7話 冒険者の町ハーフベル
ちょうど太陽が上がりきった真昼間。
やっと我々は辿り着いた。
――城塞都市ハーフベル。
背の高い城門を潜ると、そこは王都にも引けを取らないくらい多くの人々が往来する町。
メインとなる大通りは綺麗に舗装され、立ち並ぶ建物も同一のレンガで作られているためか、非常に統一感があり綺麗に見える。
ただ王都と極めて違うのは冒険者の数が非常に多いこと。
石を投げれば町人よりも、冒険者に当たるんじゃないかと言うほどの多さである。
武器を携帯し、まばらな装備で歩く冒険者たち。
やはり顔面凶器な世紀末な皆さんもいるようで、正直なところ少し怖い。いや、嘘。かなり怖い。
この町の治安を心配したくなるレベルだ。
そんなことを考えながら窓の外を眺めていると。
「おい、ヨハン見ろよ! あれプラチナランクの『紅衆』の人たちじゃないか!?』
ラウルが興奮気味にそう話す。
この世界のトップランカーにいる冒険者は、日本で言うところのアイドルグループに近い。
民衆からとても人気があるのだ。
ちなみに冒険者ランクは、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアンの五段階。
その中でプラチナランクに入る冒険者は、英雄のような扱いを受ける。しかしその分、凶悪なモンスターたちと戦わなければならないが。
そんな名声を得たいがために命を落とす者は数知れず。
ハイリスクハイリターンな冒険者商売。
俺は真っ平御免である。
童貞は安定を望むのです。
「うわー、まさかこんなところであんな有名人に会えるなんて、やっぱ冒険者の町ハーフベルって言うだけはあるな!」
意外とラウルが冒険者マニアだという。
イケメンの新たな一面を垣間見た気がした。
「あら、ほんとね。紅衆たちじゃない」
「へー、リリイさんが知ってるくらい有名なんですね」
「有名かどうかは知らないけど、あそこのリーダーってうちの門下生なのよね。しかもこの前あった師範試験を合格したって聞いたわ」
「え、じゃあ紅衆も竜の牙みたいに引退して道場主になっちゃうんですか!?」
珍しく焦燥をあらわにするイケメン。
どんだけ憧れてるんだよ。就職先間違ってないか?
「んー、さすがにそこまではわからないわ。でも少なくとも、彼らが引退するって話は聞いてないわね」
「そうでしたか、安心しました! ただでさえ少ないプラチナランクの冒険者が、これ以上減るのは辛いですからね」
冒険者マニアのイケメン曰く。
プラチナランクの冒険者は、全体の割合からすると一パーセント以下。数字の前にゼロが何個もつくそうだ。
そして上級となるゴールドでやっと一パーセントあるかないか。残った割合の多くがシルバー、ブロンズ、アイアンが占める形となる。
ソシャゲのガチャにすればまさに暴動レベル。クソガチャの栄冠に輝くだろう。
課金者を舐めているとしか思えない設定だ。
しかし裏を返せば、それだけ実力主義の世界ということ。そりゃ収入の格差も出るというもの。
底辺冒険者たちってきっと苦労してんだろうな。
まじで冒険者にならなくて良かった。
安定収入最高。
そんな冒険者談議をしていると、見えてきたのはまるで外国の大使館のように立派な建物。
建物を囲う塀を越えて、リムジン馬車は玄関前へとビタ付けされる。
「皆さん、特務隊支部に着きましたよ!」
カミラさんに促されて馬車を降りる一同。
その建物の豪華さに圧倒されるばかり。
……ローズリリイ以外な?
