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ありがとうございます、師匠!

――しばし後

 あーやっぱし殴られたさ。リラの求めに応じて尾の付け根とか撫でてやったりしたしな。ついでに尻とかも。そしてそのタイミングでエスリーンが目覚めたというね。

 まぁ、殴られるだけの価値はあったと言えよう。

 で、だ。


「とりあえず、今日は休養日にしよう」


 朝食後に提案してみる。


「そうね。フィルズ・ロスタミと戦ったり、狩りに出たりしてたから、一日ぐらい休んでもいいかもね。……一昨日は記憶にないけど」


 エスリーンがジト目で俺を見る。

 えぇっ!? 俺が悪いん?


「そうだな。時には休息は必要だ」


 と、リラ。

 何事もなかったかのよーに言いやがる。

 つかさ、いきなり表情が変わるのはどーかと思うよ? 茶を持ってきてくれたシャーリアのおっさんの息子――アタルっつーんだっけ?――はドン引きしてたしナ。

 ある意味二重人格?

 まっ、それはそーと。


「じゃあ、とりあえず食休みしたらハルジーのおっさんの所に顔を出そうと思うんだが……」

「え? 休養日じゃないの?」


 と、エスリーン。


「あー、それな。いつぞやあのおっさんに、燻製の作り方教えてくれって頼んだだろ?」

「ふむ、なるほどな。あれはなかなか美味かった」


 と、リラ。一昨日食べたベーコンの事か。


「へぇ、そうなんだ。私も食べたかったなー」


 エスリーンが口を尖らかす。


「いや、食べただろ? こっちに戻ってきた日にさ」

「うぐっ、そうだったわね……」


 ……ナンで俺を睨むよエスリーン。


「で、その後は大熊亭に行って昼飯を食べようかと思う。まー、この辺は流動的だけどさ」

「あ、あそこで?」


 それを聞き、エスリーンはヤな顔をする。


「ああ。一度はちゃんとモノを食いに行かなきゃならんだろ?」


 一応顔見知りだし、取引先でもある訳だしな。


「そ、そうか……そうよね」


 顔を引きつらせつつ、うなずくエスリーン。

 まー、一応普通っぽいメニューもあるみたいだし、彼女にはそれ食べててもらえば良かろう。


「ふむ、そうだな。ああいう食材を使った料理は、我々“魔化”した存在にとっては有り難い栄養源だ」

「うぅ……」


 と、リラ。エスリーンは顔を引きつらせた。

 ……ナンかメンドクセェ。

 そろそろ両者を分離する手立てを探した方がいーかもな。

「とりあえず、異存がなければそーいうコトで」

 俺は茶を飲み終えると席を立った。



――酔いどれ牛

「おう、ソースケじゃねーか。今日はどーした?」


 カウンターでエールを飲みつつ、ハルジーのおっさんが俺達を出迎えた。


「ああ、前に言ってた、燻製の作り方を教えてもらおうと思ってね。今はヒマかい?」

「う〜ん……ヒマっつえばヒマなんだが……本来はヒマじゃいかんのだけどな」


 肩を落としやがった。

 う〜む……ちとマズった?


