あ〜、キモチワルイ
――翌朝
「ン……」
柔らかく部屋に差し込む朝日の中、俺は目覚めた。
まぁ、あっという間に太陽は昇り、すぐに容赦ない光を浴びせてくるんだがな。
「やあ、おはよう……」
向こうでアーミルが身を起こし……
「あっ、ごめん!」
慌てて俺から目をそらした。
「へ?」
一体何が……って、
「……おわっ!?」
隣には、半裸のエスリーン……いや、リラがいた。
「やあ、おはよう。驚くなんてひどいじゃないか」
文句を言いつつも、身体を擦り付けてくるリラ。
「ちょっ……まっ、ココにいるうちは、ソレはヤメレって言ったろ!」
「ん? 我慢して普通の寝相で寝ていたぞ。褒めて欲しいぐらいだ」
「あ……あの、しばらく外に出ていた方がいいかい?」
と、アーミル。
「いや、お構いなく」
一方、一顧だにしないリラ。
アーミルの方が恥ずかしそーじゃねーか。
「いや、いいから上着ろ、上」
胸こそ布団で隠れてるが、裸の肩が丸出しだ。一旦ベッドから降りると床上に放り出された寝間着を拾い上げ、彼女に被せてやる。
「むぅ……仕方ないか。寝てるときぐらい開放的になりたいのだがな」
彼女はブツブツ言いながら上着を着ている。
「あー、スマン。コイツ、寝ぼけてるときはいつもこうなんだ」
「は……はぁ……」
キャラの違いに、当惑したままのアーミル。
まぁ、しかたないケドな。二重人格みたいなモンだし。
――朝食後
支度を終えた俺達は、ティシアさんらに見送られて狩りへと出発した。
アーミルが畜産ギルドへ向かい、ラクダを連れてくる。その間に俺は大八車を表通りへと引き出した。そして両者をつなぐと準備完了だ。
簡単な手続きを終え、門を出る。
そして街道を北へと向かった。
――約二時間後
赤茶けた大地の中に、緑の草地がポツポツと見え始めた。
「このあたりでいいんじゃね?」
アーミルに問う。
「そうですね。巨大イモムシの好む様な環境です」
連中は乾燥した環境を好むものの、大サソリほど乾燥には強くない。そのため、ある程度土中に水分が含まれる場所に生息しているのだ。
そして彼らが好む餌は、生きた動物。大サソリの幼生などもその一つだ。
つまり、生き餌みたいなモノを使わないとならないワケだ。
とりあえず……
適当な岩陰に大八車を止める。そして持ってきた棒と帆布を使って簡単なテントを作った。
これで日影ができる。
さらに大八車上の荷袋を漁ると、大サソリの脚を取り出した。
そしてそれを糸に結びつける。
「“傀儡”!」
これは人形などを意のままに操る呪文だ。これを使って脚を動かしておく。
と、脚は屈曲を繰り返した。結構キモい。
よし。上手く行ったな。
じゃあ、次だ。
「“疾風”!」
風の呪文。糸で縛った脚を、遠くまで飛ばした。
さて……
後は釣りの要領で引っ張ってやればいい。
ゆっくりと。時には急に。生きてる様に見せかけ、獲物を誘う。
う〜む、竿があればもうちっと動きのバリエーションを出せるんだが。まぁ、これは次の機会だ。どっかに竹とか生えてないんかな? それがありゃ釣竿作れるんだけどな。
そう考える間に、脚は手元まで戻ってきてしまった。
……おっと、空振りか。
まぁ、竿の代用品ならあるか。とりあえずリュックから10フィートの棒を取り出し、そいつの先端に、柄を先にしてナイフをくくりつけた。コイツの柄の尻には小さな輪っかがあるからな。そして、それに糸を通す。
「ん? その棒はどこから?」
と、アーミル。荷車に乗ってなかったハズのモノが突如出現したワケだ。疑問に思うのは当然だろう。
「へへっ、ちっとね」
が、種明かしは後だ。
さて、もう一丁!
……今回もダメか。
う〜む、次ダメだったら場所変えるか。
「オシ、行け!」
三度目の正直とばかりに、餌を放る。
「さ〜て、かかってくれよ……」
棒を左右に振りつつアーミルに糸を引いてもらう。
「……もう少し右。妙な音がしたわ」
と、エスリーン。
何か感づいたのか?
「おっしゃ」
テントから身体を乗り出し、糸を操る。
「……来る!」
エスリーンの声。
直後、地面が弾けた。
「出やがったか!」
俺はアーミルに餌を引き続けてもらう様頼むと、サーベルを構え、テントを飛び出した。
現れたのは、巨大なイモムシっぽいモノ。
長さは3メートルほどか? 円形の、無数の歯が生えた口。その周囲に生えた数本の触手。特に口の周囲のヤツは、トゲまでついてやがる。円筒形の胴体から突き出た短いスパイク。そして先端に鉤爪のついた無数の足を持ったバケモノだ。
え〜っと、ナンだっけ。大昔の生物。前後上下が逆だったアレっぽい? かなりデカいケドな。
そいつが餌につられて俺達の方へと突進して来る。
まずは動きを止めねば。
「“麻痺”!」
身体の自由を奪う呪文だ。土の中に逃げられたら元も子もないからな。
……ヨシ。
どうやら効果はてきめんだった様だ。ヤツは硬直してしまっている。
「へへっ、やったぜ。後は……」
シメて持ち帰るだけだ。
ナイフを取り出そうとし……
「危ない!」
アーミルの声。
「えっ!? うひゃあっ!?」
なにやら粘っこい液を浴びせられた。
「うえっ!? ちょっ……」
あ〜、キモチワルイ。身体に害はない様だが、粘ついて……って、ナンかだんだん硬くなってきた!?
げっ! まさか、乾くと硬化するんか! って、ヤバくね? 幾ら人外レベルの腕力っつったって、ゴムみてぇに硬くなった液まみれじゃまともに動けん。
ヤツの身体にかけた“麻痺”が解けたら……。
アカン。絶体絶命!?
と、その直後、
「“光槍”!」
エスリーンの放った光の矢が、ヤツの頭を撃ち抜いた。
地に倒れ臥すヤツ。ピクリとも動かない。
「た、助かった〜」
俺は思わずヘタリ込む。
……って、下が砂地だったこと忘れてたよ。
あ〜あ、砂と粘液にまみれちまった。初っ端からコレか〜。
・人物、用語など
サルパスオオイモムシ
アトラス大陸中南部の乾燥地帯に生息する巨大イモムシ。体長約3m。胴体は、背腹方向にやや扁平な円筒形。頭部には触手と目、そして円形の口を持つ。その触手の一対から粘液を放出し、獲物をからみとる。脚は円錐形で、その先に鉤爪を持っている。また角脚の上部には、一対の短いスパイクを持っている。獲物は砂漠に住むサソリやトカゲなど。




