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よかった、噓告されたオレはいなかったんだね  作者: 小宮地千々


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那珂川リクの憂鬱 2

 土曜の朝、部屋のドアを開けると美人がいた。

「おはよ、リク」

「あ――」

 一人で部屋を訪ねてきたミカの姿にオレは一瞬言葉を失う。

「どうしたの?」

 長い髪をポニーテールにした彼女が首をかしげた。

「や、めっちゃ似合っててビビった。おはよう」

「そ? ありがと」

 ふっと笑みを浮かべる薄手のパーカーにストレッチパンツの運動着なミカさん(ポニテ&白バイザー装着の姿)。

 もうモデルかよってくらいに見事な着こなしだった。

 普段着でも決まってるけどやっぱりこういうシンプルな姿も、彼女のスタイルの良さが目立ってよく似合っている。

 そしてこれは隣に並ぶと例によってオレが公開処刑されるやつ……!

天辺(あまべ)はどしたん?」

「キノは朝、弱いから」

「ああ……」

 言われてみれば確かに最近寝起きはふにゃふにゃしている気がする……これうっかり人前で言ったらえらいことになるな?

 どうして寝起きを知っているんですかって……いやカレカノなら普通か、でものろけだな。気を付けよう(二転三転)。

「でも最初のころってそんなでもなくなかった?」

「リクの前だから頑張ってた」

「頑張ってたかー」

 うーん、弱点を長所に変えてくる。

 毎回掛け布団を持ってかれるくらい些細なことか。

「だから今朝は私がリクを独り占め」

 後ろ手を組んで、なんかちょっと可愛いポーズを取りながらミカがほんのり嬉しそうに言う。

 んもー、すーぐオレの心拍数をあげてくる。

 まだウォーミングアップどころか出発するする前ぞ?

「あー、やったぜ?」

「ふふ」

 オレの適当なリアクションにも楽しげである。カワヨ。

 この子ね、彼女なんですよ。オレの――って倒置法で世界中に向けて自慢したくなるような長身とのギャップ萌えな愛嬌(あいきょう)だった。

 しかも彼女はもう一人いるんですよ。

 この事実は伝えると石を投げられるので伏せておこう。

「準備いい?」

 アホなことを考えているオレにミカの声がかかった。

「うん、もう出られる」

 五分前行動に備えてすでに着替えは済ませている。

 ちゃんと戸締りをして部屋を出た。

「で、今日のメニューは?」

 広めの歩道を二人並んで歩きながらたずねる。

 先日ミカに提案されたのは運動を日課にして体力をつけようという真っ当で体育会系な解決策だった。

「ストレッチして、ウォーキングとジョグで二キロずつ」

「アッハイ」

 どれくらいの強度なのかはわからないけど、独り占めしてガチ運動するっぽいのは確かだった。

「ちゃんとペースは見ながら決めるから、安心して」

「ウッスお願いしまっす」

 背筋を伸ばしスタスタと歩くミカに頑張って歩調を合わせる。

 普段と違って完全にアスリートスイッチ入っているのか、気を抜くと置いていかれそうだ。

 身長差もそうだけど脚が単純に長いんだよミカは……!

