あー、そっち?
――アルタワール北門
俺は大八車を引き、リラとともにイチョウ通りを行く。
“イチョウ通りの満月亭”の前を通り、そこから数分ほど歩くと北門だ。
『そういえば君は、異世界から転移して来たんだったな。この街の門はどうやって通ったのかい?』
リラが問う。
「ああ、それがな……」
俺はゴブリンとの戦いとその顛末を話した。
『ふむ……なるほど。君は強運の持ち主だな。それとも、その“力”のおかげか? この街の警備は相当厳しいはずなのだがな』
「なるほど……」
いくら他人の通行証を入手出来たって、それが見破られりゃあアウトだ。あの左遷騎士達でなけりゃ見破られてたかもしれねェな。
そして、ハルジーのおっさんのギルドがあそこまで落ちぶれていなけりゃ、傭兵として登録されるコトもなかっただろうナ。
MODサマサマってトコか? いや、ヘタすりゃcheatレベル?
う〜む……コレがオンラインゲームなら垢BAN喰らうかもナ。いや……ヤツが造物主なんだから構わねェのかな? でも、自称なんだよな……
……などと考えてる間に、北門に到着だ。
ハルジーのおっさんにもらった通行証と許可証を門番に見せ、無事通過だ。
ちなみに門番は、聖堂騎士団の従騎士と思しき若い男二人だ。割と勤務態度も真面目で、あの左遷騎士二人よりは使えるんじゃねェかな?
あの時、この二人が門番だったら少々ヤバかったかもナ。
そして門を出たのち、街道を外れて東の森へと向かう。
ややまばらな木々の間を抜ける、踏み固められた道がある。
狩りをする人馬が通るんだろう。とりあえず俺達は、この道が途切れるところまで、道なりに進めばいい。
とりあえず門番が見えなくなった事を確認すると、大八車に積んである狩りの道具をリュックに詰める。無論、リュックの口に入るサイズのブツのみだが。こーすりゃ重量はカンケイなくなるしナ。便利なモンだ。
いくら体力度が20あるっつっても、荷物は軽いほーがイイ。この先には道なき道もあるし、狩りの分のスタミナは温存しときたい。
『ふむ……なかなか興味深い袋だな、それは……』
隣を歩くリラが、俺のリュックを興味深げに眺めている。
『変わった手触りの布が使われているな。それに、この袋を閉じる構造は、見たことがない』
「え? あー、そっち?」
って、よく考えりゃー魔導師の使い魔だから、ある程度空間収納の魔法は見慣れてんのか。
「この布はナイロンっつって、石油から出来てるモンさ」
『セキユ?』
「ああ、そーいう言葉はねェのか。地下から採掘する油だよ」
『それは……聞いた事がないな』
「へ? 無いの? 大昔の生物の死骸が海の底で分解されてどーのって……」
『なるほど。一万年もあればそういう物が出来ても不思議ではないが……』
「いや、一万年ぐらいじゃあ……」
ちっと待て。もしかしてこの世界、ホントに一万年そこらしか経ってねェの? 造物主やら神様やらがいる世界だから、そーいうコトもありうるのかもしれんケド。
『ふむ。君たちの世界は、出来てどれぐらい経つのかね?』
「あー、地球自体は46億年、だっけか? 宇宙自体となると、百五十億年か……」
『……こちらの世界の我々には想像もつかん時間だな』
「いや、あっちで生まれた俺にも想像つかねーよ」
『そうか。……ところで、チキュウと宇宙とは別物なのかい?』
「あー、それな。宇宙の中に、俺達が住んでる地球っていう惑星があるんだよ」
正直、どこまで理解してもらえるかはワカラン。なんせココは異世界だ。
『惑星、か。例えば我々の世界の火の星や明け星、宵星の様な物か?』
「ああ、そんなモン。俺たちの世界にも、そんな名前の……」
……ン? そーいやこの世界の月、地球の月とそっくり……っつーか、そのモノだな。天の川らしきモノもあった。ショージキ星座に関しちゃ詳しくないんで、星の配置に関しちゃワカランが。
『……どうした?』
怪訝そうなリラの声。
「な……なぁ、リラよ。この世界の構造ってどうなってんだ?」
『ああ、それは……』
リラの説明によれば、この世界は平面であるらしい。中央に大地があり、その周りを海が囲む。
へ〜、だから盆地の中にいると勘違いしたんだナ。
とりあえずココまでは、ゲームと同じだ。
ゲームじゃ無限ループだったが、現実のこの世界はそのさらに周囲に壁があるらしい。そして壁から続くドーム状天蓋が上空を覆っているとか。理科の教科書に載ってた、昔の宇宙観みてェなカンジかねェ?
空や天体は、天蓋に映し出された映像というコトらしい。
つまり、地球上から見た空と同じ映像が映し出されてる、と? 太陽の位置からして赤道上にカメラがあって、そこからの映像とか? あ〜、時差からすると、太平洋のド真ん中あたり?
……というより、実はそのヘンに浮かんでるんじゃねーノ? 不可視の結界に包まれてさ。
『なるほど……我々と君達の世界は隣接しているという事か?』
「そこまではワカランさ。でも……俺みたいなのが転移してきたってコトは、案外近いのかもナ」
『なるほどな……』
エスリーンは腕を組み、考え始めた。
そうして進むこと、約30分。
う〜む、ちと疲れてきた。
木の輪っかに鉄のタガはめただけの車輪と、ベアリングもねェ車軸だから、ほぼ空荷でも少々力いるんだよナ。踏み固められてるとは行っても、土の地面は凹凸あるし。
それに少々飛ばしすぎたかもナ。狩りの時間を確保したいんで、通常歩くのとほぼ同じペースで来たが、もっとゆっくり歩きゃ体力の消耗は少なかったかもしれん。
せめてリヤカーならまだマシなんだろーケドさ。
牛でも借りてくりゃ良かったか? でも動物使うスキルなんて持ってねぇんだよナ。
あるいは、誰かそういう技能持ちに助力を頼んでみるか。
フィルズ・ロスタミはそーしてたらしーケド。
まぁ、とりあえず考えるのは、後だ。
『もう少しで小川が見える。そこで一旦休憩しようか?』
地図を見、リラが言う。
「そうだな。その辺で一服だ」
俺は大八車を引く手に力を込めた。
――しばし後
俺とリラは、小川のほとりでしばし身体を休めた。
鳥の声。風の音。そして小川のせせらぎ。
それを、河原の石の上に座って聞いていた。
『ふぅ……久々に、自分の身体で外を歩いたな。心地いい』
隣に座るリラが呟く。
「そっか……」
転移魔法の副作用でエスリーンと融合してしまってからは、彼女の意識が眠ってからしか行動できず。そしてフィルズ・ロスタミに襲われてからは納屋の中でほとんど動けなかったワケだ。
そして俺が“解呪”してからは、人間の身体になってしまったので、彼女自身の意思では動くこともままならなかったそうだ。そしてようやくラスディンから“力”を受け取ることで、再び身体を動かせるようになったという。
ちなみにエスリーンの意思が眠っている間だけリラが現れるのは、エスリーンを尊重してのコトらしい。やろうと思えば、1日ぐらいなら彼女の意思を眠らせ続けておく事も出来るそうだ。
正直エスリーンにゃ悪ィが、今日1日ぐらいはリラに好きなようにさせてやりたいトコロだ。




