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4話 人類救済センター

成長を感じる……気がする。




 その日の夜、ソファに座って食後のプリンを食べていると緊張した面持ちのママから「大事な話があるの」と言われた僕は、食べる手を止めずに続きを促した。




「ゆーちゃん……人類救済センターって覚えてる?」


「ううん」


「そうよね。人類救済センターっていうのは、名前の通り、人類の存続を目的とした施設なんだけど……」


「うん」


「十六歳以上の男の子には、月に一度、そこに行く義務が与えられるの」


「うん」


「それで、人類を存続させる為に必要不可欠なアレを、男の人から採取する為の施設が、人類救済センターなの」


「うん」


「……ゆーちゃん、大丈夫? もし嫌なら、記憶喪失を理由に延期するのも有りだと思うけど」


「大丈夫だよ、ママ。寧ろ有り余ってるくらいだから」


「あま!? そ、そういう事は、あんまり言わない様に。ね?」


「はーい」




ーーーー




 という訳で次の日、お昼過ぎにママの赤い車に乗って家族皆で人類救済センターへやって来た。


 予約しなくて大丈夫なのかとも思ったが、利用出来る男性自体数えるほどしか居ないので特に問題は無いらしい。


 皆と雑談しながら偶に窓の外をチェックしていると、小さな病院みたいな真っ白い建物が近づいてくる。




「あれが、人類救済センターよ。ゆーちゃん、本当に大丈夫? 気分が悪くなったらすぐに言うのよ?」


「大丈夫だってママ。バッチリ人類救済してみせるよ」


「うう、ゆーちゃんってば、こんなに立派になって……ぐすん」


「ママ? ちゃんと前見えてる?」




 涙で怪しくなったママの運転は駐車場に着くまで続き、車を止め自動ドアを通り遂に人類救済センターの中へとやって来た。


 外観と同じく真っ白な色はそのままに、正面に市役所みたいな受付が二つだけあり片方は眼鏡の可愛らしい女性がもう片方にはお休みの札が待機していた。


 手続きをしようとガラガラの椅子を通り越して彼女の元へ移動すると、奥の職員含む全員が驚いた顔でこっちを見る。




「え? 何?」


「ゆーちゃん、普通の男の子はこういう雑用はやらないのよ?」


「あ~、なるほどね」


「ふふん、優希は特別だからね」


「お兄ちゃん、気を付けないとダメだよ?」




 家族から説明と注意を貰い少し反省していると、優しい男の子が家族だなんて羨ましいという視線の中ママが手続きを終わらせる。




「では、僭越ながらわたしがご案内させていただきます」




 どうやら受付のお姉さんが直接案内してくれるらしく、彼女はそう言って立ち上がるとこちら側に来て右側の廊下に向かって歩き始めた。




「ゆーちゃん、頑張ってね」


「優希、何かあったらすぐに大声を出すのよ。お姉ちゃんが助けに行くから」


「お兄ちゃん、お手伝いはわたしを選んでね?」




 家族から激励を貰い、彼女の後ろを着いていくとそこは真っ白な廊下に等間隔な左右の扉しかない少し近未来的な空間だった。


 ちなみに、採取の際は連れや職員……今回なら家族や目の前の芦屋(あしや)さんに手伝ってもらう事が可能らしい。昨日調べた。


 彼女は平均的な身長に黒い髪を短く整えた巨乳で眼鏡な可愛らしい女性なので、後でお願いしようと心の中で決める。


 舞には申し訳ないが三人とは家でも出来るので、ここでしか相手出来ない職員を優先させてもらおう。




「こちらが相藤様のお部屋となります」




 そう言って、彼女が何個目かの扉を開けた。


 中を覗くと、そこは人三人分くらいの横幅にゲーミングチェアみたいな椅子、奥に机とパソコンとディスプレイ、その上に扉付きの棚があるネットカフェの個室みたいな空間だった。




