第十二部
「黄金の豚は、大使殿が出立したと同時に黄金の豚であったか? それとも国を出る直前の村で黄金の豚になったのか?」
「最初から黄金の豚として、共に出立した」
「では、東の国の王都から黄金の豚は来たわけだな」
「そうだ」
「では、最後にここに大使殿のサインを」
男はなにも言わずにすんなりサインをした。
国王の顔には、何だつまらん。と書いてある。
「では宰相これを急ぎ東の国の陛下へ送ってくれ」
「畏まりました」
大使がサインした書類は封が閉じられ、国王から宰相へ、宰相から控えていた騎士に、渡されようとしている。
それを見て大使は慌てた。
「な、なにを、その書類をどうするのだ、」
「何を、とはなんですか?」
国王は慌てだした大使が面白くてしょうがないが、すっとぼけた顔で返した。
「だからその書類はどこへ出すのだ」
「なぜそのようなことを? 大使であればご存知かと。もちろん弁償証明を作成するにあたって、事の経緯を明らかにして、大使殿の名前で作成することを東の国の王に了承を得るための手紙ですよ。何を当たり前の事を。条約で定められている事です」
いつ定められたのだ、と宰相は心のなかで突っ込む。
「はっ?そんなのは知らん。聞いてないぞ」
「そうなのだ。弁償してもまさに今の大使殿と同じような事を言うものもたまにいてな。こちらとしてはそんなことを何回も繰り返されると国庫がスカスカになるのでな、お互いの玉璽を介してでないと弁償は出来ない事になっている。大使殿でしたらご存知かと」
「それは、」
「とにかく急がないと南西の国のとの外交問題に発展しかねない。早馬を!」
国王は書状を手にした騎士を急かし、追い出した。
「ま、待ってくれ〜。その手紙待ってくれ〜」
国王の命令に逆らう騎士はいない。止まるはずがない。
結論から言うと、東の国の王に貸しを作ったかたちになった。
国王は、はじめ、あの大使を偽物だと思った。
あまりにもアホだったからだ。
本物の大使はどこかに監禁されて、助けを待つ身かもしれないと考えた。だとしたらどこで入れ違ったか。
だから立境証明を持ってこさせた。
あのアホっぷりだ。取って代わったとしたら立境証明を知らないと踏み、まずここで証明を出せない、もしくは知らないようなら国内で取って代わられた事がうかがえる。
しかし、ここはクリアした。
国王が作り出したどこかの誰かさんが監禁されてなくて何よりだ。
次に思い至ったのは謀反。外交で火種を作り、外に気が向いている時に、内政を崩す。でなければ、あの横柄な態度は納得いかない。
だが、書面の確認もなくサインした事から、これも違うだろうと至った。
そして、もしかしての、気位の高いだけの、ただの大馬鹿説。
これがまさかの当たりだとは……。
弁償証明など存在しないし、立境証明も必要ない。さもお主は知らないのかと真顔で聞けば、知ったかぶりをする。どこまでそうするのか途中からただその様子を見たかった国王はエスカレートしていった。
だが、結局、最後まで知ったかをして自爆した。
「『待ってくれ〜』は中々に楽しませてくれたな」
「全く人が悪い。全部が全部真っ赤な嘘じゃないですか」
「だが、お前も楽しんでいたではないか」
そう、宰相も最後はノリノリで演技していた。
国王から渡された書状をさも本物のように扱い、高級品と名高い布“ヒエラ”で包んで、もっともらしく騎士に托した。
よほど大切な書状であると思い込ませた。
あの大使には東の国王も頭を悩ませていたらしい。
だが、筆頭公爵家の末っ子ボンボンで甘やかされて育ち、手がつけられなかったそうだ。
今回送った二通の手紙から『苦情』を使ったらしい。もう一通は謀反の可能性を示唆したものだったが、それは必要なかったようだ。
『おたくの国の大使がよくもまあ騒ぎを起こしてくれたもんだな。我が国の軍事力を顎で使うとは舐められたもんだ。東の国が持ってきた意向は我が国と疎遠になることで相違ないだろうか?』
筆頭公爵家とて、これを見せられたら何もしないわけにはいかない。一国の、しかも大陸の臍を治める王を怒らせたのだ。ここが通れなければ、筆頭公爵家といえども、大きなダメージを食らう。
公爵家の末っ子は金子のオマケとして平民の商家に婿入りさせられた。
下級貴族への婿入りでもなく、平民になった。
下級だとしても貴族は貴族。どこでまたそのバカが権力を振りかざすかわかったものではない。
ならばいっそ平民にとは公爵家の総意だった。
東の国の王から、七色に輝く『たまゆし』と呼ばれている神秘的な生地が感謝の品として届けられた。光の加減で色が変わるのだ。
お詫びの品ではなく、感謝の品としたところに、東の国の王もかなりの苦労人だと国王は親近感がわいた。
第二章完結




