第十部
「陛下! 大変なことが!」
「なんじゃ、宰相騒々しい。その上聞きたくない。あー、聞きたくない」
「そんなこと言ってる場合ではありません」
あー、聞きたくない。とは一国の主。
この主、殊の外厄介事を嫌う。
「お前がなんとかしろ」
この、殊の外厄介事を嫌う主は、大陸の臍と呼ばれる国の国王である。
「冗談はここまでです。東の国と南西の国の争いに巻き込まれました」
「なんということを……。外交官は何をしていたのだ!」
「もちろん彼らもきちんと仕事はしていました。ですが今回は外交ではなく、流通トラブルです」
国王の顰める顔には、もう、やな予感しかしない。と書いてある。
「豚が、黄金の豚が消えました」
王は頭を抱えた。
どうしてここでブタが出てくる。しかも黄金のブタとは何だ。神話に出てくる黄金の味果実でもあるまいし、その黄金のブタはこんなに大騒ぎをするくらいだ、さぞや旨いのだろうな。
もはやどうでもいいことが、頭に浮かぶ。
げんなりした顔の王には目もくれず、宰相は事の次第を伝える。
「騒ぎの始まりは今朝です。昨日入国した東の国の大使が詰め所に怒鳴り込んできたそうです」
──豚が、大事な豚がいなくなりました。至急探してください。
特徴は?
担当した者はその服装からどこかの国の大使だと感じて、笑いを堪えて対応したという。
──黄金の豚です。我が国では持参金にこの豚が含まれるのです。
直ちに、黄金の豚の手配書、もとい捜索書が描かれ方方にばら撒かれる。
その甲斐あって、と言うか何と言うか、黄金の豚の目撃情報が浮上した。
目撃情報其の一で、泊まっていた王都の宿屋から逃げ出した事が確認できた。向かいのパン屋が仕込みの最中見たそうだ。ちょうど夜が明ける時で、のぼり始めた朝日に当たり、確かに輝いていたと言う。
目撃情報其の二は、薬売りだ。早朝の出立とあり人影がない中、突進してくる光る生き物。それに驚き、詰め所に珍獣がいると伝え、王都を去ったと、申し送りに書かれていた。
目撃情報其の三。
同じく早朝から馬の世話をしていた、パン屋の先の宿屋の馬番。飼葉をやっている時に、ブヒブヒ鼻を鳴らして垣根の割れ目から入ってきたそうだ。鳴き声が先行したので豚と分かったが、声なくあの姿を見て一目で豚だと判断するのは難しいと馬番は話した。
話の内容から察するに、どうやらその時既に黄金の割合は少なく、なにやら斑の生き物に見えたようだ。
目撃情報其の一と其の二は距離的にも時間的にも離れておらず、立て続けての目撃だと推測した。
其の三になると、太陽が完全に現れている時間帯の目撃情報となる。泥だらけだが、所々キラキラしており、それがまた何とも不気味だったらしい。
目撃情報はこの三人だけで、あとはひたすら捜索するしかない。
国から国への贈り物だと大使まで出てきてしまえば、片手間に探すことは出来ない。
近衛隊は近衛隊で万が一にもを考え、王宮内を探し、外の捜索には憲兵が多数出払った。
今、攻め込まれて敗戦したらその理由は豚になる。
何が何でも探し出せ!
国王はなりふり構わず、豚の捜索を大々的に指示した。その結果、半数の騎士が豚を片っ端から調べて回った。




