8話 冒険者ギルド
――迎えて翌朝のこと。
今日はカミラさんと一緒に冒険者ギルドへと挨拶に行くため、俺もフォーマルな服を着ていくことになった。
警邏隊が式典などで着用する宮廷服のような礼服である。
すでに万能執事オリバーさんが、昨日の内に上下セットを揃えておいてくれるという、なんとも凄まじい手際の良さを発揮してくれた。
童貞はただ着替えるのみ。
しかし。
なぜか服を着ようとすると、ロマンスグレーのイケおじオリバーが、ちょくちょくサポートに入ってくるのだ。
それはもうお前は俺の嫁かと思うくらい献身的に。
シャツのしわや、襟の位置をこれでもかと言うほど調整していく。しかもミリ単位。
くっそ、イケおじの顔が無駄に近い。
なぜサポートがメイドではないのか、……解せぬ。
そんな感じたくもない、イケおじオリバーの吐息を感じることしばらく。
彼の合格点を得たのか。
「とてもよくお似合いでございます」
「あ、ありがとうございます」
お世辞にもそう言ってくれるイケおじオリバー。褒められることに慣れていない童貞の心を鷲掴みにしてくれる。
でも確かに鏡に映る姿はそう悪くはないと思う。
髪もアップにまとめ、異世界人生初の正装。
自分が自分じゃないみたい。
なんだか懐かしな。初めてスーツに袖を通したときのような感慨に耽る。
「ヨハン様、カミラ様の準備は今しばらくかかるとのことです。一階のリビングにてお待ちください」
「わかりました。ありがとうございました、オリバーさん」
こうしてトゥインクルに変身した童貞は、足取りも軽やかに一階リビングへと移動。
気分はまるで童話に出てくるイケメンプリンス。
なんならスキップからのターンも出来ちゃう。
優雅にアンドゥトロワでリビングへと到着。
部屋ではミーハー女子三傑とローズリリイが寛いでいた。
そんな俺の姿が彼女たちの視界に入ると。
「えー、隊長!? どうしたんですか、その格好? すっごく似合ってますよ!」
「おお、隊長殿! なにやら雰囲気が違いますね!」
「んー…………、有りです」
「へぇー、そういう格好も意外と似合うのね」
面々のざわつきを頂戴した。
印象は悪くない様子。童貞嬉しい。
「はい、ちょっとカミラさんと外出する予定がありまして。これから少し出掛けてまいります」
「カミラから聞いているわ。冒険者ギルドでしょ? そんな格好より、ちゃんとした武装をして行った方がいいんじゃないの?」
なんだ知ってたのか。って、当たり前か。オリバーさん動いてるもんな。
というかちゃんとした武装って何よ?
「リリイさん? 戦いに行くわけではありませんから武器は必要ありません。今回は挨拶に行くだけですので」
「そうなの? 残念だわ。戦闘があるならついていったのに。私の出番はなさそうね」
どうしてそう武力に走るのこの子? こと戦闘に関したら、野生のオオカミ並みに扱い辛そうなんだけど?
だがこれも、彼女なりに役に立ちたいという気持ちがあってのことだろう。童貞はヨイショするタイミングだけは見逃さない。
「ありがとうございます、リリイさん。とても心強いですが、お気持ちだけ頂戴しておきますね」
「ふ、ふん! いつでも頼ってくれていいんだからね! だからその時はちゃんと言いなさいよ!」
顔を赤くしながらもツンデレスタイルを貫くお嬢様。
いつまでも折れないメンタルに乾杯。
そんなことを語っていると、準備を終えたカミラさんがやって来た。
「ああ、ヨハンさん! お待たせしてごめんなさい! 支度に少し手間取ってしまって」
女性用礼服に身を包んだカミラさん。タイトなスカートからスラリと伸びる御御足が眩しくも美しい。あれなら素足で顔面を踏まれてもいい。
「いえいえ、そう大して待ってませんから大丈夫ですよ」
「ありがとうございます! ではさっそくですが冒険者ギルドに向かおうと思います。表に馬車を用意してありますのでそれで行きましょう」
「承知しました」
そう言って玄関に向かおうとすると。
「隊長、本当に気をつけてくださいね?」
「そうそう、先に殴っちゃダメですよ、隊長殿?」
「……せ、正当防衛を心がけてください!」
「もしヤるのなら、金輪際逆らおうとは思わなくなるくらい徹底的にブチのめしなさい」
女子たちが悉くフラグを立ててくれる。
そんなに冒険者ギルドって世紀末な場所なの!?
