第一章「死者の手紙」②
「少しお待ちくださいな、小鳥遊さん」
雫と向かい合うようにテーブルを挟んで座る夜羽、その隣で沈黙を貫いていた百合花が唐突に口を挟む。
「えっ……は、はい」
雫は驚いたように身体をびくりと震わせる。
その理由は、百合花が沈黙を破ったからというわけではない。
(そういえば、なんでゴスロリなんか着てるんだろう、この人……)
これまで無意識に視界に入れようとしていなかった存在に対する、当然とも言うべき反応だった。
百合花は夜羽が手に持っていた封筒を渡すように手を差し出すと、夜羽もその素振りに気付いたのか、特に何の問答もなく無言のままそれを手渡す。
「この中身を一緒に見る、それは良いでしょう。相談のうちということで、そこまでならお代は必要ありません。問題は中身を見た後、ですわ」
「検証……難しい、ですか?」
「そもそも何が書かれているかもわかりませんし、夜羽の言う通り、警察に持ち込んだほうが手っ取り早いのは間違いありません。わたくしたちがお手伝いできるかどうかは、ある意味この手紙の内容次第、そして小鳥遊さん、貴女の目的次第ということになります」
「私の、目的……?」
百合花の言葉の意図が理解できないのか、雫は怪訝そうな表情で目の前のよくわからないゴスロリ少女へと視線を向ける。
そんなふたりのやり取りを傍から見ていた夜羽は、肩をすくめながら軽く息を吐いて、冷めた表情で口を開く。
「わたし、パス。なんだか気持ち悪いし」
「えっ!?」
驚いたのは雫。
しかしながら、夜羽は前言を撤回する様子もなく、そこからは無言を貫くかのようにテーブルに置かれた茶菓子をつまみ始めてしまった。
「まあまあ、ご心配なさらずとも。わざわざここまで御足労頂いたのですし、依頼主を無下に扱うなんてことは致しませんので、ご安心下さい」
「は、はあ……」
雫は目の前にいるゴスロリの正体を知らないが故に、その言葉に対して何の安心もできない。しかしながら、夜羽が我関せずを貫こうと言うのであれば、雫が頼れるのはこのゴスロリしかいないのだ。
心の中で諦めという名の折り合いをつけながら、雫は気まずそうな表情をする。
「あの……中身、見ます……?」
「そうですわね。結局、まずはそこからですし」
などと言いながら、百合花は封筒をとんとんと机の上で軽く立てた後、いつの間にか取り出したハサミで封筒の上部分を慎重に開けていく。
「小鳥遊さん。先に読まれますか?」
封筒の中に指を入れて、一枚の白い紙を取り出した百合花は、それを雫に見せながら訊く。
「……その、怖いので、皆さん一緒でも良いですか?」
「ええ、もちろん。良いわよね、夜羽?」
「わたしは見ないわよ。百合花、任せた」
そそくさと席から立ち上がり、夜羽は事務所の奥にあるお手洗いの方へと向かっていく。
そんな彼女の背中を睨みつけながら百合花は唇を尖らせつつ、雫に向き直ると手紙をテーブルの上に広げた。




