてほしい。
戦闘前にHPMPを回復してくれるボスの爪の垢を煎じてオーキスさんに飲ませてやりたい。
「あの、オーキスさん? さすがにそれは承諾しかねます。我々新人だけであのモンスターの討伐は危険すぎますよ」
「危険? 何を言ってるんだヨハン君? きみはあいつよりも危険なモンスターと一度戦ってるじゃないか! おかしなことを言うな、はっはっはー!」
ダメだ、この人。
それまでのプロセスをガン無視の上、結果しか見てない地雷上司かも。あれは正真正銘の命懸けだったんですよと言ってやりたい。
「それにヨハン君? 仮にこれが町中だったら、きみは同じセリフを言うのかね?」
「そ、それは……」
ぐぬぅ、いきなり痛いとこを突いてくるんじゃないよ。何も言い返せなくなるじゃないか。
「ヨハン君が言いたいことは良く分かるが、安牌な選択ばかりしていては駄目だぞ? いずれ同じような場面が来た時に、俺がいなかったらどうするんだ? 困るのはきみたちであり、真に守らなければいけない人たちだ。そうなった時に必要なのは、こういった困難を乗り切るための経験だと思うがね?」
そんな正論で諭されてしまう始末。
確かに強敵相手に確実に勝てる状況下になるのは稀だ。あの鉱山での戦闘は奇跡でしかない。
オーキスさんが言う通り、ここで経験を積んだ方が良い気もしないこともないが、他のメンバーの意見も気になるところ。
そんなことを考えているとラウルが。
「ヨハン、戦ってみようぜ! 前はヨハン一人に任せちまったけど、今回は力になってみせるからさ!」
それに続くようにしてルナ氏も。
「そうですよ、隊長? 隊長が過保護なのは承知してますけど、それだといつまでたっても私たちは隊長のお荷物のままです。私たちはもっと隊長の力になりたいんです」
ニコっとした笑顔でそう語る。
これには思わず。
――おお、おおおお、おおおおおお!!
と、心の内で呻いてしまうという。
長い童貞人生の中でこれほど人望を得たことがかつてあっただろうか?
それは否。
誰かに信頼されるっていいもんだな。
大事にしたいその想い。
「ヨハン! ぼーっとしてないでさっさと始めるわよ? どうすればいいか早く指示しなさい」
餌を前に待ちきれない様子のローズリリイ。
なんだかんだ言って、こいつも俺の指示を素直に従うところを、それなりに信頼を得ている証拠。
結局、仲間を信頼出来てないのは俺の方というわけか。
「オーキスさん、すみませんでした。あのモンスターは我々だけで倒してみせます!」
「ああ、任せた! さあ、みんなで協力して一つ壁を乗り越えてみせろ!」
「「はい!」」
そうして全員に気合が入るが、相手は泣く子も黙るユニークモンスター。
万が一があってもシャレにならないので、さっき手に入れたスキルをカンストさせておく。
その結果がこちら。
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・名前:ヨハン
・種族:ヒューマン
・年齢:16
・職業:王国兵士
・LV:18
・SP:310
〔発現スキル一覧〕
《アクティブ身体強化一覧》
・筋力強化 練度【10】★
・体力強化 練度【10】★
・反応強化 練度【10】★
・才覚強化 練度【10】★
・魔力強化 練度【10】★
・精神強化 練度【10】★
《流派スキル一覧》
☆アルフェリア王国流護身術
・護身剣術 練度【10】★
・護身体術 練度【10】★
《戦闘補助系スキル一覧》
・気功法 練度【10】★ NEW!
・硬気功 練度【10】★ NEW!
・気刃 練度【10】★ NEW!
《歩法系スキル一覧》
・天空闊歩 練度【10】★ NEW!
・立体機動 練度【10】★ NEW!
・縮地 練度【10】★ NEW!
《感覚系スキル一覧》
・気配察知 練度【10】★
・気配遮断 練度【10】★
・威圧 練度【10】★ NEW!
・殺気 練度【10】★ NEW!
