バカ、な……
――翌朝
何か柔らかく暖かいモノの感触がある。それに、ナンかいいニオい。
ン? こりゃナンだ?
目を覚まし……
「エ、エスリーン!?」
彼女が俺の胸に顔を埋め、眠っていた。
今まではいきなり尻が見えたりしてたんだが、これは一体? まるで事後じゃねーか。
えっと、昨晩ナニかあった気が……
あ〜、そーいや拒否られたんだっけ?つか、キレのいいアッパー掌底食らってKOされたっけ。
でもこのアリサマは一体? リラにしちゃあ行儀がよすぎるんだよな。
「……悪かったね」
と、噂をすれば。リラだ。
「やあ、おはよう」
「お……おう。おはよう」
冷や汗をかきつつ挨拶を返す。
「まぁ、君の思った通りだよ。こっちのベッドに潜り込んだのはエスリーンだしね。それに、気絶した君をここに寝かせたのも彼女だ」
「へ? そーなん?」
拒否られたんだがな〜
「本心では望んでいても、なかなか行動には移せないようだな。昨晩も、雰囲気がどうのと言っていたしな」
「……そーいやそうかもな。いきなりあのセリフじゃ、ちっとマズかったか」
う〜ん、ド直球すぎた? もーちょい距離を縮める必要があったか。
正直悩ましい。敵と戦ったりしてるほうが気が楽だよな〜、ホント。
「……それよりも、少々強引にでもヤる事ヤってしまえば良いのではないか? 一度そういう関係になってしまえば、後は……」
ヤってしまえって、ド直球すぎんだろ。ンなコトしたら……
「俺が捕まってまうがな……」
それに何より、エスリーンに嫌われちまうゼ。幾らナンでも直結すぎるだろ、ソレは。
まー、ヒトのコトは言えんが。
「それよりも、だ」
「……ン?」
「早く撫でてくれたまえ」
リラが身体を擦り付けてくる。
「……ハイハイ」
まずは腹から、と。
いやメンドウだ。全身撫で回してしまえ。
――そして、数分後
「ふっ……堕ちたな」
俺の目の前には、半裸のリラ。
あられもない姿で横たわり、荒い息をつく。
その目は焦点を失い虚空を見つめ、だらしなく開いた口からは舌がのぞいていた。
そしてその身体は弛緩し、唯一纏った下着は汗などで透け、肌に張り付いてしまっている。
フハハ……昨日までの時点でリラのツボはすべて把握した。それに、今や人外レベルに至ったこの器用度をもってすればこんなモンよ。
いや……その能力を全て使うまでもなかったな。素の能力でもジューブン? いや、それは言い過ぎか。
何にせよ、じーちゃん家の犬や猫相手に鍛えたテクニックを存分に味わうがいいさ。フハハ……
って、味あわせた後だったな。
つか、どーすべコレ。
寝間着着せて、何事もなかったかのよーに……いや、下着も替えんとマズい? でも、それ替えてる最中にエスリーンが目覚めたら、今度こそ殺られかねん。
と、とりあえず、寝間着だけでも着せとくか。
床の上に落ちた寝間着を拾う。
そして彼女の上体を起こし……
「自分で起きれるからいいわよ」
「え゛!?」
まさか本人が起きやがったか!?
「ちょっと、はやくそれ貸して!」
ボーゼンとする俺の手から寝間着が奪われた。
そして彼女はそれを手早く着込むと、俺を見た。何か言いたげだ。
ゲッ、まだ怒ってる? ヤバい?
と、彼女は視線を逸らし、一つ息を吐く。
「……昨晩は悪かったわ。ごめん」
「うぇ?」
思わすマヌケな声を上げちまう。
「たから……殴ってごめんって」
しおらしい顔。
「いや、俺も強引過ぎたよ」
とりあえず謝っとこう。
「……ありがと」
彼女ははにかんだように笑むと、俺に顔を近づけ……
「ふへっ!?」
その唇で、口を塞がれた。
……えっ? えぇっ?
ボーゼンんとする俺。
その俺から身体を話すと、エスリーンは自分の荷袋の中から、服を取り出した。
そして、扉へと向かう。
「ちょっとまた身体を洗ってくるわね。このままじゃちょっと気持ち悪いし……」
「あ、ああ……」
頭がうまく働かん。
今までの生涯の中で、こーいうコトは無かったワケで。
……ちっと泣きたい。
そしてエスリーンは浴室へと向かったようだ。
湯は用意されてないだろーが、アイツは魔導師。ナンとかするんだろう。
そして、しばし後……
リラの悲鳴が脳裏に響いてきた気もするが、とりあえず無視しとこう……
と、その時、
俺の上着のポケットに入れておいたスマホに着信があった。
あー、メンドクセェ。でも、取らにゃいかんか。
にしても……タイミング良すぎね?
