第三章『仮面を被るもの』②
大会参加プレイヤー数、およそ三百名。
会場は広大なホールの中にあり、テーブルが敷き詰められるように立ち並んでいる。
リリヴェ公式大会、予選。
全六回戦を勝ち抜いた上位八名が決勝トーナメントへと出場できる。
予選は基本的に試合の観戦はできないが、二回戦からは各回戦ごとの上位から二名がランダムに選出、特別対戦スペースへ招待され、その対戦内容が中継でモニターに表示されるシステムになっている。
会場へと足を踏み入れた夜羽、雫のふたりは、スタッフに誘導されるようにテーブルへ着席する。
辺りにはすでに大勢のリリヴェプレイヤーである出場選手たちが同様に座っていて、彼女たちは多種多様の様子でありながらも、どこかそわそわとしている空気を感じさせた。
「思ってたよりも自由に動きづらいわね。これじゃ大会前に見つけ出すのは難しそう」
「そうですね……これだけの人数からだと……」
ふたりがそうこう話しているうちに、時刻は午前十時になった。
その瞬間、スピーカーからアナウンスが流れ始める。
『えー、お待たせしました。それではこれよりリリヴェ公式大会予選を開催致します!』
まばらな拍手が会場に響き渡る。
誰もが手元にスマートフォンを取り出して、その画面を注視していた。
『それでは、お配りしている参加証に記されているQRコードを読み取って頂きまして、ご自身の参加ナンバーを入力して下さい』
夜羽と雫はアナウンスの指示通りに操作を進めると、『1回戦』という画面に多数の名前が並んでいた。
「黒つ――ミ、ミカエルさん! これを見て下さい!」
何かを見つけた雫は、スマートフォンの画面を夜羽へ向ける。
「ええ、わたしもこっちで見つけたわ」
その画面には、確かに――
「ちゃんと来ているわね、『OMI』……!」
ふたりは視線を合わせると、それぞれが指定された番号のテーブルへと移動する。
『1回戦開始は十分からになります。みなさま、迅速なるご移動をよろしくお願いします』
こうして、リリヴェ公式大会予選――その幕が上がった。
◆◆◆
「ま、参りました。ありがとうございました」
夜羽は危なげもなく1回戦を勝利に収め、即座に片付けを済ませてテーブルから立つ。
辺りにはまだ試合中な人たちや、既に対戦内容を終えて席を立っているものたちなど、まばらである。
一試合の制限時間は十五分。
夜羽は五分もせずに試合を終わらせていたが、会場を見回すと半数以上のテーブルが未だに試合中であった。
(見て回るなら今しかない。ナンバー55……テーブルはあっちのほうか)
夜羽は先程見た1回戦の対戦組み合わせリストに記載されていた『OMI』のナンバーと、その対戦テーブルの番号を覚えていた。
対戦を早く終わらせた今なら、その番号のテーブルへ向かえば『OMI』の顔を確認できる。
(……とはいえ、アナウンスでは対戦終了時はすみやかに対戦スペースから退席して、観戦などの行為は控えろと言っていたし、さりげなく通るぐらいの感じで――)
とはいえ、夜羽のいる場所から『OMI』のいるテーブルへ向かうには出口と真逆の方向であり、夜羽はさてどうしたものかと思案していると、
「ミカエルさん!」
声がした。
聞き覚えのあるその声は他の誰でもない、雫のものある。
「小鳥遊さん、早かったわね。どうだったの?」
「なんとか勝てました。それより夜羽さん、早く出ないとスタッフの人に怒られちゃいますよ……?」
「わかっているわ。でも今がチャンスよ。『OMI』のいるテーブル近くまでいって、その顔だけでも確かめておきたいわ」
言いながら、夜羽は雫を横切るようにその先へ進もうとして、
「ま、待って下さいミカエルさん」
その袖を雫が掴み、制止した。
「なによ?」
「大丈夫です。まずは外に出ましょう。『OMI』の姿なら、私がちゃんと見てきましたから」
◆◆◆
夜羽と雫は会場から出て、休憩スペースにあるソファーに腰を下ろしていた。
「『OMI』が仮面を被っていた……?」
「はい。リリヴェのカード……【白のヴェール】のイラストがあるでしょう? そのイラストに描かれている仮面、公式グッズとして販売されているみたいなんですけど、それを着けていました」
「やるわね。公式グッズだから運営側も文句は言えない。一之瀬美桜は素性を隠して参加したいわけだし、対策していてもおかしくはない、か……」
雫の席が『OMI』の席と近かったという幸運もあり、その姿を確認できるかと期待していたのだが、結果として美桜に出し抜かれた形となってしまう。
「にしても随分と用意周到ね。そりゃあストーカー事件なんてトラウマがあるなら無理もないだろうけれど……まるで、わたしたちのように彼女を追っている者がいることを察知していたかのような――」
「私が一之瀬家に美桜のことを確認したせいで、美桜に伝わっている可能性はあるかもしれません……」
「友達が自分を探している、って……別にそれだけで仮面を被る必要ある?」
「それは……でも、きっと美桜はもう私とは縁を切りたいんでしょうから……」
「ふうん。なんだかムカつく話ね、それ」
夜羽が素直な感情でそう言うと、雫はどこか作り笑いのような表情を浮かべて誤魔化すように笑っていた。
「ともかく進展は進展よ。ふたりとも1回戦は抜けたわけだし、この調子で勝っていけばいずれ『OMI』との直接対決が叶うかもしれないしね」
「はい、そうですよね。私、頑張ります!」
こうしてふたりは頷きあった後、再び戦いの舞台へと舞い戻って行くのであった。
――そんな彼女たちの姿を、遠目で見つめているひとりの少女の存在に気付かないまま。