「心配していただきありがとうございます。無難に立ち回りますので大丈夫ですよ。では、行ってまいります」
そしてカミラさんと二人仲良く、すたこら玄関へと向かうと、警邏隊が使う二頭建ての馬車が、タクシーよろしくな感じで停まっていた。
リムジン馬車に見慣れたせいか、普通の馬車がやけに小さく感じるな。良くも悪くもローズリリイの影響は大きいと言うわけか……。
そんなことを考えながらも馬車へと乗り込み、我々は冒険者ギルドへと向かった。
◆◇◆
馬車で進むことしばらく。
見えて来たのは冒険者ギルド。
周りの建物に比べると一際大きい。
ドーム型の建物の正面入り口には、数多くの冒険者が慌ただしく往来していた。
「着きましたね」
「え、ええ。ヨハンさん、い、行きましょうか」
さすがのカミラさんも緊張している様子。まあ、大企業に飛び込み営業に行くようなもんだからな。
「カミラさん? 一度深呼吸しましょう、深呼吸。ほら、いーち、にーい……」
「は、はい! すぅー、はぁー……」
俺のカウントで深呼吸するカミラさんほんと美人。
彼女の心肺機能全てを掌握した感じで、童貞は何気に興奮しておりまする。
このままカミラさんの口から吐かれる二酸化炭素を、全て童貞の肺に取り込む所存。ばっちこい!
「……ふぅ、ありがとうございます、ヨハンさん! なんだか少し楽になりました」
ちぃ、落ち着いてしまったか。後、千カウントくらい数えても良かったのに。
あーあ、カミラ空気をもっと堪能したかったな。童貞にとって美女の吐く息とは、至高のアロマと同じ。ビニール袋に詰めて持って帰りたい。
「でもなんか不思議です。ヨハンさんって私より年下なのに、ふとした時に年上のように感じることがあるんですよね。私なんかよりずっと大人びてる感じがします」
ええ、実はそうなんですよと言ってあげたい。
転生クソ野郎でほんとすみません。
「はは、褒め言葉として受け取っておきます」
そう誤魔化して馬車を降りた。
そして我々はギルドの中へ。
室内に入ると、そこは巨大なエントランスホール。その円状に広がる壁際には、いくつもの受付カウンターが設置されており、忙しなく冒険者たちが行き来していた。
空いている中央部には、テーブルと椅子がぎっしりと埋め尽くすように配置されている。
出発前の打ち合わせだろうか、多くの冒険者がたむろしているのが見受けられた。
「じゃあヨハンさん? 私は受付けでアポを取ってまいりますので、少し待ってていただけますか?」
「承知しました。では冒険者に絡まれないように壁際で気配を消してますね」
「あはは、なるべく早く戻りますから」
冗談ではなく割とガチで言ったんだけどな。
カミラさんが受付けカウンターへと歩いていくのと同時に、童貞は学生時代に開発した対DQN専用スキル『気配遮断』を発動。
教室で空気と化す、素晴らしいスキルである。これがあるおかげで俺は三年間もの月日を平穏に過ごせたといっても過言ではないだろう。
壁際でひっそり佇んでいると、ビクンっと何やら刺激的な感触が。
これはもしや……。
スタータスウィンドウを開くとそこには。
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・気配遮断 練度【1】 NEW!
