イロイロ堪能させてもらったがね
――しばし後
俺達は大八車を引き、酔いどれ牛へと戻って来た。
借りっぱなしでもいーんだが、何せ宿には置く場所がねェ。“金の鸚鵡亭”は普通の旅人がメインの宿だしな。
う〜ん、どーせ借り手がつかないんなら、旧ベルガント邸にでも置かせてもらうか? ハルジーのおっさんにでも頼んで。
俺は酔いどれ牛裏庭の塀にある扉の、その脇にある紐を引いた。
この紐は店内まで続いており、その先にはベルが付いている。これを引くと、こちら側からの来訪者がいる事が分かるのだ。
これは先刻やり方を教えてもらった。紐自体がわかりにくい場所にあるんだよな。つか、朝教えてくれや。
「お疲れ様です」
しばしの後、扉が開く。出迎えたのは、アーミルだ。
「ソースケさん、お疲れ様です。父も手放しで褒めてましたよ。流石です、僕にはとても真似できないですよ」
「いや、そんな……」
ケンソンしてみる。が、褒められるのは悪い気分じゃねぇ。いや……こーいう達成感を味わうためにこの世界に来たよーなモンだ。
「僕なんて、往時の父に比べたら貧相で、まともに傭兵としても戦えなかったんですよ……。今は父の店で料理担当として働いているんですが、やはりそうやって戦える人には憧れます」
「お、おう……」
アーミルは肩を落とした。実は俺もアンタとどっこいの能力だ……ナンて言うワケにはいかんよな……。
「ダムロンさんに結婚を認めてもらうのは、難しいだろうなぁ……」
去り際にアーミルは、ぼそりと呟いた。
え? あのおっさんと結婚すんの? ……じゃねーや、あの子か!
そーいやナンか言ってたな。ハルジーには悪いがとか何とか。ナ〜ルホド、あそこの娘さんと付き合ってたってワケね。
う〜む、一肌脱いでやりたいが……。
――帰り道
俺達はイチョウ通りを宿へと向かって歩いていく。空はすっかり暗くなっていた。
『ふむ……理解しがたいものだな。あの貧弱そうな雄とつがいになりたいとは……』
世間話ついでにアーミル達の話を振ると、リラがそんなコトを口にする。
ちとグサっときた。
「あ……あのさ。もし俺があんなカンジのヒョロッこいヤツだったら、リラは俺としたいと思う?」
『君が? ああ、それは……』
と、そこでリラは言葉を詰まらせた。
「? どーした?」
いや……気を使わんでいーからハッキリ言ってくれぃ。カクゴは出来てる。
『……判らない』
「……へ?」
『おそらく出逢って間もない頃なら「思わない」と言い切っただろう。だが、今は……君に対する妙な愛着がある』
「それって、主人や飼い主に対するモノと違うん?」
『違う。主人や“金の鸚鵡亭”の店主に対しては、こんな気持ちは抱かなかった……』
そこで、リラは泣き笑いの様な表情を見せた。
例え本能に突き動かされていようが、少なくとも表面上は冷静だった彼女にしては珍しい。
『ただの猫だった頃、使い魔だった頃ならもっと単純だったのだがな。ヒトの肉体を得て以来、頭がゴチャゴチャだ。特にここ三日ほど、君の事を考えてしまうと、な』
口元に浮かぶ、自嘲の笑み。
「なぁ、リラ」
俺は彼女の肩に腕を回す。
「ゆっくり考えりゃ良いさ。急ぐコトじゃねぇだろう? またこーやって一緒に歩いたりして、さ」
『ふふっ、ありがとう。しかし……それが私を惑わせるのさ』
「……へ?」
『いや……何でもないさ。行こう。今日は楽しかったよ』
そう言うと、リラは俺の腕から抜け、スタスタと歩いていく。
「おーい、待ってくれよ〜」
俺は慌ててその後を追った。
――金の鸚鵡亭
「おかえりなさい。首尾はいかがです?」
主人のシャーリアが出迎える。
「大漁っスよ、大漁!」
「それは何よりです。お腹もすいたでしょう。食事も用意してあります」
『それはありがたい』
俺達は荷物を部屋に置き、食堂へ戻るとテーブルに着く。
そこに運ばれてくる、温かい夕食。
サラダと鶏肉のスープ、刻んだ羊肉を乗せたパン料理。
