脱ぐのは俺の前だけにしてくれ
――約30分後
軽い食休みのあと、俺とリラは“酔いどれ牛”へと向かった。
荷車と狩りの道具を用意してくれるってハナシだ。ケド……あの店にゃあそんなモン置く場所ねェんだよナ。
もしかして他の場所に置いてあるんだろーか?
ともあれ、裏通りを抜け、店の前にたどり着く。
……今回は何も起こらなかったな。
さて……
扉に手をかけ……あれ?
「開かねェ」
オイオイ、どーいうこった? まさかの休み!? 昨日は「朝、取りに来い」とか言ってたのにさ〜。
あのゴロツキ連中がそのヘンにいたら、捕まえて聞いてみるか。
周囲を見回してみる。……が、見当たらねェ。
ナンでこーいうトキに出てこないんだろうねェ、アイツら。
『ふむ……“開錠”を使うか?』
と、リラ。
「イヤそれマズいって。勝手にそーいうコトすんのはさ」
……昨晩、旧ベルガント邸に不法侵入した俺が言うのもナンだケド。やっぱし元猫だし、その辺のジョーシキはアレか。
とりあえず、店の周りを回って……
ン? 裏手でナンか音がすんな。あっちで用意してくれてんのか。
とりあえず、行ってみるか。
俺達は建物の隙間を、裏手へと向かって進んでいく。
旧ベルガント邸の、塀と建物の隙間よりも狭い。
クソッ、壁が汚いんで注意せんと服が汚れちまいそーだ。
「って、リラ! あんまし壁に近づくな。服に汚れがつくぞ」
リラはその辺無頓着の様だ。マントが壁に摺ろうがお構いなしに進んでいる。
『ん? ああ、そうか。わかった。……にしても、ヒトというのは不便だな。こういうモノを着ねばならんとは』
「まぁ、猫と違って体毛がほとんど無いからな〜」
『ふ〜む。狭い場所では邪魔なので服を脱ぎたいのだが……駄目か?』
「ダメ、ゼッタイ! ヘンタイ扱いされるぜそりゃ。脱ぐのは俺の前だけにしてくれ」
それに人間は、皮膚も猫とは比べモンにならんぐらい弱いしな。まぁ、キメラ状態だし、ちっとは強化されてる? 部分的に、猫っぽい体毛が生えてたしナ。つか、あそこなんかは元から? それとも……
『そうか……我々的には、余計な物を身につけている方が変態なんだがな……』
リラはナンかブツブツ呟いている。
ちっと傷ついた? ヘンタイ呼ばわりはマズかったか。つか、ドサクサまぎれにヘンなコトを口走った気がする。エスリーンの前では気をつけよう……。
――店の裏庭
ナンとか隙間を抜け、裏手へと回る。
割と広い庭がある。奥には塀。そして、その一角にそこそこデカい納戸が立っていた。
そしてその納屋で、一人の若い男が奥から何かを引っ張り出そうとしている。
見たことのない顔だが……
店の関係者か? まさか朝っぱらから泥棒ってコトはねェだろう。
ナンかヒョロッとしてて、力仕事にゃ向いてなさそーなヤツだ。引っ張り出すのに悪戦苦闘してやがる。
さて、どーすっかね?
……。
待ってても終わりそーにないんで、声をかけてみるか。
「あの〜、ちょっといいですか? ハルジーさんの店、空いてない様なんですけど」
「あっ……すいません!」
若い男は驚いた様に俺を見……
持っていた木製の取っ手らしきモノが、手から滑り落ちる。
「痛っ!」
そして、足に直撃。
「お、おい……」
慌てて駆け寄り、“治癒”。
しまった。声をかけるタイミングをマズった?
「あ……ありがとうございます」
男は額の汗をぬぐい、俺に礼を言う。
……ン? よく見ると、この顔どっかで見たよーな。まさか!?
「あ〜、もしかしてハルジーのおっちゃんの家族?」
「ええ……息子です。アーミルと申します」
「なるほど」
確かに輪郭や目元なんかは似てんな。……って、あのおっさん結婚してたんかよ!
「もしかして、ソースケさんとエスリーンさんですか? 父から言われて荷車の用意をしていたんですが……」
彼はチラと納屋る。そこには、大八車の様な、木製の荷車が鎮座している。さっき引っ張ってたのはその引き手だな。どうやら車輪が納戸の敷居に引っかかって出られない様だ。そんなに重いんか? いや……
「じゃあ、ちっと」
俺は納屋に向かう。そして大八車の引き手に手をかける。
「うおっ、意外と重いな」
一旦少し奥に引っ込める。
「ケド……おりゃっ!」
一気に引き出した。始動はやや力がいるが、動き出せば意外と軽い。
「ありがとうございます。出せなきゃどうしようかと思ってたところです。父から剣を教わって傭兵をしていたんですが、いかんせん体力がなくて……。ソースケさんが羨ましいです」
「そっか……。もしかして、この鎧……」
今来てる皮鎧は引退した傭兵のモノだって話だったな。コイツは俺より少し背が高いぐらいで、体格も似てるしナ。
「ええ。私のです。使ってくれる人がいて良かったですよ」
「なるほど。ありがたく使わせてもらうよ」
と、言いつつアーミルのステイタスを確認。
確かに剣術のスキルは結構いやかなり高いが、体力度8か……。
この世界における人間の平均値を10に設定した場合の数値なワケだが……男は11、女は9ぐらいが平均の様だ。その中で8っつーと、男としちゃかなり弱い方だな。
……って、俺の初期値も8じゃねーか!
思わぬ精神的ダメージを受けてヘコんだ。
いや待て。現状は、MOD抜きでも多少筋力はupしてるだろ!? いちおー、体重も少しばかり減ってるし……。
「……どうしました?」
アーミルが訪ねてくる。
「いや……なんでもないさ」
さて、こいつを引いて……って、
「ところで、出口は?」
借りたはいーが、出れなきゃマヌケだ。つか、コレを運び込んだのなら、出せるハズだ。納屋にコレを入れた後に店を建ててたりしなきゃのハナシだが。
「ええ。こちらです」
アーミルが納戸のさらに向こうへと向かう。
と、そこには外へと通じる扉があった。
そこを開く。と……
「ココって、表通りじゃないか……」
メインストリートのイチョウ通りと交差する、そこそこ大きな通りだ。
つか、ワザワザ裏通り通らんでもいいんじゃねーか。
「顧客層がアレなので、裏通りに店があったほうが都合がいいんですよ、今は」
「ナルホド」
まー、ちっと普通の傭兵ギルドにゃ持ち込めねーシゴトも多いみてェだし、仕方ねーか。
「そうだ、ハルジーのおっちゃんはどうしたん?」
「ええ、父は……二日酔いで」
「そ、そうか……。なるんだ、あのおっさんでも」
「実は大熊亭へ行って、ダムロンさんと明け方まで飲んでたみたいで……」
「そっか……お大事に」
俺は用意されていた狩りの道具を大八車に積むと、それを引き、北門へと向かった。




