第十一部
「この豚は全部あんたんとこの豚で間違いない?増えてたりしない?」
「はい……?」
騎士の質問の意図が分からず、帰ってくる答はみな疑問形だった。
まあ、そうだよな。俺たちもなんで探してるかわかってないもんな。
騎士たちは回った先々の家畜農家で不思議そうな顔をされた。
「もし、増えたり、知らない豚が迷い込んだりしたらすぐに教えてほしい。よろしくな。暫くの間は憲兵の誰かが回ってるから声かけてくれ」
確認の最後に同じ言葉で締めくくるが、最後までなぜ豚探しを? と不思議そうな顔を向けられた。
「なあ、こんなこと意味あんのかな?」
「それよりもこれ、今日中に終わるのか?」
「え、おれ野宿はヤだぜ」
「俺だって帰りたいよ」
なぜ豚を探しているのかわからないが、とりあえず、不審な豚を見つけるまで帰るなというお達しが出ている以上帰れない。
だが、幸いにも日が沈む前に、手配されていた豚が見つかり、騎士たちは無事に家路につくことができた。
その知らせを受けて駆けつけた大使は、すごい勢いで怒鳴り散らす。
「どうしてくれるのですか! 我が国の大事な豚があんな、あんなに泥だらけになっているではありませんか」
それはこっちの台詞だと言ってやりたい。お前たちが持ち込んだブタのせいで我が国の騎士があんなにもヘトヘトになっているのだぞと。
国を守る騎士ともあろう者が、何がかなしくてブタ探しをしなければいかんのだ。
そもそもブタに金箔を貼り、それを贈り物として連れて国を跨ぐなど、少し考えればわかることだろうに。
馬鹿なのか東の国は。
「この国で起きた不祥事です。弁償してください」
大国の使者とはいえ、一国の主に随分と不遜な態度をとる者もいたもんだ。
大使をしているくらいだ、実際この者は自国では地位の高い者かもしれないが、他国とはいえ国王より身分の高い者は今この国にはいない。
やはり東の国は馬鹿なのだろう。
外交を外交とも思っていない大使を立てた。
では、意趣返しと行こうか。
だてに大陸の臍と呼ばれるこの国を治めているわけではないのだ。
このような小物にしてやられるわけにはいかない。
「相分かった。弁償しよう」
「へっ?」
大使は間抜けな声を出す。
「なんだ? お主が言い出したのだぞ」
こんなにすんなり通るものなのか?
大使の顔にはそう書いてある。
「では宰相は書類を。大使殿は立境証明を持ち、再度来なされ」
「な、なにゆえ立境証明などと、」
立境証明とは国境はもちろん、領地と領地の境、村と村の境など、各々の国が定めた境界上を超えるとき必ず貰わなくてはいけない証明だ。
きちんとした足取りを記すことで、事件に巻き込まれた時即座に最後の痕跡を見つけることが出来る。
「おかしな事を言うな、立境証明がなければ弁償ができぬではないか」
「お、おお、そうであった、少々勘違いしてしまった。すまない」
大使の態度は、要求がすんなり通ったからか、更に大きくなっていく。
会話だけならどちらが国王か。
そしてそそくさと出て行った大使の後ろ姿に、国王はニンマリする。
「どうだ? 賭けるか?」
「賭けになりませんよ。きっと」
宰相はまた国王のお遊びが始まったと首をすくめる。
だが、まあ、あれは酷い。あの大使の態度は抗議してもおかしくないレベルだ。
まず、探し出したことへの礼の一言もなく、弁償しろとは如何なものかと。
そして時を置かずしてさっきの大使が戻ってきた。