《魔法系スキル一覧》
・初級火魔法 練度【10】★
・初級風魔法 練度【10】★
・初級土魔法 練度【10】★
・初級回復魔法 練度【10】★
《魔法補助系スキル一覧》
・体内魔力操作 練度【10】★
・術式制御 練度【10】★
《加護一覧》
・ガイアードの祝福
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いよいよ、俺も人外へのカウントダウンが始まった気がする。
それでも生身はまだまだ未成熟。
身体強化の使いどころを見極めねば。
さて、作戦をどうするかな?
こういう脳筋系モンスターは、ゲームでは前衛が敵を引き付けつつ、後衛の大火力を叩き込むに限るが、実際やるとしたら果たしてどうなのだろう?
戦いながら状況に応じて変えていくしかないか。
「作戦を伝えます。今回はルナさん、ケイシーさんの攻撃をメインアタックとします。残りのメンバーは敵を可能な限りその場に引き付けてください!」
「「了解!」」
こうしてチームとして初となるボス戦へと挑むことに。
「いきます!」
俺の合図で一斉に走り出す。
相手も俺たちを敵と認識したのか、重い咆哮を上げた!
「BUHIIIIIIーー!!」
真っ先に狙われたのは、なぜか俺。
なんでー!?
ガルムオークは巨大な戦斧を構えると、俺目掛けて横に薙いで来た。
このままジャンプで避けてもいいが、すぐ右後ろにいるネイ氏に当たると厄介だ。
ここは弾くか。
――身体強化、練度5、発動!
そして愛剣に魔力を送ると、その刀身が魔力の刃を形成してグンと伸びる。
およそ二メートルほどの大剣となる我が愛剣。
それを戦斧に打ち付けるようにして振り切った。
刹那。
――ガギャンッ!!
爆発したかのような金属音。
飛び散る火花がその威力を物語っている。
お互いその衝撃で大きくのけ反ることになるが、隙ありと言わんばかりに残りの三人が次々と攻撃を入れていく。
ラウルの斬撃に、ネイ氏の強打、そしてローズリリイが。
「――アンガスター流、五ノ太刀、斬鉄一輪華!!」
闘気をまとった強力な一撃をガルムオークに叩き込む。
先ほど俺が覚えた飛ぶ斬撃【気刃】を応用した【武技】のようだ。
巨大なガルムオークの身体が斜めに切り裂かれ、血しぶきが吹き上がる!
しかし、まだこれでも浅い。ドントロールとまではいかないが、こいつの防御も硬いな。
反撃に転じようとガルムオークが再び戦斧を振り上げるが、そこにルナ氏が風を纏った矢を放つ!
「――震風牙!」
風が渦巻いた矢は、ガルムオークの右腕を貫通。
結果、右腕に二十センチほどの大きな穴を残すことに。
ルナ氏の【武技】が見事に決まった!
これにはガルムオークも堪らず、持っていた戦斧を地面へと落とす。
さらに追撃と言わんばかりにケイシーの魔法も飛んでくる。
土の魔道書を片手に茶色の魔法陣を形成。
そして――。
「――螺旋黒曜槍!」
岩で出来た巨大な黒い突撃槍が、ガルムオークの腹部に直撃する。
「GUHIIIII--!!」
悲鳴のような叫び声を上げるガルムオーク。
ケイシーの放った黒槍は貫通せずに、痛々しく身体に突き刺さったまま。
奴の分厚い肉の鎧が災いしたな。
ただ、ケイシー渾身の中級魔法だったようで、彼女も魔力切れでその場にへたり込む。
するとガルムオークが力任せに岩の黒槍を引き抜いて、それをケイシー目掛けて投擲。
これはまずい。
槍の射線上に俺が割って入り、剣でこれを弾く!
「みんな! 一気に畳み掛けるぞ!」
俺の指示で全員が一斉に動き出す。
「あたしが奴の足を止めるわ! ええぃ!!」
ネイ氏がそう叫ぶと、ガルムオークの左膝目掛けて槌矛を全力で打ち込む!