「……まぁ少しぐらいならいだろう」


 と言うと、ハルジーは店の奥に向かって呼びかける。


「オイ、アーミル! しばらく店番を任すぜ!」

「は……はい、父さん!」


 厨房からアーミルが慌ててやってくる。


「ああ、ソースケさんとエスリーンさん、おはようございます」


 俺たちの顔を見、一礼するアーミル。

 う〜む、裏通りの店にゃあ似合わんヒトだ。

 俺たちは彼に挨拶を返すと、ハルジーに連れられて厨房へと向かった。



――厨房

 そこには、輪切りにした丸太――もしかしてまな板か? アレ――が鎮座していた。


「丁度仕込もうかと思ってたんだ」


 そう言うとハルジーは、食料庫から取り出した肉の塊をドンとその上に置いた。

 そして、ナタのよーな肉切包丁で豪快に切り分けていく。

 さらに切り分けた肉にいくつもの穴を開け、茶色っぽい調味液の入った鍋に放り込む。

 地球じゃ密封できるビニール袋があるが、ここじゃそんなモン手に入らんからな。


「その液って、材料ナニ?」

「ああ、こりゃな……」


 ハルジーが説明する調味液のレシピをメモっておく。

 持って来た本と同じモノもあれば違うモノもある。まぁ、その辺は色々試してみりゃあいーか。

 材料は多分市場で手に入るだろーし、無けりゃあハルジーのおっさんに頼んで分けてもらえばいーだろう。


「で、だ……コイツは数日つけ置きして、何日か経ったら塩抜きするんだ。その辺の手順は……」


 さらにメモ。


「まぁ、こんな所か。長期保存用にゃ塩漬けにする方がいいんだが、そこまで保たす必要ないからな。もしそういうのが作りたきゃ、やり方教えてやるよ」

「ありがとうございます、師匠!」

「へへっ、師匠か。いい響きだな。で、次は裏だ。丁度いい塩梅で塩抜きが終わったヤツがある。ちょうど今日あたり仕上げようかと思ってたんだ。ついて来い」


 そして俺達は、裏庭へと向かった。



――裏庭

 大八車が収納してあった納屋の隣に、小さな小屋がある。

 どうやらこの中で燻製作業を行っているらしい。

 扉を開くと、そこには煉瓦作りの燻製器(スモーカー)が鎮座していた。

 ふ〜む、持ってきた本にゃダンボールとか木で組み立てるやり方が載ってたが、やっぱし本格的な方がいいやね。

 そしてその隣には糸で縛られた肉塊が天井から吊るされている。

 へぇ、コレが塩抜きしたヤツか。

 おっさんはそれを一瞥し、満足げにうなづいた。そしてそれを、燻製器の中に吊るす。そしてその下部に炭を入れ、火をつける。


「まぁ、こんなトコロだ。こうやって半刻ばかり乾燥させてから、本格的に燻すんだ。塩抜きと乾燥をきちんとやっておかねェと、仕上がりが悪くなるぜ」

「……覚えときます」


 そうしてまた手順をメモ。スマホのカメラで写真も撮っておきたいが、プリントアウト出来ねぇしな……。それに手回し式の充電池があるといっても、いつまでそれが持つかもワカラン。


「まぁ、こんな所だ。とりあえず、乾燥が終わるまで中で一杯やるか? 昨日出来たばかりのヤツがあるぜ?」

「へへっ、楽しみっす」


 俺達は小屋を後にした。



――店内

「で、どうだ? 新作だぜ?」

「ハ……ハイ」


 出されたのは、大サソリの脚であったというね。

 それを一口。


「……美味いっす」


 う〜む、確かに美味いんだけどさ。慣れにゃイカンか。

 エスリーンはホントーに美味そーに食べてんのな。


「そういやこのサソリ、どーしたん?」


 この手の食材の供給が途絶えてたんじゃなかったっけ?


「ああ、大サソリは時々持ち込むのがいるのさ。ソイツを分けてもらった。ただ、なかなか安定して手に入らないんだよな」


 あー、ナルホド。レア度は低いワケね。

 で、だ。


「ところでさー、旧ベルガント邸、まだ借りててもいいん?」


 ココからが本題だ。


「オウ。まだ買い手が見つからんからな……」


 おっしゃ。


「それなんだけど……厨房とか使わせてもらえんかな、と。折角燻製の作り方覚えたんだしさ。実践して見たいじゃん? 無論、追加料金は払うぜ?」


 それ以外にも、荷物置き場としても使いたいしな。それに、あの地下研究室ももっと調べておきたい。


「ン? ああ……なるほどな。また聞いておくぜ」


 ハルジーがうなずく。

 オシ。上手くいけば、また堂々とあの家に入れるぜ。

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