この通り、バッチリだぜ
――約一時間後
俺達二人は北門にたどり着いた。
門の前には通行手形の手続き待ちの人達が数人並んでいる。おそらく旅人か、行商か。
俺達は彼らの後に並んだ。
「やあ、お二人さん。あんた方も行商かね?」
俺達の前に並んていた商人らしきおっさんが大八車に目をやり、尋ねてくる。
「いや……狩りですよ。コレは獲物です。そこの森の奥で……」
「へぇ……見てもいいかい?」
「あ、ちっと……」
止める間もなくおっさんは獲物にかけた覆いをめくり上げちまった。
そして露わになるオオヤスデの頭部。
「どれどれ……って、うわーっ!?」
おっさんは悲鳴をあげて飛び上がった。まーおそらくイノシシやシカを想像してたんだろーケドさ。
あー、ガッツリ精神耐久度削れてやがる。
その前にいた老夫婦は驚いて腰を抜かしちまったらしい。さらに前にいた傭兵らしき若い男の顔も引きつってんな。
あ〜あ、せっかく隠しといたのにさー。
「あ……あの、大熊亭ってところから捕獲を頼まれたヤツです……」
とりあえず、弁解しとく。
そして老夫婦に“治癒”をかけておいた。
一応回復した二人は、蒼白な顔で俺達から距離を置く。他の連中も同様だ。
つか門番さん、俺達を非難がましい目で見るのは止めてくれへんかな〜。いちおー気ィ使って布を被しといたんだしさ。
――大通り
何とか無事に門を通過すると、“酔いどれ牛”目指して歩く。
石畳の道はラクだな〜。さっきに比べりゃ大八車が軽く感じる。さっきも思ったケドさ、もーちょいコレ何とかならんモンかね〜。せめてゴムタイヤとかありゃあラクになるんだけどな。……つか、この世界にあるんか? ゴムって。
荒地ばかりを歩いてるんで、靴裏の消耗もヤバいしな。似たよーなモノでいーから、どっかで調達できんモンか。
……とか考えてる間に、“酔いどれ牛”の裏へとたどり着く。
ああ、しもた。コッチじゃハルジーとか呼び出す手段はねェか。
どーしたモンかね。一旦裏通りへと回ってとかメンドいしな。いっそ飛び越えるか?
いや……その前にとりあえず、扉を叩いてみる。
「はい、どなたですか?」
しばらくして返事が返ってきた。
聞き覚えのある声。アーミルか。
「ソースケです」
「あ、すいません! すぐ開けます!」
ガラガラと音を立て、扉が開いた。
「お疲れ様です。お入りください」
と、アーミル。
「成果のほどはいかがです?」
「ああ、この通りバッチリだぜ」
俺は大八車を示す。
「流石はソースケさん! すぐに父を呼んできますね!」
そして彼は、店の裏手の扉へと向かった。
「オウ、大漁の様だな!」
すぐにやってきたハルジーのおっさんは、大八車を見、破顔する。
「ああ、この通りな。とりあえず、確認してみてくれ」
覆いをめくってみせる。
間違ってたらオオマヌケだしな。
「おおっ、五匹も獲ってきたか! やってくれるな」
ドンと背中を叩かれた。痛ェよ。
ケド、もっと褒めてくれてもイイんだぜ?