「ふぅ」

 信号待ちにきて、なんとか一息をつく。

 ふっと視線を感じて見上げれば、こちらを見下ろす彼女は静かな表情ながらもそれとわかるくらい楽しそうだった。

横中(よこなか)ってやっぱ体動かすの好きな感じ?」

「うん」

「だよな」

 まぁそうでもなきゃ県内有力校の部活でレギュラーなんてできないよな。

「でも、今日はそれだけじゃなくてリクも一緒だから」

「オマケもついてお得……ってコト?」

「それよりもっと存在感あるかな」

 キノエとはまた違った積極性でなんともむずがゆい。

 いちいち「あ、この子オレのこと好きなんだな」って説得力がえぐすぎる(元童貞並みの感想)。

「運動は、コラボカフェの料理の方みたいな感じ?」

「主客逆転してるやつー」

 シール付きウェハースチョコくらいの気持ちでいたら思っていた以上に評価がデカかった。

「ふふ」

 カワヨ。

 そんな風に心拍数上げ下げしつつ、ウォーキングコースのある川沿いの公園にたどり着いた。

「――そういえば横中さぁ」

「うん」

「バレーは続ける気なかったん?」

 ストレッチをしながら長らく聞き逃していたことをたずねる。

 部活を引退してからは彼女たちは受験勉強に突入、オレはそれに加えていよいよ卒業のための単位取得の追い込みで機会がなかったのだ。

「あんまり。元々高校まででいいかなって思ってたし」

 そんな覚悟も決めつつの問いへの答えはあっさりとしていた。

「そうなん?」

「引退までにプロのスカウトも無かったし。私はU19にも縁なかったから」

「おお……U19って世代代表のことよな」

「うん」

 すげえ、なんかすごい会話な気がする(小学生並みの感想)。

 そうだよな、プロとか代表って全く縁遠い話じゃないんだ。

 そしてやっぱりセンシティブな領域に踏みこんでいた。

 ミカの言葉を聞くに、上のステージに行く機会があったなら話は違っていたっていうニュアンスも感じるし。

「これ、キノにはまだ聞かないであげて」

 案の定、ミカがそんなことを言った。

「ん、おけ」

「理由は、聞かないの?」

「オレより横中のが付き合い長いっしょ。判断を信じる」

 気にならないと言えば嘘になるけど、今回だってそこまで深刻な気持ちはなかったからだ。

 まぁちょっと前のめりな彼女たちのことだから、自分のために犠牲にした可能性もゼロではないかもしれないとも思ったけど。

「――私には聞いたのに」

 と思ったらミカさんがやや微妙な雰囲気を発した。

 気遣いに差をつけるのかという抗議を感じる。

「横中はオレがイヤなこと聞いたら今みたいにそう言ってくれると思ったし」

 キノエはちょっと本気の地雷踏んだら、表では隠して裏で静かにキレそうな雰囲気を感じるから……。

「ふうん」

 なんてことを考えていると、ミカには珍しく思わせぶりな相槌が打たれた。

「……なによ、意味深に」

 素直なミカはどこにいってしまわれたのか。

「信頼されてるのか甘えられてるのか悩んだけど、私にはどっちでも良かった」

「全部言うじゃん」

 男子は意外とそう言うの気にする繊細な生き物ぞ。

「――他には何か聞きたいことない?」

 そうしてウォーキングを開始してすぐ、ミカがそんな話を向けてきた。

 こっちは息上がらないかちょっと心配なのに余裕の構え……!

「そう聞かれると逆にでてこないなあ」

「リクのこといつから気になってたか、とかは?」

「本人にそれ聞くのイタくない?」

「男子って変なこと気にするね」

 そうなのかな、そうなのかも……?

 我らは過信と自意識過剰の間で揺蕩(たゆた)う存在だから……(個人差があります)。

「ね、いつからだと思う?」

「それ話したいだけでしょ」

 オレは詳しいんだ。

「ううん、聞いて欲しいだけ」

 微妙に違ったわ。

 そして可愛っ、なんだこの可愛い生き物(半ギレ)。

「いつからなん?」

「中学一年の、一学期から」

 即落ちしてたずねたオレに何でもないことのようにミカが答える。

「想像より圧倒的に早かった」

 もう入学してすぐじゃん。

 今やだいぶ昔に感じる中学時代はミカが一年と三年、キノエが二年と三年のそれぞれ二年間同じクラスだった。

 そしておそらく小学校が違った女子の中ではミカが一番早く友人と呼べる関係になった相手だと思う、けど……。

 なんか六年も前から意識していたと聞かされるとなんかちょっと損した気分になるのが我ながらみみっちい。

「リクとは話す機会多かったでしょ」

「単純接触効果くん最強か?」

 王道と言える納得感が出るけども。

 下心なしにこまめに交流していた成果があったな!

「リクは私のこと、意識しなかった?」

「一年のときは正直落ち着いてるから話しやすいな、くらい?」

 男子中学生はこの世で最もおろかな生物だが(諸説あり)、女子も女子でなかなかこじらせた生態をしていると思う。

 妙にとげとげしかったり、教師やら先輩と比較してガキ扱い(事実だけど)してきたりと少年のハートを割と気安く傷つけてくる。

 そんな中で横中ミカはオレにとってはほとんど唯一のフラットに話ができる女子生徒だったのだ。

「私も、リクが普通に話しかけてくれるのうれしかったよ」

「そうなん?」

「うん」

 ほんと一々可愛いなオレの彼女。

 心拍数と共に息が上がるわ。

「小学校の高学年からやな感じの男子増えたから」

「あぁ~~……」

 中学一年当時、すでにミカの身長は百七十の後半くらいはあった。

 大抵の男子は見下ろされる側である。

 ついでに彼女はスポーツが得意で、しかし大人しい性格だ。

 勝手にコンプレックスを刺激された連中からすれば、おそらく格好の攻撃対象だったのだろう。

「なんかごめんな」

「なんでリクが謝るの」

「男子の代表として?」

「ダメ」

 訥々と、しかし断固とした口調でミカが言った。

「ダメですか」

「リクはいいけどあのころの男子は許さない。だから代表面しないで」

 うーん、かなり語気が強い。

 これは結構深刻な話だな。

「はぁい」

 まぁそう言われてしまうとうろ覚えのクラスメイトを積極的にかばう意味もないし、この際に秒で忘れてしまおう。

 どうか自業自得だと思ってあきらめて欲しい。

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