口封じ、か
「ゴ……ア……。ミゴトダ」
ヤツが倒れ伏す。
ヤツの牙は俺の頭のわずか数センチ先を通過。
一方俺のサーベルは、ヤツの首筋を深く斬り裂いていた。
吹き出る血。
そして、返り血に塗れる俺。
むせ返る血の匂いの中、俺は一つ大きく息を吐く。
俺の勝利だ。
さて……。
「すまねェが……聞いておきてェコトがある」
ヤツの命の火が消える前に、確かめておかねばなるまい。
「ナンダ? キサマハ ショウシャダ。ワレガ シル コトナラ コタエテ ヤロウ」
「スマンな。じゃあ、まず……アンタの創造主は、レジューナってヤツだな?」
ついさっき、ヤツのステイタスの詳細部分をアカシックレコードで確認してみた。
「ソウダ。シカシ……ナゼソレヲ?」
「俺はこの世界の……」
あ〜、ナンつったらいーんかね?
「? ナンダ?」
「え〜っと、“運命律”を観るんだよ、俺は」
「フム……キサマハ カミガミノ カゴヲ エテイルノカ」
「よくワカランが、そーらしい。……アンタもだろ?」
「ウム。アノカタニ アタエテ イタダイタ カラナ」
「……“あの方”、か」
まさか、とは思うがな……
「アノカタハ……ゾウブツシュサマノ “ウツワ”ダ。ワレワ ソノイチブヲ アタエラレタノダ」
「造物主!? それに“器”だって!?」
「アア、ソレハ……」
ヤツが口を開き……
「ガハァ!?」
直後、その頭が砕けた。
「なっ!?」
「きゃあっ!」
吹き出る血と脳漿が、俺達の身体を染める。
「バカな……」
俺達は何もしていない。ヤツが自決したという訳でもない。それとは無関係な“何か”が、ヤツの命を絶ったのだ。
つまり……口封じ、か。
監視されているんだろうか? あるいは、何らかのキーワードを口にした途端、その命を絶つ仕掛けを施されていたってワケか?
まるで、特撮に出てくる悪の組織だな。
にしても……騎士団顧問が作成した魔法生物に、“造物主”の加護が与えられていたとはな。
連中が崇拝する“造物主”も、実在していたのか。
あるいは……あの占い師と同一人物なのか?
異界人排除を掲げる騎士団に崇められている“造物主”が、異界人である俺をこの世界に送り込む……か。
考えにくいことだケドな。
後でリラに相談してみるか。
あ……まだ根に持ってるかもしれんナ。
何とかして機嫌直してもらわにゃいかん。猫の好きそーなモノでも買っとく?
「ソースケ……一体何が?」
エスリーンの声。
「よくわからん。ケド……コイツ自身の意思で死んだってワケじゃなさそーだ」
「どういう事?」
「こいつの製作者が、何らかの方法で予め呪いでもかけておいたのさ。言っちゃマズいコトを口にしないよーに」
「そんな……」
「どうやらコイツは、聖堂騎士団の顧問が制作したらしい」
……あの旧ベルガント邸に出没したフレッシュゴーレムと同じ、な。
「そうなの? でもさっき、フィルズ・ロスタミを主人って……」
「ああ。どういう経緯でそーなったかワカらんがな。もしかしたら、両者に何らかの繋がりがあるのかもしれん」
騎士団の元副隊長と顧問。面識は当然あるだろう。
問題は、顧問の今の立ち位置だ。
果たして現首脳部との関係はどうなのか。
もし険悪であれば、追放されたフィルズ・ロスタミと接触していても不思議じゃないか。
この辺の事情は追々調べるだな。
それよりも、だ。
「コイツ、どーしよう……」
胴体はスノリゴスターそっくりなんで、一緒に持ってっちゃっても良いか……
フレッシュゴーレムみたいにスライムが寄生してないみたいだし。
先刻血抜きのために吊るしたスノリゴスター一体を下ろすと、今倒したスノリゴスター強化型を吊るす。
とりあえず、これの血抜きの間に残り二体も大八車に積み込んだ。
そして二体分の三脚も解体し、片付けた。
さて……血抜きにはもうちょいかかるか。
奴が死んだ辺りから何やら“力”を感じるので、その辺りを見回す。
と、血だまりの中に翠色に輝くねじれ双角錐が見つかった。魔導石だな。けっこーデカい。
おっしゃ。儲け。
血を拭き、懐に入れる。
後は血まみれになった自分達の頭と顔を拭き、マントを着替える。
血生臭いままだとスノリゴスターとかを引きつけそうだ。これ以上はもういいや。
それに、門番に色々聞かれてメンドいコトになりそーだしな。
さて、と。そろそろ血抜きは終わったか?
俺達は、五体のスノリゴスターを大八車に満載し、荒地を後にした。
――しばしのち
俺達は集合場所だった大木の所へとたどり着いた。
とりあえず、ここで一服。
敷物を敷き、木の下に座る。
無論、血抜きに使った枝の下は避けて、だ。
昼飯の残りを食べねば。折角用意してもらったんだしさ。
チーズやハム、野菜を挟んだ薄焼きパンと、ワインだ。
動いた後の食事は美味い。
血の匂いがしなきゃ、もっと美味かったんだろーケドさ。
それに、羊がいないのが寂しいトコロ……って、誰か来た?
――約十数分後
ちょうど食べ終えた頃、数人の羊飼いと兵士達がやって来た。
その先頭にいるのは、グラームのおっさんだ。
もしかしたら、俺達の救援の為に衛兵を呼んで来てくれたのかもしれん。
「おおっ、あんたら……無事だったか」
「ええ。この通り。スノリゴスターも捕獲しましたし。お気遣い、ありがとうございます」
「そうだったか。取り越し苦労だったか」
グラームのおっさんは苦笑した。
そして大八車を見やる。
「あれ全部スノリゴスターか! 大したもんだ」
他の羊飼いや兵士達も驚いている。
「ほう……腕は立つようだな。すぐにでも衛士に推挙したいくらいだ」
兵士達の隊長らしきおっさんが口を開く。
どうやら社交辞令じゃなさそーだ。
「いえいえ、そんな……」
ケンソンしつつも内心のニヤニヤが止まらん。
この街の衛士か……。ギルドとからの派遣じゃなく、公務員扱い?
傭兵よりも安定した職なんだろうケド、行動の自由は失うよな。まぁ、しばらくは傭兵でいよう。
「あっと、そうだ。スノリゴスターのナワバリを独占してたボスっぽいヤツは倒しましたんで、もうこの辺りまで連中がやってくるコトは少なくなると思います」
「なるほどな……そういう事だったか」
グラームのおっさんはうなずいた。
まっ、ホントのコト言っても余計な混乱を招くだけだしね。
「わざわざありがとうございました」
そして去っていく彼らに礼を言う。
さて、俺達も。
「じゃあ、帰るか」
「ええ」
俺達は大八車を引き、アルタワールの街へと歩き始めた。




