5話 厄災襲来 その1 依頼
「はっはっはっはー! 見事、実に見事だ諸君!!」
ガルムオークにトドメを刺すと、オーキスさんから豪快な拍手と賛辞を頂戴した。
あの人を見ていると、どことなく学校の体育教師を思い出すのはなぜだろう?
ザ・体育会系の臭い。
「ええ、なんとか無事倒せました。みんなのおかげです」
そんな俺の言葉でオーキスさんの総評が始まった。
「そうだな、俺も良い連携だと思った。だがガルムオークにとって一番の誤算は、あの初撃をヨハン君に弾かれたことだな」
おお、あれか。
あまりの威力にお互いのけ反ったやつね。
「ヨハン君は意図していなかったと思うが、あとコンマ何秒でも弾くのが遅れてたら、ガルムオークの【武技】が先に発動して、吹き飛ばされていたのはヨハン君の方だった」
「え、あれって【武技】を使おうとしてたんですか!?」
「やっぱり気が付いていなかったか。だったら運が良かったな。ヨハン君が、その【武技】を発動前に潰したおかげでパーティの連携は活きた。逆を言えば相手の【武技】が発動していたら、瓦解していたのはきみたちの方だったかもしれないと言うことだ」
圧勝かと思いきや、意外と紙一重だったのね。
毎度のことながら綱渡り。
「だが、それでもあの連携は見事だ。ガルムオークに反撃を許さないそのチームワーク。冒険者ランクで言ったらゴールドにも匹敵する連携の良さだろう。もっと個々の練度を高めれば下位のユニークであれば余裕を持って倒せると思うぞ。ともあれ今回はよくやったと褒めておこう」
「ありがとうございます、オーキスさん」
「さて、じゃあ魔瘴石を回収してさっさと撤収しようか」
「え、回収するんですか? 破壊する予定だったのでは?」
「ああ、あの障気がたんまり詰まった状態であれば破壊するつもりだったが、ユニークを吐き出したおかげで今は空の状態だ。せっかくだから、このまま持って帰って俺の古い知り合いに見てもらおうと思ってな。それに市街地であればよっぽどモンスターは生まれんよ。それこそ誰かが故意に瘴気を注入しない限りな」
うーん……、個人的には破壊しておいた方がフラグも立たないし無難だと思うが、そんなことをオーキスさんに言ったところで却下されるのが目に見えている。
ここは素直に従っておくとしよう。直属の上司とはなるべく良い関係を築いておきたい。これが俺の処世術。
ともあれ、こうして我々ブルークレア隊は、倒したオークの魔石と魔瘴石を回収して砦を後にすることに。
その帰り際、オーキスさんが先程よりも強力な斬撃の数々で、オークの砦を粉々に破壊するのを目の当たりにし、一人密かにドン引きしていた。
どうやらさっきのが本気じゃなかったようだ。あれでも魔障石を壊さないよう手加減していた様子。
あの人ってほんとに俺たちと同じ人類なのだろうか? この世界の偉い学者さんから『ホモサピエンスの新種です』と言われたとしても不思議ではない。
命名するならゴリサピエンス、これ一択。
そんなこんなあり、イリアさんとも合流して、そのまま帰路に就いた我ら一同。
再び馬車に揺られて数時間。
夕方には支部へと帰還することが出来た。
さらなる任務が俺たちに待ち受けているとも知らずに。
◆◇◆
支部へと帰るとさすがに疲れたのか、みんなリビングのソファーでぐったりと座り込む。
なんだかんだ言ってオークを五十匹以上も討伐しているのだ。疲れないはずがない。
かく言う俺もかなり疲れた。
今日はもう働きたくない。というか風呂入って寝たい。気分としてはもうすでに解散したいところ。
しかし悲しいかな公務員。
オーキスさんがカミラさんに、一連の流れを報告している最中なので、これを待たずして勝手に解散は出来るはずもなく。
それから待つことしばらく。
リビングへとやって来たのはカミラさん一人。オーキスさんとイリアさんの姿はない。
「皆さん、本日はお疲れ様でした。オーキスさんとイリアさんは回収した魔瘴石を解析するために、さっそくハーフベルの鑑定局へと行かれました。先に私たちだけでミーティングを始めておいてくれとのことでしたので、明日からの予定について話したいと思います」
