さて、夜は長いぜ
――市場
明日の狩りに備え、必要なモノを買い込む。
網やら革紐、針金など。
ついでにオークの蛮刀も研ぎ直してもらう。森ン中に入るんだしな。ナタの類は必須だ。
ヤツら、使い方が荒っぽいからアチコチ刃が欠けてるんだよナ。そのせーでかなり時間と料金がかかっちまった……。ケド、作り自体はかなり頑丈でまだまだ酷使に耐えられそーだとか。ホンッと実用一点張りなんだよな。
あとは鎧も……といったトコロなんだが、まぁ、狩り程度なら今の皮鎧でジューブンだ。ちなみにコイツはリシュートに向かう時、ハルジーのおっさんの店の奥に転がってたのを安価で譲ってもらったモンだ。引退したメンバーが置いて行ったやつらしいが、大きさはそこそこ合っていたので使っている。まー他人が着た鎧っつーのはあんまし気分のいーモンじゃないが、それでもノーガードで冒険するワケにはいかん。
いずれどっかできちんとした鎧を仕立てるつもりだ。
――夕刻
日が落ちる頃、俺達は金の鸚鵡亭に戻った。
すでに食堂には宿泊客らが下りてきて、夕食を食べている。イイ匂いだ。
俺達も部屋に荷物を置き、食堂へと向かった。
そして夕食を食べつつ、エスリーンと明日の予定を確認する。
とりあえず朝一でハルジーの店に行き、獲物を乗せる荷車を借りる。そしてすぐに北門に向かう。
北門では、ハルジーからもらった許可証を提示する必要がある。一応この森は、領主や大商人が狩りをやったりする場所なんで、そのへんの手続きが必要だ。
とはいえ、連中が狩りをする場所にオオヤスデが出没するワケじゃない。そのもっと奥だ。
森の奥には小高い丘があり、そのあたりがオオヤスデの狩り場となっているそうだ。
まずは北門を出たらまっすぐソコへ向かい、狩りを始めるワケだ。
森の中のルートを、描いてもらった簡素な地図で確認。小道や小川、池など一応目印となる場所を覚えておく。一応湧き水もあるんで、飲み水の確保は大丈夫そーだナ。水袋も持ってくけどさ。当然、新鮮な水の方がイイわけで。
それに、休憩場所も。丘の一部は崖になっており、洞穴とは言わないまでも、風雨をしのげる窪みがある。そこなら安心して身体を休めるコトが出来そーだ。
そして狩りの手順も確認。
とりあえず、何種類かの罠を仕掛け、様子を見る。それと並行して、オオヤスデを追い立ててやるってワケだ。
何故ならヤツらは腐葉土の中に潜んで動かないコトが多いそうだ。だから、ある程度音や振動を使って脅かしてやらないと、見つけるコトすらままならねェとか。
とりあえず、何かで地面を叩いたりして刺激し、上手いコト隠れ家から追い出さんといかん。
その辺の用意も一応してはある。
が、まずは一度現地に行ってみてからだな。なに、明日がダメでも明後日がある。
ま、こんなトコか。
食後に出された茶を一口飲むと、大きく息を吐いた。
さてと。後は部屋に戻って準備だ。その後は……ヘヘっ。
……おっと。そーいや大熊亭で、帰り際に何かもらったな。アレに効くモンかな?
懐から包みを出してみる。
「それは?」
「大熊亭でもらったヤツさ。何なんだろうな」
「! もしかして……」
「ン?」
「ちょっと見せて」
エスリーンが俺の手から奪う。
オイそんなコトせんでも、食い物ならちゃんと分けてやるって……
彼女は包みを開くと小さな瓶を取り出す。そして、貼り付けられた紙を見、顔を引きつらせた。
「コレ……ラジュフォンの黒灰汁漬けじゃない!」
「な……なにソレ」
周囲を見回すと、シャーリアのおっさんや奥さん、それに客達も凍りついている。
「な……ナンかマズいモノなん?」
どどどゆコト? まさかご禁制の品!?
