……どないしょ
――大熊亭
スノリゴスターを満載した大八車を店の裏口につける。
そして呼び鈴を鳴らした。
「オウ、ボウズじゃねーか! 嬢ちゃんも。今日の成果はどうだ?」
と、しばらくしてダムロンのおっさんが顔を見せる。
「へへっ、これを見てくださいよ」
大八車の覆いをめくってみせる。
「おおっ、五頭もか! 相変わらずやるじゃねーか!」
「ふぐおっ!?」
鳩尾にパンチ一発。
メロンみたいにデッケェ拳が腹にメリ込む。相変わらず手荒いな……。
おっさんとしちゃ、軽く叩いたつもりなのかもしれんケドさ。
「お……おお……」
フラつきつつも、踏みとどまる。
「ソースケ、大丈夫!?」
心配げなエスリーン。ここで痛がってちゃ男が廃る。
「ダイジョーブさ。これくらい」
ヤセガマンだがな……。
「よし、これだけあればしばらくは大丈夫だ! 運び込むぞ。手伝ってくれ!」
……ムチャゆーな。
ケドまぁナンとか立ち直り、縄を解き始める。
「オウ、こりゃ何だ?」
スノリゴスター強化型――正式名は別にあるよーだがコレでいーや――を目にし、ダムロンは怪訝な顔をする。
「よくワカランが、ボス格らしいっスよ。どーやらコイツがナワバリ独占してたせいで、他のスノリゴスターが牧草地の方まで出張ってきてた様です」
「フム、そうか……にしても、おかしな姿だな。背中に羽根があるとは……」
“斬輪”で切断した羽根の付け根部分を見て、ダムロンのおっさんが首を傾げた。すぐ脇には、斬り落とした羽根も置いてある。
「ええ、キメラみたいな魔法生物かもしれません。頭は犬みたいなカッコでしたし。正直言って食えるかどーかは分からないっスけど、一応持ってきました」
「そうか……まぁ、試しにサバいてみるか。面白い料理ができるかもしれん」
「ハハ……でも、もう一頭とかそういうのはナシっすよ。多分魔法生物なんで、同じのがいるかどうかすら……」
「そりゃ分かってるさ。でも珍しい生き物がいたら食ってみたくなるのが料理人のサガってやつさ」
「な……ナルホド」
多分違うと思う……。いや、この世界の料理人はみんなそーなのか?
後でエスリーンに聞いてみるか。
……『一緒にすんな』という目で見られるだけかもしれんケド。
――約十分後
スノリゴスターを運び終え、一息つく。
そこにダムロンのおっさんがやって来る。
「オウ、ありがとな! 今日の分はコレだ」
報酬が入った袋を受け取る。
「ああ、それと……アイツらの仇を討ってくれた礼だ。ヨメさん達から預かっておいたんだ。渡してくれってな」
もう一つの袋を渡される。
「……いいんですか?」
遺族は大黒柱を失ってやっていけるんだろうか?
「オウ。アイツらの子供達はもう立派な大人だしな。まだまだウチの食材を狩れるほど上達しちゃいないが」
「そうですか……」
少しホっとする。
「おっと、そうだ……」
おっさんが俺の肩を抱え、顔を近づけてくる。
いやだから怖ェって。
「あのコトは考えてくれたか?」
「え゛!? いやいや俺は……」
一瞬エスリーンの方を見ちまった。
「ガハハ……まぁ、相手がいるなら仕方ねぇか。お前さんみたいなヤツなら婿に大歓迎なんだがな」
「ハ……ハハ……」
「婿? どういう事?」
と、エスリーン。視線が冷たい。
「いやその……」
と、重要な事に気付いた。ダムロンのおっさんに昨日のコト口止めしてねェ。ナンとかして誤魔化し……
「怪しいわね。……何か隠し事してるの?」
ジト目で見られる。
キョドッちまったのが逆効果だったか……。
いやだから……どー説明したモンだか。
「ン? 嬢ちゃんも昨日聞いてただろ? 俺の娘を嫁にやるって話だぜ?」
「えっ……」
絶句するエスリーン。
「あっ、そのっ、とりあえず俺達はこれで。次の食材はどーします?」
「ん? ああ。……オオサソリやイモムシはまだ在庫に余裕があるから急がんでもいいぞ」
「分かりましたー。ではまた」
俺は大八車を引き、早足で店から去る。
「ちょっと! 話は終わってないわよ!」
追いすがってくるエスリーン。
……さて、どーなるやら。ちっと首筋がサムくなってきた。
――金の鸚鵡亭
大八車を旧ベルガント亭に置くと、俺達は宿へと戻った。
その感ずっとエスリーンの冷たい視線に晒され続けたワケだが……正直、フィルズ・ロスタミと対峙したトキよりも生命の危機を感じた。
「おかえりなさい……」
俺たちの間に漂う微妙な空気を察したのか、シャーリアのおっさんの顔もこわばっている。
「お、お食事はもうすぐ出来ますので……」
「わかりました。すぐ降りてきます」
言い置き、荷物を置くべく部屋へと向かう。
さて、夕飯なワケだが……どーやら楽しめそーにナイな。
――食後
うーむ、味気なかった。
やっぱ雰囲気って大事だよな〜。美味い料理が勿体ねェ。
そして、早々に部屋に引き上げた俺を待っていたのは、エスリーンの尋問だ。
「さて……話してもらえるかしら?」
対面のベッドに腰掛けたエスリーンが笑顔で問いかけてくる。が、目が笑ってねェ。
今は俺もベッドに腰掛けてるが……床の上に正座でもしたほーがいーんだろか?
「な、何から話せば……」
「……全部よ。昨日あった事や婿入り話の事を全部」
「う……む……」
どー話したモノか。リラには伏せておいてくれと言われてるしな。
「は・や・く話しなさい」
「あデデデデ……」
にじり寄ってきたエスリーンに両の頰をつねられた。
つか、これじゃマトモに喋れんがな。
……どないしょ。
と、エスリーンの動きが止まった。
おっ? 許してくれるんか?
『それくらいにしてやってくれないか? 後は、私が話そう』
リラの“声”。
「ちょっとアンタ! ヘンな魔法使って誤魔化そうとしないでよ!」
「ふぇ? ひょっ、違う!」
聞いてねぇ! 何とかしてくれ、リラよ。
「えっ? あれ?」
戸惑うエスリーンの声。
そして次の瞬間、その雰囲気が一変する。
これは……リラか。
「……仕方ないな。こうせざるを得んか。一応、大熊亭に行くのを妨害したのだけどね」
「あー、それでか。てっきり身体洗うのを嫌がってただけかと」
「……半分はそれもある。どうも、私の意思が表面に現れていない時でも、身体の感覚が普通に感じてしまう様になってしまったからな」
「やっぱし1日その身体で行動したせい?」
「そうかもしれん。が、あまりこれは……」
「? どーした?」
「いや、何でもない。それよりも……おっと」
そこでまた彼女の雰囲気が変化する。
これは、エスリーンだな。
「な……何なのよ!? 誰が私の身体を勝手に使って……って、まさかリラ?」
「ああ。私だよ。黙っていてすまなかった」
おっと、一人芝居(?)か。余計な口は出さん方がいいな。
「そう……良かった。ずっと一緒にいるのは感じていたけど、こうして話せるなんて……」
エスリーンは己の胸を抱く。
「……ソースケ、すまないが、エスリーンと二人で話したい。しばらく放っておいてくれないか?」
「ああ、分かったぜ」
「ありがとう」
そう言うと、リラは半眼となった。
おそらくは精神世界で話し合うんだろう。
邪魔せんよーにして待つか。




