仲間なんだしさ
――祈りの小径亭
宿の扉を開けると、うまそーな匂いが漂って来る。
既に夕食の料理は出来ているようだ。
早速部屋に荷物を置きに行く。
割と大きな部屋だ。四、五人は泊まれそうだな。
それを終えると、早速食堂へ。
ハラが減って仕方がねぇ。何キロも歩いた訳だしな。
と、そこに食前酒とツマミの塩漬けオリーブが運ばれて来た。
それをつまみつつ、盃を傾ける。
「さて、明日の予定だけど……」
大サソリの出現範囲は、この街の周囲の乾燥地帯。巨大イモムシは、乾燥地帯と草原の中間あたりに生息してるらしい。
「とりあえず、まず北へ行ってみた方が良いでしょう。ここから2ラン近辺のあたりなら、両方狙えますし」
「ふ〜む、それが一番だな。で、とりあえずはイモムシメインで狙っていこうと思う」
「そうですね。サソリはさっきも捕らえてますし」
「まずは、足音とか覚えないといけないわね」
と、エスリーン。
彼女の聴覚は、こういう時に役に立つな。
「エスリーンさんの耳ってどうなってるんです? 普通は、まず聞こえないですよ、そんな音」
「あっ……」
思わず口を押さえる彼女。
「それは、その……」
「事情があるならいいですよ。聞きませんから」
と、アーミル。
しかし、黙っておくべきか?
「なぁ、エスリーン」
手招きし、耳打ち。
「なぁ、アイツになら話してもいいんじゃね?」
「え? でも……」
「ずっと黙っておくって訳にはいかねぇだろ? 変に不審がられるワケにもいかんし」
「う〜ん……そうね。話しましょう」
そうだな。……おっと。
『リラはどう思う?』
彼女にも聞かねば。
『ふむ……彼なら構わないのではないかな』
ヨシ。話はまとまった。
「アーミル、ちょっといいかい?」
「……ええ」
ちっと緊張した顔だ。
「前に依頼あっただろ? 猫探し。で、その猫ってのが……コイツだ」
「へっ? ……猫!?」
声を上げかけ……慌てて抑えた。
「どうやら呪いを受けてたようでな。元は人間だったんだ。まぁ、解呪が不完全なんで、まだ部分的に猫っぽいところが残ってるのさ」
「そうなんですか?」
「ええ。これを」
半信半疑といった表情のアーミルに、エスリーンは右手を出してみせる。そしてその爪を、鉤爪へと変化させた。次いで髪をかき分け、耳を示す。位置こそヒトと同じだが、その先はとがり、黒い毛に覆われている。
「な、なるほど……。でも、依頼者は……まさか!?」
一応行方不明というコトになっとるケドな。
「あ〜、ラバンとかいうおっさんな。ナンか呪術の材料探してるみたいで、エスリーンに目をつけたらしいんだ。だから、この子の親を殺害して、拉致しようとしたそうな。で、その際に親御さんが魔術で姿を変え、彼女を逃したとか」
「そうだったんですか……大変でしたね」
うなずくアーミル。
だが、やや複雑な表情だ。ギルドへの正式な依頼だったワケだしな。
「で、この間わかったコトだが……ヤツは“大熊亭”に出入りしてる狩人二人を殺害して、あそこの食材調達を独占しようとしたらしい。あの食材って、呪術にもよく使うモノだしね。その二人は、アルタワールの北にある森でゾンビになってたよ」
「そんな事が……」
流石に愕然とした様だ。
「まー、ヤツは倒しちまったケドね。この街の近くで、ゾンビ使って山賊まがいのコトしてたよーでさ。たまたまティフレス村で遭遇したんで、返り討ちにしてやったんだ」
「そうだったんですか……。でも、なんでこの街に来てたんですかね?」
「やっぱし食材がらみじゃね? こっちに大サソリ採りに来てたとか。まーその途中に押し込み強盗みたいなコトしてたんだろうさ。エスリーンの家族もそうやって襲われたのかもな」
「そういう人だったんですか……。かなり怪しげではあったんですが、そこまでとは」
アーミルは額の汗を拭った。
「おっと……そうだ。そんな輩の依頼を受けてしまい、申し訳ありません」
彼はエスリーンに頭を下げた。
「いえ、そんな……。もう、終わった事ですし」
「ありがとうございます」
ああ、そうだ。
「なぁ、そろそろその口調止めてタメ口にしようよ。仲間なんだしさ」
「えっ……わかりました」
「じゃなくてさ」
「うん、わかったよ。これからも、よろしく」
アーミルが手を差し出す。
「ああ、よろしく頼むぜ」
とりあえず、握手だ。
いい友人になれるといいケドな。
盃が空いた頃、料理が運ばれてくる。
またしても、大サソリのフルコースだ。
昼に狩ったヤツを手土産に渡しておいたワケだ。
メニューは羊飼いのサラダと羊肉のスープ。サソリピラフ。そしてメインのサソリの土鍋焼きだ。
この羊飼いのサラダってのは、このあたりでよく食べられてるモノだ。タマネギやらパセリ、キュウリ、ピーマンやらをオリーブオイルで絡めてある。土鍋焼きは、サソリ肉やマッシュルームっぽいキノコにトマトっぽいソースをかけ、更にチーズをのせて石釜で焼いたモノだ。グラタンっぽいかな?
「おおっ、こういうのも有りなのか……」
アーミルは食べつつも、何か考え込んでいる。新しいレシピでも考えてるんかな?
と、皿を空けるや否や、席を立つ。
「失礼。ちょっと……」
そう言い残してカウンターの方に行っちまった。
そこにいるのはティシアさん。
オイオイ、彼女いるのに人妻ナンパすんなや。
いや……料理の話するだけだな、多分。
ナンか楽しそーだ。
ま、こっちはこっちで楽しめばいいや。
「なぁ、カデスの街で、闘技大会があるって話だったよな。この仕事が終わったら、一度行ってみねぇ?」
「そうね。……あの街には行ったことないから楽しみね」
おっしゃ。
「それじゃさ……」
とりとめのない話は続く。……そうして夜は更けて行った。