「この部屋は完全防音となっておりますのでご安心ください。では、わたしは扉の前で待機しておりますので、何かあればお呼び立てください」


「え? 説明とか無いんですか?」


「相藤様が望むのであれば、もう一度ご説明させていただきます」


「じゃあお願いします」


「畏まりました。まず、棚にある――」


「あの、部屋には入らないんですか?」


「……入っても宜しいのでしょうか?」


「いいですよ」




ーーーー




 わたしは芦屋(あしや) 奈々(なな)。最近魔女(男性または出産経験の無いまま二十五歳を迎えた女性)の仲間入りを果たしてしまった人類救済センターの一般職員。


 男を求めたわたしは猛勉強の末、エリート職(男と関われる職種)である人類救済センターのスタッフの席を勝ち取りウキウキ気分で仕事を始めた。


 しかし現実は甘くなく、滅多に男は来ないわ来たと思ったら暴言を吐かれるわ暴力を振るわれるわで散々だった……まあ、知ってたけどね。


 男がいなければわたし達女は子供を作れない、子供が作れなければ人類は滅亡一直線。だから国は男を特別な存在として扱う。


 結果生まれるのが女を奴隷としか思っていない傲慢な男か、何もしてないのに怯えた目で軽蔑してくる女を野生の獣だと思っている内気な男の二種類。


 神様は早く男を足して二で割るべきだと思う。


 まあ? わたし達もコッソリ匂いを嗅いだり部屋の中で今してるんだぁ(ニチャア)って妄想して喰い物にしてるから、あんまり強くも言えないんだけどね。


 世の女の大半が男を直接見る事も出来ず人生を終えると考えれば、自分達がどれだけ恵まれた環境にいるかが分かるだろう。


 それはそれとして、やっぱり色々な意味で辛い仕事には変わりないので普通に精神を摩耗するんだけど。


 今日も今日とて、若干鬱になりながら誰も利用しない受付で仕事をしている時だった。


 女に優しい男とかいう、二次元でしか見た事がない存在が現れたのだ。しかも超絶イケメン。


 わたしは自分が受付の日に来てくれてありがとう、と自分の幸運に感謝しながら良いところを見せる為丁寧に仕事をこなす。




「え? 説明とか無いんですか?」




 我ながら完璧~と思っていたら、なぜかもう一度説明を求められた。去年説明した筈ではあるが、長く話せるからいいかと口を開くとなんと中で聞きたいと言われてしまった。


 当然部屋の中はスタッフの立ち入り禁止、しかし相手の許可がある場合は別。


 わたしはそのままお手伝いもお願いしてくれないかな~と邪な気持ちで説明を始める。




「まず、相藤様から採取した種を保管する為の道具が、棚にの中にあるこちらになります」




 そう言いながらわたしが取り出したのは、薄いゴムが入った箱と女性器を模したオモチャだった。


 ゴムの方は薄さがオモチャの方は種類が、そして勿論両方ともサイズが色々あるのでどんな男性が来ても対応が可能となっている。


 わたしはセクハラを楽しむオバサンが如く、両方の使い方を詳し~く説明した。




「次にこちらのパソコンですが、あらゆるジャンルの動画を無修正で見る事が出来ます」


「へぇ、無修正」


「はい、無修正です」




 この世界は男性関連の性的なコンテンツに対する規制が半端なく厳しいので、ネットに溢れてる作品は修正済みのものしかない。


 しかし此処であれば無修正のものを見る事が出来る。その為に侵入を試みて逮捕された女もいるくらいだ。




「もちろん、相藤様が望むのであれば、我々職員がいくらでもサポートいたします……説明は以上となります。何かご質問などはございますか?」


「質問なんですけど」


「はい、何でしょうか?」


「これじゃサイズが小さ過ぎて入らないんですけど、どうすれば?」


「……はい?」




 相藤様は、オモチャを指でいじりながらそう言った。


 サイズガチイサスギテハイラナイ? ……一体、何を言っているのでしょうか?




「僕、人よりちょ~っと大きいみたいで……確認してもらえますか?」


「そ、そうですね。正しいサイズを把握しておくのは、重要ですから」


「じゃあ、脱いでください」


「へ?」


「興奮しないと、正しいサイズを測れませんから」


「そ、それはつまり……ゴクリ……わ、わたしなんかの裸で、興奮するって事ですか?」


「もちろんですよ。芦屋さん、凄く綺麗ですし」


「うへ、うへへ」




 そしてわたしはサイズを確認し……確かにこれは……ど、どうしよう。


 一滴も無駄に出来ない以上、専用の道具を国に依頼して完成してから……あ~、あと少しでいけそうだったのに~。




「……申し訳ありません相藤様。また後日改めて――」


「そうですか、芦屋さんにお手伝いしてもらいたかったんですが」


「何とかします!」




 わたしは皆の元に駆け込んで相談し、全員で知恵を絞った結果試験管を使うことにした。これなら蓋が出来て空気による劣化が防げる。流石は先輩、こういう時だけ頼りになる。


 そして大急ぎで部屋に戻る。男はデリケートなので、頑張って興奮させてもすぐに落ち着いてしまうからだ。


 目的の部屋から少し離れた位置で速度を落とし、祈りながら余裕のある態度で部屋に入ると彼は帰らず椅子に座って待っていてくれていた。


 わたしは性別が逆だなと思いつつ、定番のシチュエーションに興奮しながら机の下に潜り彼の――。




 ……その夜、皆から「どうだった!?」だの「ちゃんと服は着ろ」だの散々言われた。




蘆屋道満 幸運

芦屋 奈々 (あしや なな)

男の現実を知りながらも出会いを求めた結果鬱になった。

最近は全くそんな事無く忙しいくせに毎日五回はするくらい元気。

なんなら休憩時間中にもやって滅茶苦茶怒られた。


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