「え、カミラさん? ほんとにここが支部なんですか? ぱっと見、どこかの貴族の邸宅にしか見えないんですけど?」
「ええ、私も初めて見た時は同じことを思いました。でもここが支部なんですよね」
そんなことを語っているとローズリリイが。
「別に大したことないじゃない。でも、うちの使用人たちの屋敷くらいの広さはあるのかしら? まっ、これなら住めないことはないわね!」
などと小憎たらしいことを語ってくれる。
「じゃあ、とりあえず支部の中を案内しますね」
カミラさんを先頭に我々一同は、屋敷の中を歩き回ることに。
庶民の俺からすれば、一言、広いと。
一階には応接間から執務室、食堂に大浴場、図書室といった施設が盛りだくさん。
アホみたいに充実しまくってる。
そして二階と三階が我々の個室となるようだ。
部屋数もかなり多く、ローズリリイの使用人にあてがっても半分以上残るだろう。
こんな建物をクランとはいえ管理維持出来るなんて、プラチナランクの財力どうなってんだよ?
下手な領地貴族よりも金持ってんじゃないか?
「カミラさん? ほんとここを使っていいんですか?」
「はい! 父が言うには不良債権になりかけていた建物を、格安で借り受けられたから問題なしとのことです」
あー、なるほど。
家賃払ってくれるプラチナランクの冒険者が解散しちゃってから、入居者未定のまま放置されてたってわけね。
もの凄い金額の管理維持費だけが飛んでいく、負の遺産になりつつあったのか。
そりゃあ、こんな金の掛かりそうな場所、どっかの侯爵令嬢クラスじゃないと、別荘気分で軽く維持なんて出来ないよな。
「そうでしたか! それなら、ありがたく使わせていただきます」
「はい! お気になさらず。それに経費はたんまりともらってますので安心してください。その分、仕事で貢献していきましょう」
カミラさんがそう語って微笑むが、若干ブラック臭がするのは気のせいだろうか?
とまあ、なんやかんやあり、部屋割りも自然と決まる。
二階がローズリリイの使用人たちが使い、三階は我々が使う運びとになった。
特に荷物整理もない俺とラウルはフリータイムとなり、各々屋敷の中を探索することに。
俺は一階のリビングへと向かい、ふかふかのソファーの上で寛ぐことにした。
いやー、家具のレベルもいちいち高い。これは異動して正解だったな。
生活水準が兵舎のそれと隔絶した差を感じるわ。
しばらくそんなまったりタイムが続いていたのだが、とある人物の登場により、それはあっさりと終焉を迎えることになった。
「ヨハンさん、ここに居たんですね! 探したんですよ?」
部屋に入ってきたのはカミラさん。
美女に探されるなんていつもに増して嬉しい。
「どうかされましたか?」
なんて少し格好つけて語ってしまう。出来ることなら、このままずっと俺のことを盲目的に追いかけてくれないだろうか?
「実はヨハンさんに一つお願い事があって……」
ほほう、お願いとな?
ふふふ……、いいだろう。ここはカミラさんの好感度を上げるチャンス。なんでも聞いちゃうゾ?
「はい、自分に出来ることならなんでも」
「ふふっ、そう言っていただけると助かります」
「それでお願いと言うのは?」
「明日、私と一緒に冒険者ギルドまで同行していただけませんでしょうか?」
ん? ちょっと待って。
なんか不穏なワードが飛び出てきたぞ? 俺のトラブルセンサーがビンビンする。
「えっと……、冒険者ギルドにですか? よければ理由をお聞かせ願っても?」
場合によってはカミラさんの好感度が下がろうとも、お断りせねばならぬ。
カミラルート封鎖の予感。
「はい、私たちがこれから取り組んでいくダンジョン調査でしたが、おそらく多くの冒険者さんたちと鉢合わせになることが考えられます」
でしょうな。
野生のモンスター素材や、ダンジョンドロップする魔石はあいつらの貴重な収入源。魔瘴石の破壊よりも、保護をすることで継続収入を得ようとしてるのだ。
新規のダンジョンが出現しようものなら手放しで喜ぶだろう。まさにうちとは真逆の考え方。そりゃあ、お互い仲も悪くなるって。
「それでうちと揉める前に、ギルドマスターに挨拶だけしておこうと思いまして」
どうしよう? 目の前の意識高い系OLがとんでもないことを言い出したぞ?
