見たくなかった。見るケドさ
――翌朝
ナ……ナンか下半身がキモチイイ?
でも、ンな訳ないんだよな。
昨晩はエスリーンに『臭い』っつわれて拒否されたし。
何度も香茶で口をゆすいで、ほぼ完全に口臭も消したツモリだったんだが、どーも身体から臭いが滲み出てたらしい。
でも、シャーリアのおっさんあたりは別にナンも言わんかったんだよナ。客だからって遠慮か? それとも、猫と融合して強化された嗅覚にはキツかった?
まーどっちにせよ、食欲と好奇心に負けちまった俺がアホだったワケだがナ。
にしても、眠れず夜中まで悶々とした挙句にこんな夢かよ……。
…………。
いや、夢じゃねェ。って、オイ!
目を開ける。
と、顔に何やら白い布がかぶさってやがる。
な、何だ!?
それをどけると、布団から突き出た尻尾の先が見えた。そして、その先は俺の下半身に向かって盛り上がりが続いて……。
「ななななにしてんのさ、エスリー……じゃなくてリラ、か」
『やあ、おはよう。何って……下準備さ』
「ししし下準備!?」
『ああ。決まっているだろう? これから“する”為のさ』
「……へ?」
“する”って、おま……
布団をめくると、尻尾から続く白い尻が……
って、さっき顔に乗ってたのって、下着じゃねーか!
「いや、ちっと……顔の上にコレ置かんでも」
『ふむ。君はそればかりを眺めていたので、好きなものだと思ってたのだが……違うのかね?』
「まー嫌いじゃねーが……。どっちかっつーと中身のほーが、って……ちっと痛ェよ」
『おっと、失礼』
リラは俺の身体から口を離した。
あぶねー。危うく血まみれだ。頰や唇あたりもヒリヒリしてる。ここも舐めてたんか。
『そうなのか。何かあるとそればかり見てたからな。てっきりその布切れに発情しているものだとばかり思っていたが』
や、それに隠されたモノに興味があってだな……。
「!」
抗弁しようとした直後、口を塞がれる。
いやマテ。そのままキスすんな。
思わず硬直。
その間に、リラは俺の上にのしかかってきた。
あ、寝間着の裾がめくれて、中がチラッと……
『さぁ、いよいよだ……』
そして……
『ンっ』
「痛っ!」
……へ?
今の声、エスリーン!?
ふと見上げると、彼女の雰囲気が“変わって”いた。あー、やっぱエスリーンが目覚めちったか。ちとヤバくね?
「え? ソースケ、一体何が?」
彼女は呆然と俺を見る。そして、その視線が次第に下へ行き……
「……あれ? 私……一体、何を」
そこで彼女の顔が凍りついた。
「ええっ!? そんなっ! 私……」
そして彼女は慌てて身体を離そうとし……
着いた手を滑らせた。
「きゃっ!」
「あっ……」
「!」
エスリーンはそのまま後ろに倒れ、ベッドのフットボードに頭を……
ヤバい。打ちドコロが悪きゃ、万一ってコトがある。
慌てて彼女に駆け寄り、“治癒”を唱えた。
「……セーフ」
息は正常。ちっとコブが出来ただけだな。
思わず胸をなでおろす。
にしても……このカッコ。
可愛い女の子が大股びらきで伸びてる姿なんて正直見たくなかった。……見るケドさ。じっくり。
…………。
と、エスリーンが身じろぎした。
ヤベ、目覚めた?
慌てて目をそらし、服を整え何事もなかったフリを……
『う……む。あそこでエスリーンが目覚めてしまったのは、誤算だった』
って、リラか。
「おい……大丈夫か?」
『ああ。治癒魔法かけてもらったおかげだ。いくらか痛むが、じきに治まるだろう』
「そうか……」
後遺症が残る様なコトにならんで良かった。
にしても……
「なぁ、リラ。ナンでそー積極的なん?」
昨日といい今日といい、こう何度も迫られると理性が持たん。いや、持たす必要ないかもしれんケド……。
『ああ。主人の使い魔であった頃には魔法でそういった本能が抑えられていたからな。おそらくその反動さ』
「そ、そーなん?」
よく考えりゃ、当たり前か。使い魔が発情したり妊娠したりしたら困るもんな。
「そーいや去勢とかしねーの?」
『いや、基本的にはしないな。長く生きた使い魔は、“魔化”するからね。そうした元使い魔を交配すると、優良な子が得られるのさ』
「なるほど」
まぁ、そういう血筋とかもあるんだろう。
つか、“魔化”した猫って……猫又みたいなモノなんかねェ?