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まさかの気配遮断スキルを取得してるという。
まじかよ……。
生前ぼっちスキルを極めたおかげか、こちらの世界でもその才能を見事開花出来るなんて。
嬉しいのやら悲しいのやら。
とりあえずスキルポイントは全振りしておこう。無駄なテンプレを防げるかもしれない。
その結果がこうなる。
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・名前:ヨハン
・種族:ヒューマン
・年齢:16
・職業:王国兵士
・LV:18
・SP:382
〔発現スキル一覧〕
《アクティブ身体強化一覧》
・筋力強化 練度【10】★
・体力強化 練度【10】★
・反応強化 練度【10】★
・才覚強化 練度【10】★
・魔力強化 練度【10】★
・精神強化 練度【10】★
《流派スキル一覧》
☆アルフェリア王国流護身術
・護身剣術 練度【10】★
・護身体術 練度【10】★
《感覚系スキル一覧》
・気配察知 練度【10】★
・気配遮断 練度【10】★ NEW UP!
《魔法系スキル一覧》
・初級火魔法 練度【10】★
・初級風魔法 練度【10】★
・初級土魔法 練度【10】★
・初級回復魔法 練度【10】★
《魔法補助系スキル一覧》
・体内魔力操作 練度【10】★
・術式制御 練度【10】★
《加護一覧》
・ガイアードの祝福
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とういうか、久しぶりにステータス見たらレベルが八も上がってるんだけど?
これ絶対、首領巨獣鬼のせいだよな?
こんな大量の経験値を獲得出来るなんて、やっぱり首領巨獣鬼って格上モンスター確定じゃん。ヤバすぎる。
もうあんな危険なことはやめよう。残機設定の概念があるならまだしも、ザオ◯クすらないこの世界。命がいくつあっても足らんわ。
レベルを上げるなら安牌なメタルなスライムを狩りたい今日この頃。どっかにいないもんかね?
そんなことを考えながら、気配遮断MAXで待つことしばらく――。
完全に空気と化していた俺は、テンプレ冒険者に絡まれることもなく、カミラさんを延々と待っていた。
ただ、いくら待てどもカミラさんは戻ってこない。
一度、様子を見に行くか、と思ったその時。
エントランスホールに怒声が響き渡った。
「ふざけるんじゃねぇ!! こっちを馬鹿にしてんのか!!」
声がする方に視線を向けると、尻もちを付いたカミラさんに、怒鳴るおっさん冒険者。
これはまずいと思い、すぐさまカミラさんの元へと駆け寄る童貞。
「カミラさん! 大丈夫ですか!?」
「ヨ、ヨハンさん!?」
カミラさんを背中で庇う様にして、冒険者の間へと割って入った。
「ああ? なんだお前は?」
そう問い掛けてくるおっさん冒険者。
かなり激オコのご様子。
V字カットの頭髪に、幅広のおでこ。そこにY字のぶっとい血管が浮かび上がっていた。
頭の中にミミズでも飼ってるんじゃないかと疑いたくなるレベル。
「彼女の部下です」
「ほう、ならお前も警邏隊か。よくもまあ、冒険者ギルドに顔を出せたもんだ」
V字おっさんの周りにさらに二人のおっさん冒険者が合流。スモ〇ルグールのようにおっさんが集結してくるやんけ。
「このまま無事に帰れると思うなよ?」
そんな言葉を吐き捨てるV字おっさんの顔が怒りに歪む。
どうやら強制戦闘開始の予感。
さて、どうしよう?
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでいただき誠にありがとうございます。
なんと次回はエピローグとなります。
加筆してますが、伝わり辛いようでしたら、後に訂正するかもしれません。
そして三章からもう少し早い感じで物語を展開して行けたらと考えております。
最後にここまで読者の皆様が増えるとは思いませんでした。誤字報告、ブクマ、評価をしていただきました皆様、本当に感謝感激雨アラシ。
引き続き異世界えぶりでいを楽しんでいただければと思います。