なるほど、オーキスさんの知り合いって鑑定局の人だったのか。そりゃ元プラチナランクだし伝手もあるか。
というか……。
「カミラさん、もう明日の予定があるんですか?」
仕事をしたくないわけではないのだが、連日ガルムオークのようなモンスターを相手にはしたくない。ああいう手合いは一年に一回ペースでお願いしたいところ。
「はい、実は紅衆の方々が、昼間に支部まで訪ねてこられたんですが――」
ああ、そう言えばそんなこと話してたな。それにしてもなんとタイミングの悪いことか。まさかこんなに早く訪ねてくるとは。
「――先日の謝罪と、現在のギルドの内情を話されていったのです」
「そうでしたか。それにしても急なご来訪でしたね」
「ええ、なんでもプラチナ指定の緊急クエストが入ってしまい、今日にもハーフベルの街を出立しなければならないとおっしゃっていました。しかも今回は長期の依頼のようで、しばらくは帰ってこられないみたいです」
「長期遠征ですか。さすがプラチナランクともなると忙しそうですね。ちなみにカミラさんは彼らとどんな話をされたのでしょうか? ただ単に身内の謝罪だけで彼らがここまでやってくるとは思いませんが?」
ふと脳裏に浮かんだのは、やはりギルドマスターの案件。もの凄く面倒なことに巻き込まれていないと良いが。
「それが、ギルドマスターのことで少し……」
ですよねー。
それ以外に何があると言うのか。
最早ハーフベルのギルドマスターが生粋のキチガイでないことを祈るばかり。
「やはりそうでしたか。それで彼らはなんと?」
「エラルドさんから話を聞く限りですが、いつものギルドマスターであれば、先日あったようなトラブルを放置しておくような人ではないとおっしゃってました。エラルドさんたちも事情を聞こうとしたようですが、ちょうどギルドマスターがハーフベルの代官との打ち合わせに出掛けてしまったようで、会えずじまいとなってしまったようです」
ハーフベルの代官と打ち合わせ?
確かここの代官ってハーフベル警邏隊の総司令も兼任だったはず。お互い組織の仲は悪くても、治安維持などの話し合いくらいはするのだろうか?
すると続けてカミラさんが。
「ギルドの内情としては、次々に入ってくる討伐依頼を消化し切れないせいで、ギルド内は殺伐とした雰囲気になっているようです。そのせいかフラストレーションが溜まった冒険者同士のトラブルも多いと聞きました」
「なるほど、やたらと血の気が多いのはそう言う理由でしたか。他の皆さんも身内が揉めてるのに我関せずでしたしね。よっぽど日常的にあるのでしょうか?」
「そんなことはないと思いますが、けれどあの冒険者の方は少し異常なほど暴力的ではありましたね」
「ええ、何かしらの処分が下っているといいのですが、おそらく望みは薄そうですね」
「はい、それについては私からも改めてギルドマスター宛に抗議文を出そうかと思ってます。ヨハンさんに暴行を働いた、あの冒険者をこのまま野放しにすることは出来ません!」
むんすと拳を強く握りそう語るカミラさん。どうやらこんな童貞のために怒ってくれている様子。あまり無理はしてほしくないが、今はその好意が嬉しい。
「ありがとうございます、カミラさん。では、しばらく我々も冒険者ギルドには近づかないようにしますね」
触らぬ神に祟りなし。地雷と化している冒険者ギルドには立ち寄らないことにしよう。
「そうですね、その方が良いかと。あと最後にこれをヨハンさんに渡すように、エラルドさんから預かってるものがあって――これです」
カミラさんがそう言うと、手元の資料から一枚の羊皮紙を取り出した。
卓上に広げられたのは一枚の地図。
「ハーフベルの周辺図?」
地図には街から周囲十キロ圏内に記された数多くの×印。しかもそれは街を包囲するような形で記載されていた。
あー……、考えたくはない。考えたくはないけれど、なぜか脳裏に浮かぶはオークの砦。
「あの、カミラさん? まさかこれ……」
「はい……、魔物の巣らしき目撃情報をまとめたものです」
……やっぱり。
でもこれはさすがに多すぎでは?