冒険者ギルドに挨拶って……。
もはや濃厚な地雷臭しかないんだけど?
商売敵とのなるかもしれない相手に、挨拶されるギルドマスターの心情とは如何なものか。
「ちなみにそれは所長からのお達しでしたでしょうか?」
「いいえ? 私の判断です」
もしやカミラさんって天然女子なのだろうか? 意図せず爆弾を放り込む系の。
いやいやいや、そんな馬鹿な……。
見た目は敏腕秘書のような美人様だぞ? きっと何かしら考えているに違いない。
元々、冒険者という奴らは、騎士団や警邏隊に対してあまり良い感情を抱いてはいない。というよりも皆無だ。
何かにつけて、取り締まりをおこなう我々も悪いのだが、毎回のように騒動を起こす冒険者も悪い。かく言う俺も脳筋冒険者に顔面を殴打されたし。
まさに犬猿の仲とも呼べる間柄。
おかげでお互いの情報共有もままならいのが、我々の現状でもある。暗黙の不可侵条約を締結しているように思えるくらいだ。
「そうでしたか……。ところでカミラさん? 先方はなんとおっしゃってるのでしょうか?」
「それがギルドマスターとは連絡が取れていなくて。手紙も何通か送ったのですが返事がないんです」
オウ……、しかもアポなしでの凸だと言う。
もはや地雷なんて生温いもんじゃなくて、灼熱の溶岩溜りに自分から飛び込むようなもの。
あー……、どうしよう?
すっげぇ行きたくない。
「であれば、もう少し様子を見てからの方が?」
「それも考えたのですが、明後日からさっそく調査依頼が入っております。万が一、冒険者パーティと鉢合わせてトラブルになるよりも、先にある程度お互いを認識しておけば余計なトラブルも避けられると思いまして」
んー……、確かにそれは一理ある。
現地で殴り合いに発展するなんて御免だ。
でもなー、どちらにせよお互い関りを持たないのが正解のような気もするが。
「私も冒険者と警邏隊の間柄は理解しているつもりなんですが、先日のような不測の事態が身近に迫ってきているのが現状なのです。ここはお互いの垣根を越えて協力していかないと、ずっとこのままの関係が続いていくことになります」
だから敢えて溶岩溜りへ飛び込めと言うわけね?
ああ、ツラタン。
「なるほど、カミラさんの想いは理解しました。ただ相手がどう出るのかまったく予想出来ませんね」
「はい……。ですので、ヨハンさんに同行いただきたくて……。やはり難しいでしょうか?」
ああ、そんな上目遣いでこちらを見ないでいただきたい。断ろうとしていた俺の意志が崩れ去るじゃないか。
行きたくない、行きたくないが……、くそう、美女様からのお願いを童貞が断れるはずがない。
下心がブーストして、本音とは裏腹の言葉の数々をこれ幸いに語ってしまう。
ああ、もう殺して。誰か俺を殺してくれよ!!
「大丈夫ですよ、カミラさん? 頼ってくれてありがとうございます。俺でよければ同行させていただきます」
「ありがとうございます! ヨハンさんならそうおっしゃってくれると思ってました! 明日はよろしくお願いしますね!」
もう断れない。
そんな言葉が頭に浮かぶ今日この頃。
カミラさんの嬉しそうな顔とは対照的に、童貞は自らの過ちを強く呪うのだった。
明日は冒険者ギルドへGO。
【あとがき】
本日も読んでくださいまして誠にありがとうございます。
ハーフベルへと到着しました。
次回はいよいよ冒険者たちとの絡みです。
どうなることやら。
そして毎度のことながら、感想、誤字報告、ブクマおよび評価いただきました読者の皆様。本当に感謝です!皆様のおかげでまだ日間ランキングで息をしております。
お知らせですが、現在8話を書き直しております。
次回の更新までしばしお待ちください。
ぼちぼち更新してましりますので、お付き合いくださいまし。




