さて、追跡だ
――祈りの小径亭 食堂
夕食は、これまた豪華なメニューだった。無論、今日狩った大サソリがメインだが……。
大漁記念という事で、他の客を巻き込んでの飲めや歌えやの大宴会である。
旅の大道芸人が曲芸を披露したり、食堂の壁に掛けてあった弦楽器――リュートってヤツ?――を持ち出してアーミルが弾き語りを始めたりと、大盛り上がりである。
いや〜、楽しかった。またこんな宴会やりたいねェ。
そして俺達は部屋に戻ると、狩りの疲れもあって早々にベッドに潜り込んだ。
しかし……
――夜半
「……!」
かすかな気配に、俺は目を覚ました。
なにやらゴソゴソ音がする。
泥棒か!?
ベッド脇に立てかけてあるサーベルに手を伸ば……って、ナンか温かく柔こいモノが隣にあるな。ついでに揉んでみる。
って、エスリーンかよ! もうこっちに潜り込んできたのか。つか、また下着一枚かよ。
『やあ、どうした? ……ン?』
って、リラか。彼女も気付いた様だな。
『どうする? “麻痺”で拘束するか?』
『ああ、頼む。……いや待て!』
『どうした? そうか……』
そう。ヤツは泥棒じゃない。あれは、アーミルだ。
彼は服を着替えている様だ。
なぜ今? 何のために?
そう思う間もなく、彼は着替えを終える。
と、不意にその顔がこちらを見た。
俺達が起きてるのがバレた? いや……
『大丈夫な様だ。それにしても、何か虚ろな目だな』
そうか、リラは夜目がきくか。
にしても、虚ろか……。寝ボケてるワケじゃないよな? どうするつもりなんだ?
いぶかしむ俺達をよそに、彼はそのまま視線を窓へと向け、そちらに歩み寄る。そしてその手を窓にかけた。
何!?
そして窓を開け放つと、その外へと身を踊らせた。
って、待てよ! ココは二階だぜ!? 俺はともかく、アーミルじゃあ……
「スマン、リラ。俺が後を追う」
すぐにサーベルと服を手に取った。
『私がその間、彼を追っておくよ』
身を起こしたリラが、半眼になった。気配を追っているのだろう。
「すまんな」
……とはいえ上着ろ、上。それか布団に潜ってろや。窓が開いて冷たい空気が流れ込んできてるだろ。
そして何とか身支度を整えると、俺もまた窓から身を踊らせた。
『気をつけてくれよ』
脳裏に響く、リラの“声”。そしてそれに、彼女のくしゃみが被さった。
――街中
夜のとばりが下りた街は、寝静まっていた。まるで二十四時間眠らない様な日本の街とは違う。そして、暗い。魔導石を使った街灯はあるものの、大通りだけだ。だから“暗視”を使い、視界を確保している。
俺は静寂の中、リラの“遠話”での指示に従い、アーミルを追った。
ヤツの移動速度は、思いの外速い。
俺は屋根の上を走っている為容易に追いつく事ができたが、普段の彼からは考えられないスピードだ。
どうなってるんだ? 一体……
そうする間にも、彼は門へとたどり着いた。ここは、ティフレス村へと向かう側の門だ。当然、天蛇の塔へも最寄りである。
まさか、な。
しかし……こっからどうするツモリだ? 門は閉まってるゼ?
俺は衛兵詰所の屋根の上から、アーミルの姿を伺う。
と……
「“開鍵”」
……なっ!?
ヤツはあっさりと門の鍵を開いてしまった。
無論、こうした場所には簡単に開錠されない様に魔法がかけられている。にもかかわらず、ヤツはあっさりとそれを開けてしまった。
アーミルの持つ魔術スキルの練度や潜在魔力では考えられない事だ。
俺が呆然としている間に、ヤツは門を抜け、街道を走り去って行った。
追うか。
俺は屋根から飛び降りようとし……
と、異常を察したのか、詰所から衛兵が出てきた。
危ねー。
そして彼らは開けっ放しの門に気づき、何やら大騒ぎになる。
チッ、今降りる訳にはいかねぇか。俺が捕まっちまう。が、このままここにいちゃあ、ヤツを見失っちまうな。
なら……イチかバチかだ!
「うりゃっ!」
俺は屋根を蹴ってジャンプ。
「……っとォ!」
着地成功。城壁の上の通路にまでジャンプが届いたぜ。……勢い余って飛び込んできた方の反対側の壁にアタマぶつけちまったがな。
ああ、痛ェ。
でも、すぐに動かにゃならん。
アーミルは走っていくし、衛兵も走り回ってるからな。
さて、どこへ降りる?
近くじゃダメだよな。なら……
「“軽身”!」
呪文で身を軽くする。ついでに小細工。
さらに、すぐ側にあった、監視塔と思しき一段上がったバルコニーに登った。
そして、
「そりゃっ!」
短いながらも助走をつけ、もう一度ジャンプだ。
そして空中で両手両足を大きく広げた。
両手でマントの端を持ち、また足首にもくくりつけてある。
簡易版ウィングスーツってヤツだ。またはムササビの術?
暗闇に紛れ、上空からヤツを追う。
『すまない、そろそろ限界だ』
リラの“遠話”。
『もう大丈夫だ。今、ティフレス村へ向かってる。朝まで戻らなきゃ、様子を見にきてくれ』
『わかった。くれぐれも気をつけてくれ』
『おう』
そこで“遠話”は途切れた。
きちんと準備をしてればもっと遠くまで届くんだろうが、通常の結印じゃこれが限界か。
まーそれでも十分だったがな。
にしても……夜の砂漠の寒さはちっとナメてた。そりゃ日本の冬ほど寒いってワケじゃないケドさ。昼間が暑かっただけに、この寒暖差はちと身体にくる。しかも、飛行中だ。身体に風が容赦なくブチ当たる。
さて……
俺は時々羽ばたきの動作を行い、飛距離を稼ぐ。つか、身体を動かさなきゃ冷え切っちまう。
が、そろそろ限度だな。
着地点は……あそこでいいか。
小さな砂山が目に入る。
アーミルの現在地から、やや離れた場所だ。風向きから考えると、音も聞こえにくいだろう。
ナンとか身体を引き起こし……
「うおっあっ!」
砂山の頂に足をつく。
当然それでは勢いを殺しきれない。身体を丸め、砂山を転がり降りる。
「……っと」
勢いが止まった。
着地成功、かな?
「うえっ……ぺっぺっ」
口に入った砂を吐き出すと、身を起こした。そして足首に結んだマントを解く。
さて、ヤツは……
砂山に上ると、オペラグラスで周囲を伺う。
いた。
アーミルだ。特段こっちに気づいた様子はない。
にしても、これが平面世界のありがたいところだよな。地平線の向こうに隠れちまうってコトが無いからな。
さて、追跡だ。




