“力”をつけにゃあなんねェ
――金の鸚鵡亭
主人が朝食の準備ができたことを告げて回っている。
服を着替えた俺とエスリーン……いや、リラは食堂へと向かう事にした。
「なぁ、エスリーンはどうなってるんだ?」
階段を降りつつ、少々心配になったので聞いてみる。
『ああ。大丈夫さ。いずれ目覚めるよ。それとも……私では不満かい?』
「いや……そんなコトはないケドさ」
『そうか……。ありがとう』
彼女は少し嬉しそうに笑った。
――食堂
俺達は一番奥にあるテーブルに着いた。エスリーンの雰囲気が違うしね。一応目立たん場所を選ばんと。
「おはようございます」
しばらくして、シャーリアのおっさんが料理を持ってやってくる。
「おはようございます」
『おはよう、ご主人』
「……ん?」
と、おっさんは違和感を覚えたのか、料理を置くとリラを見る。
『この姿では、はじめまして。私は元ラスディンの使い魔、リラ』
「そ、そうですか……」
おっさんは当惑している。師匠の兄弟子の使い魔が、人の姿をして話しかけてきたワケだしな。それも、顔見知りの人物の体を借りて。どー反応していーんだか、多分俺でも困る。
『行き倒れた私達を助けてくれて、感謝する。あなたを頼って良かった』
そうか。この宿の前で倒れていたのは偶然じゃなく、リラが助けを求めてきたのか。
「ああ……。それは何よりです。ところで、その……」
あー、やっぱし気になるよナ。
『エスリーンなら、私の中で眠っているよ』
「そうなんですか……」
おっさんは当惑の表情を浮かべたまま戻っていった。
――食後
『人間の料理というのは、なかなかに美味いものだな』
空になった皿を眺め、リラが呟く。
「調理してあるからな。それに、何よりここの飯はうまい」
『やはりか』
「あー、そーいえば、人と猫じゃ味覚が違うって話を聞いたが……」
そのヘンはどーなんかな。
『ふむ。猫の頃は感じた事のない味もあるな。確かエスリーンのいう所の、甘いという味か』
「確か猫って甘みは感じないんだっけ」
『その様だな』
「そういえば、猫ってあまり塩分とっちゃいけないって聞いたが……体調はどうだ?」
腎臓をやられるんだっけ? あと、イカとかもやっちゃいけないんだっけか。まぁ、このヘンには海はないケド……。
『ん? 私はすこぶる好調だが……』
「なるほど。人間と融合してるから、その辺は問題ないんかな? ケド、もし分離して猫に戻ったら、その辺は気をつけんといかんかもな」
『そうなのか……』
リラは少し残念そうな顔で、再び皿を眺めた。
それはそうと、だ。
「なあ、まだ聞きたい事があるんだが……いいか?」
『ああ。構わないさ』
「リシュートで出会った、トゥラミシュってヒトと、ナースィルのおっさんについてだが……」
『ふむ……あの二人か』
リラは考え込んだ。
『ナースィルという人物は、何度か会った事がある。主人が健在だった頃にな。主人によれば、彼は温和で誠実な人物だ。それに何より、随分と騎士団を嫌っていた。そういう点では我らの味方になりうる人物だろう』
「なるほどな。騎士団だけが相手なら、そうだろう。ケド……もし大神殿がエスリーンを危険分子と見なした場合、おそらくあちら側に着くんじゃねェかな?」
『ふむ、大神殿と、か……』
リラは考え込んだ。
『彼らと対立することは考えにくいのだがな……。何よりエスリーンは姫巫女候補の一人であるし』
何やら奥歯に物が挟まったような口調だ。おそらく、“何か”知っているんだろうが……
「じゃあ、そっちはまた後にしよう。トゥラミシュさんについてはどうなん?」
『トゥラミシュ、か……。確かエスリーンとは知り合いだったな。私には覚えがないが』
「ああ。ところで、ラスディンのおっさんとは?」
『ふ〜む、私の知る限りでは、接点はほとんどないな。まぁ、ティフレス村の神殿にいた訳だから、世間話ぐらいはしていたかもしれんが』
「なるほど……。確か、黒魔術や呪術も習得してるみたいなんだが……村では特におかしなことはなかったか?」
『……! 呪術、か。いや、まさかとは思うが……』
「何かあったのか!?」
『ああ。一時期、この辺りに邪教集団が潜んでいた事があるのさ。そいつらは、呪術を使って何かをしていたらしい。どうやらこの街の南方にある平原に出没していた盗賊連中とも繋がりがあったという噂もあった』
「まさか、そいつらと……」
彼女が邪教の信者!? まさか、とは思うが……
『いや、そうと決まった訳ではないが……。盗賊団がいなくなった頃、その連中も姿を消してしまったからな』
「なるほどな……」
確か盗賊団が姿を消したってのが約十年前だっけか。となると、トゥラミシュさんとの接点は薄そうだが……。
『ああ、そういえば……』
リラは何かを思い出した様だ。
『いつぞや、主人が誰かと口論している声を聞いた事がある。女性の声ではあったが、それは誰かまでは確認出来なかった』
「そんな事があったのか……」
『ああ。確か、彼女が村を後にする前後の話だった。話の内容までは、はっきりとは聞き取れなかった』
「ふ〜む」
彼女である可能性は高いだろうが……
『あまり役に立てなくてすまないな』
「いや……そうでもないさ。俺としちゃ、かなり助かるよ。これからも、よろしく頼む」
知らんモンはしょーがないさ。彼女には今まで助けられてるしナ。
俺にとっちゃ、大事な人の一人だ。
そう、今は……とにかく“力”をつけにゃあなんねェ。
エスリーン、そしてリラを護る“力”を……




