それほど急ぐ事でもないか
――しばしのち
食事を終えた俺達は、店を出る。
「さあ、宿へ帰るべ〜。……って、アレ? アーミルは?」
いつの間にかアイツの姿が見えなくなってんな。どーしたんだろ? 忘れ物か? それともまたトイレ?
「さっきまでは私の後ろにいたんだけど……」
エスリーンも知らんか。
『唐突に気配が消えた様だな』
と、リラ。
何かあったのか? まさかあの連中が!? いや、それとも……
念のために店へ戻ってみるが、アーミルはいない。店員にも聞いてみるが、さっき俺達と出て行ったっきりとのことだ。
じゃあ、外って事だよな。一体どこへ?
小一時間店の周囲を歩いてみたが、その行方は掴めなかった。
一応傭兵ギルドの方にも行ってみたが、空振り。
後は……といっても、そこ以外にアイツが行きそうな場所なんて知らんからな〜。
結局俺達は、奴を見つけられないまま“祈りの小径亭”へ戻ることになった。
――祈りの小径亭
出迎えてくれたティシアさんにアーミルのことを聞いてみたが、まだ戻っていないとのことだった。
一体どこへ行ったんだか……。
まぁ、荷物はここにあるんだから、いずれ戻っては来るんだろうが。
部屋に戻ると、アーミルを待ちがてら、“天蛇の塔”から持ち出した魔道書を紐解く。
エスリーンとリラを分離するための方法を探るのだ。
とはいえ内容は難解であるので、なかなか進まん。俺とエスリーン、リラ三人がかりで読み進めた。三人寄ればナントヤラだ。
――そうする事約二時間
しかし、なかなか進捗はしねェ。ハリムのおっさんあたりに聞けば良いかもしれんが……。狩りの予定は明日までで、明後日戻るつもりだったから、明日聞きに行くのも手か?
「今日はこれくらいにしとく?」
いい加減頭が痛くなりそうなので、ギブアップ。
「そうしましょう」
『ああ、同感だ。ここまで難解だとは思わなかったよ』
二人とも限界だった様だ。
まー、それほど急ぐ事でもないか。俺達にとってはな。
後は、何ともならんかった場合にヤツをどう誤魔化すかぐらいか。
と、扉が開いた。
オイ、誰だよいきなり……って、アーミルか。
「一体どうしたんだ? いきなりいなくなるとかさ」
問うてみる。
「え? ああ……気がついたら、この宿の前で……ごめん」
「気がついたらって……」
いや、もしかして飲み過ぎと頭を打ったコトで、一時的に記憶が飛んでるんかな?
「もう一度“治癒”をかけた方がいいか?」
「いや、もう大丈夫だと思うよ。ちょっと横になってていいかい?」
「あ、ああ……」
そう言うとアーミルはベッドに潜り込んだ。そしてしばらくすると、寝息が聞こえて来る。
「……どう思う?」
エスリーンとリラに問う。
『ふむ……何というか、魔力の“乱れ”を感じるな』
「乱れ?」
『ああ。体内の魔力の循環が通常の状態と著しく異なっている様なんだ。その起点となる脳に障害を受けたりすると、こういった事は起こりうるのだがな』
「ナルホド……」
魔力は精神エネルギーみたいなものらしいからな。そういうコトもあり得るか。
とはいえ“鑑定”でヤツを見ても、取り立てておかしな部分は……ン? バグって読めない項目があるな。何だこりゃ。前見たときにあったっけか?
「でも、見たところ、怪我は治ってるし、体内の霊気の流れはそこまでおかしくななっていないわ」
と、エスリーン。
「“霊気”?」
魔力と違うん?
「霊気ってのは、肉体に由来する生命の“力”よ。病気や怪我などで、肉体に損傷を受けるとこれが著しく弱まったりするの」
「へぇ……」
“気”と言い換えても良いのかもな。
ああ、そういえば、ゲーム内じゃ“勇者”なんかは“霊気”を使った剣技を習得してたな。俺も出来るんかいな? 後でちっと試してみよう。
……どう“霊気”を扱うか見当つかんがな。
「そう言う意味では、肉体は健全ね。……ソースケの方が霊気の乱れは大きいぐらいよ」
「ふへ? どゆコト? 俺、病気も怪我もしてねぇヨ」
「普通、健康ならばあまり霊気は乱れないのよ。霊気の乱れは肉体の回復力の低下を意味するわけだしね。でも、あなたの身体はいたって健全に見えるわ」
『精神は不健全かもしれんがな』
痛いトコロ突きやがる。つか、ちゃち入れんなリラよ。またオシオキしちまうぜ?
『それは勘弁してもらいたい』
おk。
「ふ〜む、どういう事なんかな」
『もしかして、君の出自と関わるのかもしれんな。無論、異界人と会ったのは君が初めてなので、何とも言えんが』
俺のみに聞こえる、指向性のある“念話”か。
『向こうじゃ“魔力”や“霊気”とか感じる事が出来なかったから、正直俺にも判らんよ』
『ふむ。それを感じる事ができる人間はいなかったのかい?』
『自称ではいたが、本当に感じる事が出来るかなんか保証できんしな。あっちじゃ魔法なんて存在しないんだ』
『そうなのか。私には想像しがたい世界だな』
魔法の申し子とも言える使い魔だしな。それは仕方ないか。
「ねぇ、私にも聞こえる様に話してよ」
おっと、エスリーンが拗ねよった。
「ああ、スマン。ちっとね。この事はいずれ話すよ」
「絶対よ」
割とあっさり引き下がってくれた。
『それはそうと……我々も少し休もう。夕食まで少し時間があるし、何より休息が必要だ』
「賛成」
俺達も、しばしの休眠を取ることにした。