そこらかしこに×ばっか!
「カミラさん、さっき言ってた明日からの予定ってこれのことなんですね?」
「はい、エラルドさんからどうしても急ぎで調べてほしいと言われまして……。オーキスさんにも先ほど事情を相談したら、訓練がてら討伐に行きたいと。私もさすがに判断に困り皆さんに相談してから決めたいと思いまして」
やりたくない、やりたくないが、さすがにこの数を見て見ぬふりをするのもちょっとな。
童貞が若干引きつつ返答に困っていると。
「ヨハン、やりましょうよ! 魔物の討伐がこんなにあるなんて最高の修行じゃないの!」
生粋の脳筋と化しつつあるローズリリイがそんなことを言う始末。場の空気を読まないのな?
「ちょ、ちょっと待ってくださいリリイさん! まだ話の途中なので」
「何よー、邪魔者扱いして。私は賛成だからね!」
くっ、まだ明確な情報じゃないまま賛成票をいただいてしまった。何も考えないって逆に羨ましいぞ。
「ちなみにカミラさん? エラルドさんたちがギルドでなく、こちらに話を振ってきたのはオーキスさんがいるからですね?」
「はい、そうです。エラルドさんたちも下手な冒険者を集めて討伐隊を組むよりも、オーキスさんが在籍する特務隊に依頼をした方が効率が良いと思ったそうです」
ですよねー。
あの戦いっぷりを見る限り、ハーフベル最強だもんな。ということは、その隠れ蓑になる俺たちもやはり強制的に出動しないとダメなわけね。
「事情は理解しました。魔物の討伐に行くのは構いませんが、この情報の出所はどこでしょうか? エラルドさん一人でこの数を把握していたとは思えません。言い方は悪いですが、罠の可能性も考えられます」
そんな俺の言葉に。
「この情報をまとめられたのは――」
続くカミラさんは言い辛そうにして。
「――ハーフベルのギルドマスターであるエレーナさんです」
「え?」
カミラさんの突拍子のない答えに一瞬思考が止まった。
「驚かれますよね。私もそうでした」
俺を嗜めるようにして語るカミラさん。
おいおいおい……、ここにきてギルドマスター?
脳内は、『なんで?』の嵐。
ギルマスって諍いの元凶じゃないのか?
「カミラさん、それこそ偽情報だったり罠だったりしませんか? 俺たちを本格的にはめるための」
「ギルドマスター直属の暗部の方が調べられたようなので情報に間違いはないそうです。地図も全てその暗部の方から受け取ったとエラルドさんがおっしゃってました」
暗部って……。
実際いるのね、異世界忍者。
念のためこの屋敷内に気配察知をかけたが、さすがにここにはいないようだ。
というか、いたら逆に怖ぇーし。
「そう言えばオーキスさんってギルドマスターのことを悪く言わないですよね? それほど信用されてる方なのでしょうか?」
「そのようですね。ヨハンさんと同じことを質問したら〝問題ない〝とだけ返されました」
なるほど。
つまりこの騒動の元凶が他にいるってわけね。
となると誰だ?
ギルドマスターにすら圧力を掛けられる人物って。
「そんなギルドマスターから我々宛の伝言も預かっています」
「伝言……ですか。なんでしょう?」
恐る恐るカミラさんの言葉を待つ童貞。
もはや嫌な予感しかしない。
「ハーフベルの代官――」
ちょっと待て。
その元凶ってまさか……。
「――『ワールザック・ローガンには気をつけろ。私は常に監視されている』とのことです」
ハーフベル警邏隊の総司令じゃねぇか!!
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでいただき誠にありがとうございます!
中々上手くまとめられずに四苦八苦しておりました。これで三章もやっと中盤。後半にかけてブーストをかけていきます!
最後にこの数日間、誤字報告、感想、いいね、ブクマ、評価をいただきました読者の皆様、本当にありがとうございます。更新頑張りますので、お付き合いください。
次回更新は13日(火)の予定です。