まー、ソレ今考えても仕方ねーか。
上着からスマホを取り出し、通話をタップする。
『やあ、久しぶり。元気だったかね?』
やっぱしヤツだ。
「それなりにね。何とかこっちにも慣れてきたし。が、少々疲れ気味かもしれんケド」
……むしろ、精神的にな〜
『……ほう?』
「最近食材探しの仕事が入ってさ。あちこち駆け回ってたりしたんでね」
『そうか……。ところで、彼女との仲はどうだい?』
「まーそれなりに。何とか仲も修復しつつあるしね」
『修復……そうか。ところで、彼女について何か気づいた事はないかね?』
まさか、リラのコトか?
「……気づいた事、というと?」
トボけてみる。
『……もしかして、君は何か私に隠し事をしていないかね?』
チッ、やはり感づいたか?
「エスリーンの事で? いや……。姫巫女の資格云々については前に話したよな?」
『ああ。聞いている』
「それ以外、か。例えば、胸のサイズについてコンプレックスを持ってるとか? それとも、レバーの類が苦手ってコト?」
とりあえず、すっとぼけてみるか。
『いや……そうじゃない。もっと重要な事だ』
ちっとイラついたよーだ。そりゃそーだな。
「つかさー、重要とか言われても、今までのそちらの指示が抽象的すぎて何が重要かわかりにくいんだよな。例えば俺が気づくよーなコトでも、さして重要じゃ無さそーなら一々話さんだろ? 通話時間も限られてるワケで」
『うぐっ……』
「つかさ、どんなコトが聞きたいん?」
『ああ。どうやら彼女に秘められているはずの“力”の発現が、時々弱まったりするのだ。特に先日は、丸一日……。何か心当たりはないかね』
弱まる、か。リラ覚醒時のコトだろうな。
『……何か、知っているのか?』
一瞬沈黙した俺。
ヤツは何かに感づいたか?
「ままま、まだ俺、な、なにもやっちゃいねーよ。未遂さ、未遂……」
あからさまに動揺してみせる。
『あっ、いや……それはいいんだ。それは。そのほかに何か、気づいたコトはないかね?』
「う〜ん、弱まったりだ何だってのがよくワカランが……精神状態によるモノなんじゃね? フィルズ・ロスタミと最初に戦った後なんか、時々沈み込んでたりとかしたしな」
『ふむ……しかし、“力”はそれほど精神状態には左右されないのだ。それ以外に要因があるはずだ」
「要因、ね。ああ、そういえば……」
これはヤツにも話したか。
「そーいや前にも言ったっけ? 転移の際にあの子の親父さんの使い魔と融合しちまったって言ったろ? それぐらいじゃね? 朝とか寝ぼけて猫化してるしな」
『ふむ……そういえば、“混ざって”しまっていたな、彼女は』
「分離する手立てを探したほうがいいかい? もしかしてそんなモノはない?」
『手立てはあるはずだ。それを探してもらいたい』
「分かった。が……どうすりゃいいんだ?」
『彼女の父のいた塔――天蛇の塔――に手がかりがあるかもしれん。あるいは君達がそこから運び出した魔道書にも幾らか手がかりがあると思う』
またあそこに行かなきゃならんか。騎士団連中がいるうちは勘弁して欲しいんだがな。
「そうか。調べてみるよ。もしかして、リュックの中身とか、そっちで見れるん?」
『ああ。君のステイタスなどとともにチェック出来るよ』
「なるほど」
予想はしていたが、やはりか。ヤツに知られたくないモノは、リュックに入れちゃいかんか。
『もし手がかりを得たら……』
と、そこでヤツは言葉を切った。
「? どーした?」
と、その時……
ヤツの背後から、聞き覚えのある“声”が聞こえた。
『すまん。また後日連絡する。今は、時間がない。では、また』
その直後、通話は一方的に切られた。
ヤツにかけられた声。それは間違い無く、俺の妹のものだった。
スマホの時間は朝六時をやや過ぎたあたりだ。
ちょうど俺が起きる時間。
そんな時間に、妹の声が聞こえる場所。
まさか……ヤツは俺の家に住んでるのか? まさか、俺に成りすまして?
「バカ、な……」
呆然と呟く俺。
と、扉が開く。エスリーンだ。
「ふうっ、さっぱりした。リラも少しは慣れたらいいのに……って、ソースケ、どうしたの?」
「いや……何でもないさ」
俺は無理やり笑顔を作って見せた。




