第一章「死者の手紙」①
依頼者の名前は小鳥遊雫。
黒髪ショートに眼鏡をかけた、素朴な印象を受ける十七歳の少女。
彼女が百瀬探偵事務所に持ち込んだ依頼、その内容は――
「死んだはずの友達から、手紙が届いた?」
それは、一年前の話。
雫にとって最愛の友達であった一之瀬美桜がストーカー被害に合い、その結果、殺害されてしまったという。
当時はニュースにもなっていたらしく、百合花はなんとなくではあるが記憶に残っていたようだ。対する夜羽は記憶になかったが、彼女が見ていたならば必ず覚えているはずなので、それについて特に追及することもなく話は進んだ。
「これが、その手紙です」
このご時世に封筒に手書きの手紙とは珍しい、と思うふたりではあったが、そこにはしっかりと宛先の欄に『小鳥遊雫様』と書かれており、裏側には『一之瀬美桜』の名前があった。
しかしながらおかしな部分があることに夜羽は気付く。
「これ、切手が貼られていないわね」
本来、封筒に手紙を入れて郵送するのであれば切手を貼り付けることが普通なのだが、この封筒にはその痕跡がまったく見当たらない。
封筒を手にとってはまじまじと眺める夜羽であったが、観念したかのように机の上に封筒を置き直す。
「私もおかしいな、とは思っていたんです。一年前に死んでしまった美桜から手紙が届くってだけでも不気味なのに……」
「中身は読んでないのよね?」
夜羽はまるで分かった上で確認するような口ぶりで問いかける。
「は、はい。親にも話したんですが、そんなもの怖いから捨ててしまえ、と……」
「まあ、無理もないけれど。それで、依頼の内容っていうのは、これを読んで欲しい……ってだけじゃないわよね?」
再び封筒を手にする夜羽。
その動作を恐る恐る眺めながら、雫は答える。
「その、それと……それが本当に美桜からの手紙なのかどうか、検証……? みたいなことをしてもらえないかな、と……」
「正規の手続きで郵送されたようには見えないし、追跡はおよそ不可能。筆跡とか指紋とかそういうので調べたいなら、わたしたちのところへ来るより警察に行ったほうが無難じゃない?」
「そ、それは……」
あまりに冷ややかな口調でまくし立ててしまったせいか、雫は俯いて言葉を詰まらせてしまう。
夜羽はそれを見て少し言い過ぎたか、と脳内で反省しつつ、それはそれとして――と、気持ちを一瞬で切り替える。
「……で、これ、どうする?」
封筒はしっかりと糊で封をされていて、一度も開封されていないだろうことは素人目にも見て取れる。
厚みはほとんどないので中身は本当に手紙一枚程度なのだろうが、何故か夜羽の頭の中ではこれを開けたくないという拒絶反応のようなものが過っていた。