「そういやハリムのおっさんの使い魔もリラって名前らしいんだが……血縁?」
『うむ。あの子は私の姪だな。ちなみにその母は私の姉で、ヴァレンティーナの使い魔をしている』
「へぇ……」
そーいうコトか。
『それに……私がこうなのは、それだけが理由じゃないさ』
「……へ?」
他にも何か? つか膝立てんな。誘ってんのか?
『雌は強い雄に惹かれるものさ』
強いヤツに惹かれるってのは、自然の摂理か。それが俺ってのは……MOD持ちだから? つか、MOD無かったら鼻も引っ掛けられんかもしれんのか。
「う〜ん……ナンかフクザツだ」
『ヒトという生き物は、難儀なものだな』
リラは苦笑を浮かべた。
『君と身体を触れ合わせていると、少し身体が楽になるしね。少しばかり、この身体は私には荷が重いらしい』
「……へ?」
“荷”が? どーいうこった?
『そしてもう一つ。……その匂い、流石に私も我慢出来なかったよ』
「に、匂い!?」
え゛!? ……やっぱ俺、ニオってる!?
『ああ、匂うよ。強い雄の、発情した匂いが』
リラがにじり寄ってくる。
いやまー、そりゃ可愛い女の子と何日も一緒にいりゃね。しかも、発散させるコトも出来んかったし。
にしてもリラよ。まだ“する”つもりか?
『いや……しばらくは諦めよう。またああなっても困るしな』
彼女は苦笑を浮かべた。
……と、いうワリに俺にくっついてるんだがな。
まぁいいや。
「ところでさ、いくつか聞きたいコトがあるんだが……」
『私に答える事ができる範囲なら、構わないよ』
と、彼女。
「そっか。ところでさ、もしかして“して”しまったら、エスリーンの持つ姫巫女の“稟質”とやらを損なうコトになるんじゃね?」
『ああ、その事か。大丈夫さ。君は勇者の“力”を宿す者だしね。勇者の血を残すのも、姫巫女の役目さ。まぁ最も、その言い伝えは姫巫女を護る為に作られたのだろうがな。無理やり姫巫女を己の物にしようとする輩も少なくなかったからな』
「ああ、フィルズ・ロスタミみてェなフトドキモノがいるからか」
「そうだ。勇者を僭称し、姫巫女を己の物にして大神殿をのっとろうと考える輩は少なくないからね」
「なるほどな〜。大神殿の権威ってそれだけ大きいのか」
「ああ。女神アゼリアの後ろ盾があるからね。ついさきごろまで、大神官と姫巫女が不在ではあっても、その領土に誰も手出しはしなかったしな」
「なるほどな。……でも、大神官不在ってどーゆーコト?」
つか、職務放棄?
『姫巫女を救出するために、各地を回っていたらしい。各地の領主と掛け合って、政治的な圧力をアルセス聖堂騎士団にかけようとしていたとか。まぁ、その最中に姫巫女が勇者と出会い、騎士団を離脱してしまったそうだが』
「そんなコトがあったワケね。そしてフィルズ・ロスタミがエスリーンを奪おうとし……と。姫巫女候補を手に入れたら、騎士団は自分の足元に跪くだろうと考えたんかねぇ?」
『恐らくはな。まぁヤツに関しては、君が討ってくれたので脅威は無くなったが、まだまだエスリーンを狙う輩は少なくないだろうな』
「そうか……あの騎士団も何とかせにゃならんか」
『ああ。あの組織力は厄介ではあるがな……』
ふむ。
幾ら俺個人が人外に近い力を持つといっても所詮個人だ。騎士団、あるいは大神殿と対峙するにはもっと大きな“力”が必要だ。
まだまだ先は長い、か。
考え込む俺を見、リラは口元に微かな笑みを浮かべる。
エスリーンとも違う、不思議な笑みだった。




