あんまし役にたたねェんじゃね?
――砂漠
俺は慎重にアーミルの後を追った。
“軽身”の呪文を継続してかけ、極力足音を立てずに歩く。
アーミルに気付かれないためというのもあるが、それよりも砂漠に潜む怪物を避けるためだ。
夜は魔物の活動が活発になるからな。それは、この砂漠も例外じゃねェ。
にしても……無謀だ。
アーミルじゃあ、飢えた砂漠の魔物からは身を守れまい。万一の際は、すぐに突っ込んで守ってやらにゃいかんケド……
……ン? 何だ?
妙な気配。これは……
「!」
その直後。砂が弾け、何かが飛び出した。
角の生えたワニの様な頭部。鱗に覆われた胴体。そして半ばひれ状になった前肢。
あれは……
「砂竜、だと!?」
アカシックレコードによれば、かなり強いモンスターとのことだ。大サソリや巨大イモムシすら餌食にするよーなヤツである。この砂漠じゃ生態系の頂点に立つヤツだな。アーミルじゃひとたまりも……
俺はサーベルを抜き、走り出そうとした。いや、その前に魔法攻撃か。結印を……
そうする間に、アーミルの魔力が高まるのを感じた。
どういうコトだ!?
「!」
と、光が弾けた。
そして砂竜が弾き飛ばされる。
砂上に倒れた砂竜は、泡を食ったように逃げ出した。
えっ!? ちょっ……
ナニが起きたんだよ? アレをぶっ飛ばすとか……
おっと。
当惑してる間にアーミルが歩き始めた。
慌てて後を追う。
そして……気がつけば、俺達はティフレス村の側まで来ていた。
――村の門
アーミルはまたしても“開錠”の呪文で門を開け、村へと入った。
そして、その奥へと進んで行く。
当然衛兵が駆けつけるが、構う様子は無い。
衛兵はアーミルを拘束しようと……
何!?
突然衛兵が崩れた。
おそらく“誘眠”の呪文を使ったのだろう。
そしてそれを一顧だにする事なく、アーミルは歩み去った。
俺は慌てて後を追う。
どーいうつもりだ? 一体どこへ行く?
まさか、この方向は……“天蛇の塔”!?
って、マテよ。まさか、まだあそこに“何か”あるってンのか? 最上階の研究室にはほとんど何も残ってないぜ?
いや待て。そういや呪術関連の書物なんか、持ち出した魔導書にはほとんどなかったな。てっきりフィルズ・ロスタミが持ち出したもんだと思ってたが……。
ってコトは、俺達の知らない隠し部屋があるとか? そこに、何か……
……そういえば、さっきアーミルの目は虚ろだったしいが、やはり誰かに操られているのか?
そして、何らかの“力”を与えた、と。そこに潜んだソイツがアーミルを操ってる、と。
でもナンでアーミルを? ヤツは別にフィルズ・ロスタミや聖堂騎士団とは関係ないぜ?
……ワカラン。
ヤツも天蛇の塔に、エスリーンとリラを分離する為の手がかりがあるかもしれんと言ってたな。
ふ〜む。
もしかしたら、元凶と対峙するコトになるかもしれんな。
さて……どーすべ?
一旦戻るか? でも、アーミルを放っとくワケにもいかんよな。
アーミルは天蛇の塔へと続く門へと向かっている。
……おっと。門の前に衛兵がいるな。いや、あれは聖堂騎士か。どうやら異常を察して駆けつけてきた様だ。
俺は見とがめられない様、民家の屋根に飛び乗った。イザとなりゃあ、魔法でアーミルを守らんとね。
騎士は何事か問いつつアーミルに詰め寄る。
が、やはりその場に倒れ伏してしまう。
またかよ。騎士ならレジストぐらいしろや。
……いや、そんだけ呪文が強力だったってコトか。
ふむ。何らかの“力”でアーミルの魔力が強化されてるのか。
“鑑定”で見たときの、バグった部分が示しているのはコレなんか?
つか、あんまし役に立たねェんじゃね? アレ……
おっと、それよりもはやく後を追わねぇと。
俺は屋根を蹴り、宙に身を踊らせた。
――天蛇の塔
夜の闇に包まれた塔は、昼と違って不気味に見える。何というか……呪術師がいた頃の塔がこんな雰囲気だったのかもな。
にしても……ココに来るのは三度目、か。
前二回はフィルズ・ロスタミを追って。そして今回はアーミルか。
さて、どーなるコトやら。
道を外れ、藪に身を潜めて塔の周囲を伺う。
目についたのは、入口脇の小屋。
前はあんなのなかったな。騎士団の連中が詰所がわりに使ってるのか?
……が、アーミルが前を通っても反応はない。
無人なのか、それとも寝てるのか。
……ならいいや。
俺はアーミルがドアの向こうへ消えたのを確認すると、“隠形”を使って気配を消し、藪から飛び出した。
そして裏手から……って、鍵がかかってやがる。当たり前か。
仕方ねぇ。表に回るか。
小屋の中は……騎士らしき男が寝てやがる。
ヲイ、きちんと仕事しろや。
……って、アーミルに眠らされたのかもしれんか。まぁいい。好都合だ。
開けっ放しだった扉をくぐり、内部へと足を踏み入れる。
まだ荒れっぱなしだな。ここに駐屯すんならもうちょい片付けろや。
ヤツは……
足音がする。上だ。
階段を上がり、さらに進む。
やはり目指すのは、最上階か? それとも……
……ン?
何やら外が騒がしい。
窓から覗くと、カンテラの光が近づいて来る。
あー、ティフレス村の門番をしていたヤツあたりがが増援を呼んでこっちに来たのか。
“暗視”を使っちゃいるが、カンテラの光のせいでよく見えん。が、おそらくあの鎧は聖堂騎士団の連中だな。
遭遇しちまうとメンドウだ。またテキトーな部屋に入ってやり過ごすか?
いや……アーミルが殺されちまったらマズい。
さて、どーすんべよ?
…………。
そうだ。とりあえず“混乱”とか使って、俺を仲間と思わせりゃいーや。
さて、待機だ。階段側の部屋に潜み、機会を伺う。
そして、階段を上がってきた。
やはり、聖堂騎士か。ヤツらの背後から近づき……
「“混乱”!」
騎士達は振り向き……虚ろな目で俺を見た。
おっしゃ。成功だ。不意打ちなら上手くすると、相手を混乱させるだけでなく、ある程度こっちの意のままに相手をコントロール出来るようになるのだ。
「遅くなった。すまん」
テキトーに声をかける。同時に相手の精神に干渉し、認識を撹乱してやる。
「あ……ああ。そうか」
ヤツは頷いた。うまい具合に俺を味方と誤認した様だ。
「今の状況は?」
「曲者がこの塔に逃げ込んだらしい。とりあえず、探し出して捕縛せねばならん」
捕縛、か。まぁ殺される可能性は少ないか。いや……もしかして、拷問にかけられたらコトだ。そーいうコトをしかねん連中だしな。
「了解した。ところでヤツは何者だ?」
「分からん。もしかしたら、あの裏切り者の手の物かもしれんな」
「なるほど」
そういやまだフィルズ・ロスタミが死んだコトは、この連中は知らねェんだったな。
「それなら、なんとしてでも捕らえんとな」
「ああ」
俺の言葉にヤツらはうなずく。
そして、俺を加えた騎士団一行は塔を進んで行った。




