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第二章『リリィ・ヴェール』②

「それじゃ始めよっか。夜羽は初心者だし、ハンデあげよーか?」


 余裕綽々、といった風に提案を述べる香菜。

 その態度が癪に障ったのか、夜羽はむっとした顔をして答える。


「いらないわよ。そもそもなによ、ハンデって」


「夜羽もさっきの対戦を見てて気付いたと思うけど、このゲームってめちゃくちゃ後攻側が有利なんだよねー」


 リリヴェは5枚の階級持ちカードをお互いに出し合うゲーム。つまり、基本的には最大5回戦うことになる。先攻→後攻→先攻……と続いていくと、5回目に訪れる手番は最初と同じということになる。


 そして、後攻のメリットは言うまでもなく多い。

 まず、相手が出したカードを見てからカードを選択して出せること。伏せたカードはわからないが、【ヴェール】の有無を見てから判断出来る上に、【黒のヴェール】を相手に被せることができるのも後攻のみ。


 最初に後攻を得ることができれば、5回中3回後攻を得られるということになるため、必然的に有利となるのは明白であった。


「ま、それくらいはわかるけれど。香菜、いいの? 別に負けたいわけじゃないでしょう、貴女も」


「うん、まーね。でも、もし一之瀬さんがここにいたら『ハンデくらいあげたらどうです?』とか言われそうなんだもん」


「うわぁ、言いそう……」


 香菜のモノマネに、雫は思わず共感していた。


「ふうん。ま、それならせっかくだし貰っちゃいましょうか、ハンデ。後攻でいいのよね?」


「いいよー。じゃ、あたしからね」


 特に何の迷いもなく、香菜は1枚のカードを裏向きで伏せ置いた。

 夜羽はそれをじっと見つめながら、香菜の様子を伺っている。


「【ヴェール】は無しで良い?」


「うん。いきなり【ヴェール】使うのは選択肢を狭めるだけだよー」


「ふうん……。それならまあ、これでいいか」


 呟きながら、夜羽は1枚のカードを裏向きで置く。


「わたしも【ヴェール】は無しよ」


「おーけー。それじゃ、オープン」


 香菜→【百合リリィ

 夜羽→【プリンセス

 まずは夜羽が勝ち点を獲得する形となる。


「お、やるねー。先制点は大きいよー」


「次はわたしね」


 そう言って夜羽はカードを伏せる。

 そして、


「【白のヴェール】を使うわ」


 更に伏せたカードに対して【白のヴェール】を被せる。


「ふーん。どういうつもりなのかなー。まあ普通に考えたら【百合リリィ】を【プリンセス】にして、あたしに【女王クイーン】を使わせたいんだろうけど……」


 少しばかり思考を巡らせながら、香菜は1枚のカードを伏せ置いて、


「ま、ここは乗ってあげよっかな」


 夜羽→【百合リリィ】+【白のヴェール】

 香菜→【女王クイーン

 香菜の読み通りの結果となり、今回は香菜が勝ち点を獲得。


「香菜のことだから、わたしの性格の悪さで深読みしてくれると思ったんだけれどねえ」


「まあ分の良い方に賭けるのが鉄則みたいなとこあるからねー。勝てるところで【女王クイーン】をしっかり使う。【黒百合リリィ・ヴェール】で下剋上なんてされてちゃ勿体ないもん」


 唯一【女王クイーン】に勝てるのが【百合リリィ】+【黒のヴェール】によって生まれる【黒百合リリィ・ヴェール】なので、そのリスクを負わなくて済むタイミングでの【女王クイーン】切り。どこまでも手堅い一手である。


「なんともまあ、香菜っぽいわね」


「あたしっぽい、てなにー!?」


「次、香菜が先攻よ」


「あーもー、はいはい」


 香菜が1枚のカードを伏せ置き、【白のヴェール】を被せる。


「ふうん、なるほどねえ……」


 それを受けた夜羽は、1枚のカードを出して、【黒のヴェール】を被せた。


「やるじゃん夜羽。それ、【百合リリィ】でしょ」


「なによ、馬鹿にしてるわけ? それ以外に何もないでしょ」


 香菜→【プリンセス】+【白のヴェール】

 夜羽→【百合リリィ】+【黒のヴェール】

 【女王クイーン】を【黒百合リリィ・ヴェール】で倒し、夜羽が勝ち点を獲得。


「……夜羽さん、本当に初めてなんですか?」


 ふたりの対戦を横目に、雫は隣にいる百合花へ向けて問いかけた。


「わたくしはよくわかりませんが……彼女は少し特別、()()()()()()みたいな存在なので」


 誇らしげなのにどこか寂しさも交じるような声色で百合花は答える。


「香菜、やっぱりちょっと性格悪くなったんじゃない?」


「なんだとー!」


「ふふ、あと1点ね」


「まだまだー! これからだよ夜羽!」


 ふたりの対戦は続いている。

 しかし夜羽の言う通り、勝ち点をあとひとつ獲得するだけで夜羽の勝利となる状況。

 リリヴェは先に3点獲得したプレイヤーが勝利となるため、次に夜羽が勝てばこのゲームは夜羽の勝利で終わりとなる。


 そのことを当然、香菜は理解している。

 いくら次の手番が後攻だとしても、不利な状況に変わりはない、と。


(……さて、わたしの先攻。ここで勝ち点を取ればわたしの勝ち。だけど……)


 ここにきて夜羽は気付く。

 今手持ちのカードは【百合リリィ】2枚と【女王クイーン】であり、【ヴェール】はない。

 一方、香菜にはまだ【黒のヴェール】がある。


(こちらの【女王クイーン】を読まれて、香菜に【黒百合リリィ・ヴェール】を作られた場合、勝ち点を奪われて、残りカード的にお互いが【百合リリィ】を出すしかなくなり、エクストラゲームになる)


 エクストラゲームになると手札をすべて戻してやり直しになるが、先攻と後攻は変わらず交互に行うルールになっている。


(つまり、このままいけば香菜が後攻の状態でエクストラゲームに入ってしまうわけね……)


 そうして夜羽はしばらく逡巡した後、


「ひとつ聞きたいのだけれど」


「ん? なに?」


「【黒のヴェール】は階級を下げるカードよね。【百合リリィ】に使えば【黒百合リリィ・ヴェール】になり、【女王クイーン】に勝つ――ここまでは理解したわ。それで、その【黒百合リリィ・ヴェール】の階級は? 【百合リリィ】より下になる?」


 唐突な夜羽の質問。

 だがこの場面においてそれがとても重要な意味を持つことに香菜は即座に気付いた。


「良い質問だねー。答えはイエスだよ。【黒百合リリィ・ヴェール】は【女王クイーン】に勝てるようになる代わりに、階級は【百合リリィ】よりひとつ下になる」


「そう。ならこれでいいわ」


 そう言って、夜羽はなんの躊躇いもなく1枚のカードを伏せ置いた。


「うーん、やるしかないかなー」


 香菜は少し悩んだ末、1枚のカードを置いて、【黒のヴェール】を被せる。


「オープン」


 夜羽→【百合リリィ

 香菜→【百合リリィ】+【黒のヴェール】


「えっ……黒月さんの、勝ち……?」


「あら、そうなのですか? やるじゃない、夜羽」


 ――夜羽と香菜のリリヴェ対決は、夜羽の勝利で終わったのであった。

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