「ヨシ。これならダムロンも満足するだろう。スマンが、持って行ってくれないか?」
「ああ。お安い御用だぜ」
そして俺達はまた大八車を引き、大熊亭へと向かった。
――大熊亭
地球で言えば午後六時を回ったあたりのこの酒場は、すでにチラホラ客が入っていた。
とりあえず店の前に大八車を置いてリラに見張りを頼み、店に入る。
「オウ、いらっしゃい!」
カウンターから怒声……じゃねーや、声がかかる。ダムロンのおっさんだ。
「こんばんは。例のモノ、届けに来ました」
「おっ、誰かと思えば昨日来たボウズじゃねーか!」
カウンターを出、ノシノシと歩いてくる。まるで藪から出て来たヒグマが迫ってくるよーである。
この威圧感……ちっと逃げたい。
「で、どうだ? 何匹ぐらいだ?」
「へへっ、見てくださいよ」
俺はダムロンとともに店を出、大八車にかけた覆いを少しめくってみせる。
「コイツでいいんスね?」
「オウ、五匹もか! やるじゃねーか!」
今度は腹を叩かれ、一瞬息が止まる。
……ちっと涙出た。
ホメられるのは嬉しーんだけどナー。
「オシ、裏へ回ってくれ。そっちから運び込むからな」
厨房側からってコトね。客のいる前でオオヤスデを持ち込むのはチトまずいわな。
覆いを掛け直すと大八車を引き、裏手へと回る。
「オウ、こっちだ!」
宣告より少し狭い路地裏では、ダムロンのおっさんが待っていた。ナンかもー、待ちきれねェってカンジだな。
とりあえず店の裏口の前で大八車を止める。そして、覆いを外した。
ダムロンは車上のオオヤスデを車上の眺め、満足げにうなずく。
つか、まるで獲物を前にした肉食獣の顔なんスけど。
「ヨシ、運び込むから縄を外してくれ」
「わかりました」
俺とリラは大八車にかけられたロープを解いた。
「ふむ……なかなかいいぞ。身もしっかりしてる様だ」
一匹を持ち上げ、笑う。
つか、そのままかぶりつきそうだな。
「じゃあ、運び込むから少し手伝ってくれ」
「わかりました」
俺とダムロンは、手分けしてオオヤスデを店の厨房に運び込んだ。
その間に、リラは大八車の掃除をしてもらう。切れた脚とか残ってるからな。
そうして五匹全部を運び終え、今日の仕事は終了だ。
「ありがとうございました」
ダムロンの娘さんが頭を下げる。
う〜ん、やっぱし親父さんにゃあ似てねェ。
「オウ、ありがとな。コレでしばらくオオヤスデは大丈夫だ」
おっさんは報酬の入った小袋を俺に渡した。
おっ、意外とずっしり。つか、おっさんが持ってたから袋が小さく見えただけか。
「次はスノリゴスターを頼みたい」
「分かりました。任せてください!」
ふむ、次はそれか。帰ってからまた対策を練らんとな。
……おっと、忘れてた。
「ああ、そうだ……」
「ン? どうした?」
「多分、以前ヤスデ捕りしてた業者の人だと思うんですけど……狩り場の所でゾンビになってました」
「! ……何だと!? どういう事だ?」
いだだだ……肩つかまんでくれ。喰われるかと思った。
『……これを』
リラが遺品のナタと弓を示す。
「コイツは……間違いねェ! タリグとプランドルだ!」
どうやら当たりだった様だ。
「何故、こんな……」
「その……腐敗が進んでいたので、かなり前にゾンビにされたのではないかと」
「もしかしたら、ラバンのヤツが現れた辺りか……」
ダムロンは沈痛な表情をした。
「……ありがとよ。あいつらを救ってくれて」
おっさんは弓とナタを眺め、力なく笑った。
と、娘さんの肩に手をかける。
「おお、そうだ。もしあいつらの仇をとってくれたら、コイツをやってもいいぞ」
「お、お父さん!?」
「いやいやいや……」
『……』
いきなり何言い出すんだか、このおっさん。まー、ジョーダンだろうケド。でもちっと惜し……って、ナンでツネるよ、エスリー……じゃなくてリラ。
「あのヒョロッとしたのより良いと思うんだがなぁ……。ハルジーには悪いが」
「もう、何言ってるのよ。あの人はね……」
何やら親子喧嘩が始まっちまったので退散だ。
「で、ではまた〜」
「オウ、頼んだぞ!」
おっさんのデカい声が路地裏に響く。
つか、何人か付近の住民出て来たんスけど……。
俺たちは慌ててその場を後にした。