まさに会心の一撃。
ガルムオークがバランスを崩し、片膝をつく形に。
「くらえ!!」
ラウルが放った斬撃がガルムオークの左腕の腱を斬る。
そして最後はローズリリイが。
「とどめよ! ――斬鉄一輪華!」
ガルムオークの懐に潜り込んでいたローズリリイが、逆袈裟気味に先ほどの【武技】を発動。
斬撃は×の字になるように刻まれて、ガルムオークはそのままズシンッと力なく地に伏せた。
するとローズリリイはくるりと俺の方に向き直り――。
「いえい、勝利!」
と、笑顔でピースサイン。
あーあー、調子乗っちゃって。ユニークモンスターを倒せたことがよっぽど嬉しいらしい。子供か?
まあ、あいつらしいと言えばあいつらしいけど。
なにはともあれ、あのデカブツを倒せ……。
――その時だった。
「BUHIィィィーー!!」
地に伏せたガルムオークが突如雄叫びを上げながら起き上がる!! そのまま右腕を振り上げ、狙うは無防備のローズリリイ。
危ない!?
考える間もなく、勝手に身体が反応する。
意図せず使ったのは練度MAXの【縮地】。
ローズリリイを左腕で抱きかかえる形で、ガルムオークの攻撃を間一髪に回避する。
そして振り向き様に、スキル【気功法】で闘気を練り上げ、それをスキル【気刃】に乗せて愛剣を振り切った。
――スパンッ!!
闘気の刃はガルムオークの首を捉えることに成功。刎ねられた首は地面をゴロゴロと勢いよく転がっていった。
「リリイさん、怪我はありませんか!?」
思わず叫ぶそんな台詞。
まじで間一髪だった。それくらいギリギリ。
「え、ええ! だ、大丈夫よ!」
ローズリリイもガルムオークの不意打ちにテンパっているのか、自分の身体を確認もせずに咄嗟にそう返す。
こらこら、反射で返すんじゃないよ、まったく。
念のためローズリリイの顔や身体をまじまじ見るが、本当に問題なさそうだ。
というか……。
くそっ、こいつも女子スキル【童貞を惑わす芳香】を持っているのか。髪の毛から無駄に良い香りがする。
俺は健全なるツンデレ愛好家。こいつに変な感情を抱いてはダメだ。破綻する未来しか見えない。
それにツンデレとは観賞するもの。そう壺と同じ。
あれはいいものだ。
「リリイさん? 戦闘中に気を抜かないでください! ほんと寿命が縮みました。今回は間に合ったからいいものの、回復魔法でも完治しない怪我を負ったらどうするんですか?」
「わ、わかったから! と、と、とりあえず下して! か、かか顔が近い」
どうやらお嬢様は童貞フェイスがお気に召さない様子。まあ、これは致し方なし。伊達に転生してまで童貞をやっていない。
ローズリリイを足先から丁寧に下す。
その際にローズリリイが小声で「ありがと……」っと囁いたのが、なんとも小動物的な可愛らしさを感じた。
さて、勝鬨を上げないと。
「皆さん、我々の勝利です!」
「やったなヨハン!」「まさかユニーク相手に勝てるなんて、隊長殿さすがです!」「もー、無茶するんですから。でもカッコよかったですよ隊長?」「……隊長さん、お疲れ様です。勝てて良かった」
何故か良いとこ取りをした俺が褒められるという。なんかすんません。それでもなんとかなった安心感からか、俺もほっと胸を撫でおろす。
こうして自身二回目となるボス戦を無事乗り越えることが出来た。
さて、次は事後処理だな。
あ、ガルムオークを倒せたおかげでレベルが一つ上がりました。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでいただき誠にありがとうございます!
ユニーク撃破の回でした。
書いてて分かったのですが、この三章長くなりそうだな、と。
ちょっとまとめ直すので、少し更新にお時間をくださいませ。
しばしお待ち頂ければ幸いです。
次回は9月5日(火)予定ですが、土日にずらして休日更新にするかもしれません。
最後にこの数日間、誤字報告、感想、いいね、ブクマ、評価をいただきました読者の皆様、本当にありがとうございます。更新頑張りますので、お付き合いください。