イカモノ系料理に慣れつつはあるが、やっぱしこーいうフツーの料理は安心するぜ。
さて……いただきます。
ふぅ、食った、食った。ごっそさん〜。
食後の茶を飲みつつ、明日の予定の打ち合わせだ。
明日はエスリーンと狩りに出るので、リラにアドバイスをもらう。
「さて、明日だが……スノリゴスターはこの街の東側にある荒地に出没するんだっけか」
『ああ。あの辺りには、住処となる洞穴がたくさんあるからな。時折遊牧中の羊が襲われるそうだ』
「なるほどな〜。確か東門から出てく羊飼い達がいたな。その牧草地との境辺りを探してみるのも手か」
リシュートなどのオアシス都市ほどではないが、この街でも牧羊が盛んだ。羊毛や羊肉が、市場で盛んに取引されている。
『おそらくそうするのが一番だろうな』
と、リラ。
そうか、なら……
シャーリアのおっさんに、そのへんの事を聞いてみか。知り合いに羊飼いとかいるかもしれんし。
と、カウンターに座っていた一人のおっさんを紹介された。
シャーリアの奥さんのサライさんの兄で、羊飼いをやってるそーな。名はグラーム。
どーやら三人は幼なじみだったそーで。
何やらノロケ話やら黒歴史やらを聞かせられたが、とりあえずは割愛。
とりあえず、彼からいつもの巡回ルートを聞く。そして、仲間の羊が襲われたという場所も。どうやら最近、ヤツらの活動が活発化してるそーな。
なので、喜んで協力してくれることになった。
……よしよし。ラッキーだ。
明日の朝、また大八車を借りたら東門から出、遊牧中のグラーム一行と合流する。そして、牧羊地の東側を回るという約束を取り付けた。
その辺りはスノリゴスターを恐れて羊飼いが立ち入らないので、牧草が生い茂ってるそうな。護衛さえいれば同業者にも気兼ねせず、羊達に腹一杯牧草を食わすことが出来るとの事だ。
無論、幾らかの報酬は渡すという約束だ。ついでにシャーリアのおっさんにも、情報料として幾らか渡しておいた。
おっさんは喜んで懐に入れたが、すぐに奥さんに見つかって取り上げられたという……。店の収益にするってコトで。
異世界でもそーいうコトはあるんだな。悲しいねェ……。後でまた幾らか渡しとこ。奥さんに見つからんよーに。
夕食後、すぐに俺達は一旦部屋へと戻る。
そして浴室で身体を拭きに……
って……オイ、リラよ。そのまま寝る気か。
『私は濡れるのが苦手でね。このまま寝かせてもらうよ』
彼女は服を脱ぎ捨て、ベッドに潜り込んだ。
待てや。だいぶ汗かいただろーが。そのままじゃ明日の朝、エスリーンがえらいコトになってんゼ。
「そーいうワケにはいかん。……“麻痺”!」
『なっ、何を!?』
俺の呪文は彼女の体の自由を奪った。
MODで強化された魔力だ。幾ら魔化しつつある使い魔だろーとレジストは出来ねェぜ。
マント等で簀巻きにし、ついでに猿轡も噛ませて担ぎ上げると、浴室へと向かう。
リラは恨めしそーな顔で俺をみるが、無視。
行き合ったシャーリアのおっさんやその息子、娘達もドン引きした様子で俺達を見るが、これまた無視。
そして声なき悲鳴をあげる彼女の身体を洗って拭き、ついでに自分も拭き終えると、再び彼女を簀巻きにして部屋に戻った。
『うぅっ……身体中、ソースケの手で汚されてしまった……』
ベッド上で解放された彼女は、虚ろな表情で何やらブツブツ言ってやがる。つか、誤解を招くよーなコト言うなや。
まっ、イロイロ堪能させてもらったがね。
とりあえず彼女に布団をかけ、洗濯してもらった下着と寝間着を彼女の枕元に置いてやる。
「もうじき“麻痺”も解けるから、それ着て寝なよ。俺ももう寝るからさ」
そう言い置いて俺はベッドに潜り込む。
正直もう限界だ。昨晩食べた、え〜っと……ラジュフォンの黒灰汁漬けだっけ? の効果はとうに切れてるしナ。
そして目を閉じるとすぐさま睡魔に襲われ、俺は深い眠りに落ちていった。




