やっぱりってナンだ、やっぱりって
――やや後
太陽は中天にかかり、足元の影は更に短くなる。
おそらくは正午を過ぎたあたりか。腹も減って来た頃合いだ。
「そろそろ昼飯にするかい?」
俺は二人に声をかけた。
「そうですね。どこかこの辺りで日陰になる場所があればいいんですが」
「ええ。でも……そんな場所、あるかしら?」
と、アーミルとエスリーン。
「ふむ……」
周囲を見回してみる。
小さな丘と、その周囲の藪が目に入った。
「あのあたりはどうなん?」
「う〜ん……街道から離れすぎてしまうので、避けた方が良いでしょう。昔はああいう場所に盗賊が潜んでいたという噂もありますし」
と、アーミル。例の盗賊団の話だな。
「そっか〜」
じゃ、ヤメといた方がよさそー?
『それに、あの辺りからは妙な魔力の残滓も感じるしな』
と、リラの“声”。
『残滓? 何かあったんかな?』
俺も“念話”で応じる。
『おそらく十年あたりから数年前くらいの間に、あの辺りで大きな魔力を行使されたぐらいしか分からん。だが……そんな魔力を持つものは、この地上では決して多くはないはずだ』
『つまり、ヴァレンティーナやその弟子筋ぐらい?』
魔導師の中のエリート級と言えば、その辺りか。
もしかしてそいつらが盗賊団を討伐したんかいな?
『あるいは……魔王軍残党だな』
『なるほどね……』
そいつぁ最悪なパターンだ。
そんなんと遭遇したら、今の俺ではエスリーンを守りきれるかどうか。
やはりあそこは回避した方がいいな。
「……どうしたんです?」
沈黙する俺に、アーミルが問う。
「いや……何でもないさ。何でも……」
とりあえず、ごまかしとこう。
――そこからさらに進んだ先
周囲は赤茶けた砂地となり、植物はほとんど見えない。
「確かこの辺りで大サソリと遭遇したんだよな」
「そうだったわね。あれ、結構美味しかったわ」
まー、確かに美味かった。そう、味は良かったんだ。味は。
「ふ〜む。じゃあ、もしまた遭遇したらそれでお昼にする? そう上手くいくとは限らんケドさ……」
大サソリは基本的にヒトを恐れるので、砂漠でもあまり遭遇する機会がない。ごくまれに街道近くの砂地に潜んでいる場合があるが、その際に餓えた個体が近くを通りかかった旅人を突発的に襲う場合がある。
これはこの前のケースだな。
しかし、そうそうそんなコトが起きることはなかろう。我慢できない程の餓えに襲われてでもいない限り、連中は砂中に潜んだままヒトをやり過ごそうとするだろうし。
とりあえず、呼び寄せる方法はあるが……
「でも、街道でやるのはまずいわよ。後からも人が通るわけだし」
と、エスリーン。
「むぅ……そうか」
まー、確かに。呼び寄せるっつーコトは、この辺りの大サソリの生息密度が幾らか上がっちまうワケで……。ヘタすりゃ他の旅人が襲われる可能性もあるか。
「う〜ん……じゃあ、買っといた干し肉とかで昼食にするかい?」
味気ないにしても、腹は膨れるが……
「大丈夫よ。私に任せて」
と、エスリーンが言う。
「へ? どーいうコト?」
思わず聞き返す俺。
「待ってて……ちょっと静かに」
彼女はそう答えると、半眼になる。
一体何を……
「右前方、一匹いるわ」
え? ヤツらの場所分かるん?
「ある程度、生き物のいる場所はわかるわよ。さっきリラに教えてもらったの」
「あー、オオムカデんトキの……」
猫並みになった聴覚で、ヤツらの動きを探るってワケか。
「どーする? また炎魔法をブチ込む? いや……砂の中か」
「そうね……なら、これで。“光槍”!」
エスリーンが印を結ぶと、その掌中に光の槍が現れた。
そして彼女の手から放たれたそれは、宙を走ると砂の山の一つに突き立つ。
直後、その砂山が弾けた。同時に飛び出す影が一つ。
大サソリだ。
「おおっ、すごい!」
感嘆するアーミル。
大サソリはひとつ大きく震えると、そのまま動かなくなった。
「さて、コレをどうやって食う?」
とりあえずシメたサソリを大八車のところへと担いで戻る。
また焼いて食ってもいいんだがな。でもそれじゃ前と変わらんしな〜。
「そうですね……調理道具あります?」
と、アーミル。“酔いどれ牛”じゃ調理も担当してたらしいから、腕は期待できるか。
「ああ。幾らかな」
大八車に積んだ荷物を解く。中には鍋やら包丁やらも入れてあった。そして幾らかの食材も。燻製作りに使おうと思って買ったヤツだ。
「一通りありますね。煮炊きさえできれば、十分料理できそうです」
「そっか。なら……」
ほぼ同じ大きさの石を三つ拾い集め、円形に並べる。そして石同士の隙間を小さな石で埋めた。埋めるのは二箇所。一箇所は開けたままだ。
そしてその上に鍋を置く。大きな石の頂点三つで鍋を支えることができるってワケだ。簡易版のカマドだな。
燃料はこれまた市場で買った木炭と、そこらの枯れ木の枝だ。
「ふむ……これなら良さそうですね。十分に火力は確保できそうです」
満足そうなアーミル。及第点はもらえたか。
そしてさっそく大サソリを捌きにかかる。
ふむ……鮮やかな手つきだ。見て覚えておかねば。あと、実践も。
「やっぱりソースケってこういう事は詳しいのね」
作ったかまどを見、感心したようなエスリーン。
やっぱりってナンだ、やっぱりって。あー、蛮族扱いだったか……。
「まーな」
そー答える。……本で読んだ知識だけどな。
『……だ、そうな』
あ、コラ。ネタばらしすんなリラ。
「え? じゃあ、今までどんな暮らしをしてきたの?」
「う……うむ……」
ビミョーな質問だ。学生っつても信じてくれんだろーな。
『ああ、ちょっと信じがたい』
……リラよ。即座に否定してくれるな。アホみたいなコトばかりやってるかもしれんが、いちおー成績はそれなりに良かったんだぜ? まぁ、中学受験は失敗したんだケドな〜。
……あぁ、トラウマが。
などと言ってる間に、アーミルの料理は進んでいった。
野菜や捌いて下ごしらえしたサソリ肉をバターでさっと炒めると、水や酒を投入して煮込む。そしてヤギのミルクやチーズなどを入れて、さらに煮込むと完成だ。
大サソリのチーズクリームシチューってトコか?
いーニオイだ。
ブリキっぽい金属製の器によそう。
あ〜、中学んトキのキャンプを思い出すねェ。
確か俺の班は男子が色々ザツで、女子にキレられたんだっけか。いちおー俺は頑張ったんだがな。
アーミルみたいのが一人いれば良かったんかもな〜。
いや、そいつに女子の人気がかっさらわれちまうダケか。
……まっ、傷口を広げるのは止そう。
さて、いただきます。




