撫でくり回してくれるわ
――大通り
燻製作りの手順を聴き終えた俺達は、“酔いどれ牛”を出て“大熊亭”へと向かったいた。
「ねぇ、ソースケ。燻製作りのためだけにあの家を借りるの?」
エスリーンが問う。無駄金を使った、とでも言いたげだな。ケド、ダイジョーブさ。
「へへっ、実はそれだけじゃねェんだよな」
「……どういう事?」
「ああ。あの家には、今の家主も知らない秘密があるのさ」
俺は“ゾンビ退治”の時にあった事をエスリーンに話した。
「……それって、下手したら泥棒にならない?」
俺の話を聞き、呆れた顔のエスリーン。
「なるかもな。でも……俺達にとっちゃ重要なモノがあそこにあるかも知れないんだぜ?」
『……ほう?』
リラの“声”。念話に切り替えたか。
「俺が倒したあのゾンビ……フレッシュゴーレムだったのさ」
「……そうなの?」
と、エスリーン。
『うむ。確かにアレは、アンデットとは思えぬ存在だったな』
やはりリラは気付いていたか。
「で、だ。あのフレッシュゴーレムの創造主は、騎士団顧問レジューナ。……つまり、昨日のスノリゴスター強化型と同じってワケだ」
「!」
『……まさか、な』
「そう。そしてフィルズ・ロスタミはあのゴーレムの残骸を使って己を強化したってワケだ」
「……つまり、私達は敵の懐の中に逃げ込んでしまっていたの!?」
エスリーンは蒼白な顔で、肩を震わせた。
「ゾンビ騒ぎの事があったから、あそこには誰も近づかないと思っていたのに……」
「いや、それで正解だったのかもな。え〜っと、言うだろ? 自分のすぐ近くに起きてる事は気づきにくいものだって」
『灯台下暗し』って、この世界じゃどー言えばいーんだ?
『ああ。燭台の下は暗いものだな』
と、リラ。
ふむ、似たよーなモン?
それはそーと。
「フィルズ・ロスタミと騎士団顧問の関係はどーだったかもワカランしな。ヤツが顧問に一方的に利用されてただけかもしれんし」
「そうね……」
ケド、使い捨てにされてたとしても、同情はできねーよナ。エスリーンの親父さんとか殺してるワケだしさ。
……などと話しているうちに、大熊亭は目の前だ。
――大熊亭
「オウ、らっしゃい!」
店に入るやいなや、浴びせられる熊の咆哮……じゃねーや、おっさんの声。
そして逃げ腰のエスリーン。
つかさー、気の弱い客は逃げちまうぜ? まー、常連客がいるからいーのかもしれんケド……
「オウ、ソースケじゃねーか! 嬢ちゃんもか。……今日はどうした?」
「ええ。昼飯を食べようかと」
「そうか! よく来てくれたな! 奥の席が空いてるぜ」
背中をバチンと叩かれる。
歓迎してくれるのはありがてェケド、やっぱ痛いっす。多分背中にゃ跡が残ってる。
そうして俺達は、奥のテーブルへと案内された。
「いらっしゃいませー」
席に着いた俺達の元にやって来たのは、ダムロンの娘さんだ。ラッキー。マリーカっつーんだっけ。
そしてジト目で俺を見るエスリーン。
ちっとぐらい嬉しそーなカオしたっていーだろ? ねぇ……
まっ、いーか。
「とりあえず、エール二つと……オススメってある?」
「オウ、昨日獲ってきてもらったスノリゴスターの蒸し焼きがあるぜ! ソースケ達にゃ、サービスで肝炒めも付けてやるよ」
と、カウンターからのおっさんの声。あんたにゃ聞いてねェんだが……
「じゃあ、それで。あと、ツマミにチーズを。エスリーンは?」
「えっと、私は……」
そこで口ごもった。しかし、
「私もそれをもらうわ」
あ、リラめ。エスリーンの身体を乗っ取った挙句、その口ぶり真似やがったか。
「はい、わかりました。では……」
その直後、一瞬挙動不審になったエスリーンを見、小首を傾げたマリーカ。しかし、すぐに奥へと戻っていった。
バレんかったか。にしても、あーいう仕草はカワイイな。
「ちょっと、何見てたのよ。締まりのない顔で」
軽く俺のスネを蹴飛ばすエスリーン。まー、頰がちっと緩んでたのは否定せん。
『君は年頃のメスを見ると、すぐに発情するな』
リラも非難がましい“声”をかけてくる。
……リラめ。俺を共通の敵に仕立ててエスリーンの怒りをそらしよったな。
おのれ。明日の朝、身体中撫でくり回してくれるわ。
しばしののち、エールとチーズが運ばれてくる。
「じゃ、お疲れ」
軽くジョッキを掲げた後、エールを喉に流し込む。
ふぅ……。美味い。
チーズもなかなか。そういやハルジーのおっさん、肉と一緒にチーズも燻製器に入れてたな。後で食わせてもらおう。
……おっと、その前に。
「ちょっとおっさんの所に行ってくる」
エスリーンに言いおくと、ジョッキを持ってカウンターに向かう。
「オウ、どした?」
と、スノリゴスターをサバきつつ、ダムロンのおっさんが答える。
おう……これまた豪快な手つきだ。解体ショーとかやってもいいぐらいだな。
「食材獲りの事ですけど……明日あたり、大サソリとイモムシ獲りに行こうと思ってます」
「オウ、そうか。ありがてェ」
「で、よく出る場所とか教えてもらえないですかね? あと、必要なモノとか」
「ああ、そうだな……」
おっさんから聞いた話をメモ。飯を食い終わったら必要なモノを買い揃えんとな。
そしておっさんに礼を言い、席へと戻った。
――しばし後
そしてマリーカのが料理を運んでくる。
薄焼きパンとスープ。そして問題のアレだ。
……が、意外と普通?
スノリゴスターの肉と野菜を蒸し焼きにしてある。つか、アレの肉って言われなきゃ分かんねーな。
と、そこにダムロンのおっさんが来た。
「オウ、こいつがサービスの肝炒めだ!」
テーブルの中央にドンと置かれた料理。
……レバニラ炒めっぽい?
「スノリゴスターの肝を炒めたヤツさ。コイツは精がつくぜ!」
ガハハと笑うおっさん。ありがたくいただいておこう。
目の前でエスリーンの顔がビミョーに引きつってるがな……




