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うげっ、サイアクだ

――翌朝

「〜〜〜!」


 誰かが俺を揺り起こしている。


「……スケ!」


 ン? 俺を呼んでるのか? 母さん?


「起きなさい! ソースケ!」

「痛ッ!」


 頰に衝撃。引っ叩かれた!?

 流石に目がさめる。

 ……が、身体が動かん。胸も重くて苦しい。麻痺とかじゃなく、誰かが上に……。


「な、何!?」

 恐る恐る目を開けると、怒髪天を衝いたエスリーンがそこにいた。

 ……というか、マウントポジションとられてるし。膝で腕抑えられて、ガードもできん。

 まぁ、力ずくで退けよーと思えば出来ないコトもねーが、女の子相手に、ねえ?


「え? あ……リラ、じゃない?」


 って、マズったか? 思わずリラの名を口にしちまった。

 つか、いつもなら朝が弱いエスリーンの代わりにリラの意識が表に出てるのに。どーなってんだ?


「リラ? 何言ってんのよ。あの子と同じ名前の女と浮気してたってワケ?」


 って、キレてやがる。

 まー確かに昨日1日リラって子といたケドさ。その当人(?)だぜ? つか、他の誰かと浮気するヒマなんてねーよ。ずっと一緒にいただろーが。

 つか“浮気”!? ってコトは、俺達つきあってるってコトでいーんかね?


「いや待てエスリーン。だってさ、いつも朝は寝ぼけて猫モードだろ? だからリラって言ったのさ」

「そっ、そうかもしれないけど……」


 やはりその辺の自覚はあるよーだ。

 が……


「それをいい事に、好き放題私の身体を弄んでたでしょ、アンタ!」


 って、いらんコト思い出しよった!


「待てや! そりゃ初日だけじゃねーか!」

「二日目もよ! 覚えてないとでも思ってんの!?」


 んげっ、覚えてやがった!?


「あ……そーだっけ。でもそれっきりだろ?」


「え、ええ……そうだけど、でも……」


 彼女は何か言おうとし、口を閉じた。

 どうやらリラが覚醒してからは、その意識が表に出てるトキの記憶はほとんど無いらしい。


「そっ、それよりも、さっきよ! あんな、あんな……」


 さっき? あー、昨日の朝のアレか。ほぼ丸一日、彼女の意識は眠ったまんまだったしな。


「いや……俺だって知らねーヨ。だってさ、気がついたら押し倒されてて、あのザマだゼ?」


 嘘は言ってない。


「そっ、そんなコト……」


 頰を赤らめた。もしかして、自分でもやりかねないと思ったんかねェ。


「たっ、例えあったとしてもよ? その後で、気を失ったのをいいコトに私を裸に剥くなんて、酷いじゃない!?」

「えっ? 裸? ナンで?」


 ……って、リラめ、そのまま寝ちまいやがったか! 服着ろっつったのに。


「しかも、アンタの隣で目覚めたの! アンタに抱きついた格好で! もしかして、私が気を失ってる間に、あんなコトや……」


 うげっ、サイアクだ。つか、リラめ。もしかして身体を洗ったコトへの意趣返しか!?


「誤解だっ! 誤解だって! 俺は何もやってねェ! 気を失ってたから“治癒”をかけてそのままベッドに寝かせただけだよ。そもそもアレは昨日の出来事だ」

「き……昨日!?」

「他の人に聞けばすぐ分かるぜ?」

「そ……そんなコト……」


 エスリーンは窓の方を見やる。

 窓の外は日の出間際なので少々薄暗い。昨日のアレは、もう少し日が昇った後のハナシだしナ。

 ちなみにこの件に関しては、宿の主人他に口裏合わせを依頼してある。当然口止め料ははずんだ。


「あ……あれ? 私……」


 彼女は当惑し、涙目になる。


「まっ、誤解は誰にでもあるしね」

「……」


 彼女はがっくりと崩折れた。

 ちと気の毒?

 と、


『ふん、うまく切り抜けたな』


 頭の中で、リラの声がした。

 やっぱし根に持ってやがったか……



 ……気をとり直して。

 朝食までには時間がありそうなので、俺達は今日の狩りについての打ち合わせを行う。

 ターゲットがオオヤスデではなくスノリゴスターなので、エスリーンは当惑していたが。

 ともあれ何とか一通りの説明を終えたあたりで、朝食の用意が出来たことを告げて回る宿の主人の声が聞こえてきた。



 俺達は食堂に降り、朝食をとる。

 エスリーンは料理を持ってきたシャーリアに、昨日の事を尋ねていたが、おっさんは何とか誤魔化してくれた。

 結構不自然ではあったが、エスリーンは納得した様だ。

 さて、と。

 食べ終えたら、早速仕事だ。

 部屋に戻って装備を整えると、俺達は宿を後にした。



――しばし後

 俺達は酔いどれ牛の裏手へとやって来た。


「え? 何でここへ?」

「あー、実はな……ここ、酔いどれ牛の裏庭なんだ」

「そうなの?」

「ああ」


 俺は扉の脇にある紐を引く。

 しばし後、アーミルが顔を出した。


「おはようございます、ソースケさんとエスリーンさん……ですよね?」

「ああ、おはよう」


 俺も挨拶を返す。危ねーな。一応エスリーンとは初対面、っていう設定のハズだぜ?

 一応、アーミルには口止めしてある。そしてついでにハルジーの口止めも頼んでおいた訳だが……。


「おはようございます。私が、エスリーンですが……」


 エスリーンは戸惑ったように俺を見る。


「えっと、この人は……」

「ああ、ハルジーの息子のアーミルさんだよ」

「えっ!? あの人の……。は、初めまして、エスリーンです」

「えっと、初めまして……」


 ま、まぁ、ナンとかなった?


「じゃあ、またアレ借りてくよ」

「はい、用意してあります」


 アーミルは納屋の前に置いてあった大八車の所へ行き、覆いを外した。

 前日の二の舞にならんよう、納屋に入れんかった様だな。

 入れる事が出来んかったのかもしれんケド……。


「あんがとさん。……ところで親父さん、いる?」

「ええ。今日は大丈夫ですよ」


 アーミルは店の裏口をくぐった。

 そしてしばらくして、ハルジーが顔を出す。


「オウ、おはよう。おっ、今日は嬢ちゃんも。で、どーした?」


 こっちはワリと自然だ。流石おっさん。


「おはようっス。ところで……あの旧ベルガント邸って、買い手がついた?」

「いや……まだだぜ。しかもこの間、妙な臭いがしてたそうだしな。いつ買い手がつくか、全く分からん状態だ」

「臭いっすか?」


 アレか。アレだな。

 エスリーンがジト目で俺を見てやがる。

 が、ポーカーフェイスだ。


「で、あの家が何か? 一山当てたんで買い取りたいとか?」

「いや……まだそんな。この荷車、しばらくそこに置かせてもらえんかな、と思ってさ。朝、いちいちココに取りに来るのも手間だしな」

「ふ〜む……。一応聞いてはみるがな」


 と、ハルジー。前の売主は殺されたハズだが、血縁者がいたんかな?


「頼むよ。無論、その分の場所代は払うぜ? あんだけの土地を遊ばせとくのは勿体ねぇだろ? 幾らかでも金になった方が良いと思うがな」

「それもそうだな」

「ありがとう。その件は頼むよ。じゃあ、俺達はこれで」

「オウ。気をつけてなー」


俺達はハルジー父子に見送られ、酔いどれ牛を後にした。

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