「あのね……それ、もの凄く臭いの。それをこんな所で開けるつもり?」
「え? あっ、そーなの?」
あ〜もしかして、シュールストレミングだっけ? あの臭い漬物みたいなブツなんか。そりゃちっとマズいか。ナンっつーモン渡してくれたんだよ、あのおっさん。
……もしかして高級品かも知れんか。
ラジュフォンっつえば、密林に棲むモンスターの一種だっけか。今から行く森は少々木がまばらってハナシなんで、多分いねぇと思うが。
「ラジュフォンは分かるケド、黒灰汁漬けってナニさ?」
確か灰汁って、旨味成分なんかも含んでるんだっけ? それを濃縮したモノで漬けるんかな?
話を聞くと、そこからさらに特殊な方法で発酵・熟成させた食品だそーな。
「かなり美味いのは確かです。滋養もあります。ただ、臭いがね……」
とは、シャーリアのおっさんの言。
そー言われると、ちっと食べてみたくなった。怖いモノ見たさってヤツかな?
それに、こっちに着ていろんなイカモノ食べたが、見た目がアレでもいざ食べると味はフツーだったりするしナ。
じゃあ……
――しばし後
俺は店を出た。臭いなら、外で食わんとな。
ちなみにエスリーンを誘ったが、拒絶されちまった。
ま、いーや。
裏の旧ベルカント邸へと向かう。
まだ買い手がつかないそーなんで、ちっとお邪魔しよう。まさかこんな時間に家を見に来るヤツはいるまい。
とりあえず、裏庭へ……
いや、マズいか? 隣家がすぐ側にあるしな。まぁ小瓶だし、アレほど臭わんとは思うが……
じゃあ、そーだな。
人外レベルの身体能力、試して見るか。
……いや、その前に。
「“軽身”!」
身体を軽くする呪文だ。あくまで念のため。
「よしよし……そりゃっ!」
そして、助走をつけてジャンプ。試しに納屋の屋根の上に……って、
「うぉわっ!?」
思いの外高くジャンプしてしまい、危うく飛び越すところだった。ケド、これならいけそーだナ。
もー走り高跳びも怖くねーゼ。
中学んトキ一度、バーの上に背中から落ちちまってさ。さすがにアレはちっと涙出た。
……いや、それは忘れよう。
よし、改めて。
「……おりゃっ!」
ジャンプ。
そして二階のベランダに。
さらにジャンプして、二階の屋根。
そして中庭側のベランダ、そして中庭の地面へと飛び降りる。
「オシっ、10.0 10.0 10.0」
我ながら見事な着地だ。ビシッと決まった。
まー、MODと魔法のおかげなんだがな〜。ケド、ナンの競技やねん。
「……さて、と」
噴水のある池のヘリに腰掛け、瓶の封を開いて……
「うをっ!? 臭ェ!」
つか鼻が痛ェ。
凄まじい臭気だ。確かにこんなモンを宿の食堂で開けちまったら営業出来んくなるわナ。
……つか、目にもきやがった。涙が止まんねェ。鼻水も。
ついでに精神耐久度もゴリゴリ削れてやがる。
そんなら……
「“結界”!」
ナンとか臭いを遮断する。
あー、助かった。このまんまじゃ鼻がバカになる。
さて、中は……
覗き込むと、小瓶の中には切り身の肉が入っていた。
えっと、コレを炙って食うんだっけ?
ありもので炉を作り、火を付ける。そして何切れかを木串に刺して、しばし炙った。
見た目は焼いた白身魚の切り身みてェで、いかにも美味そーなんだケドな〜。
「さて……」
ゴクリと喉が鳴った。
美味そーなモノを前にしてというより、強敵と戦う前ってカンジだがな〜。
さて、一口。
「……!」
モノ凄い臭気が口から鼻へ抜ける。
「……うっ……むっ……」
ソレに耐えつつひと噛み。
歯ごたえとともに、口の中に肉汁が溢れた。肉の旨みを感じる。
確かに美味い。美味いんだケ、ド……に、臭いが……
上は地獄で下は天国か。
とにかくナンとか飲み込んだ。
ケド、まだあるんだよな……
とりあえず、串に刺して焼いた分だけでも食わんとな。折角もらったんだし。
はぁ……
さすがにMODでも、この臭いでは役に立たねェか……
――しばし後
俺は炉を片付け、瓶をしまうと帰路に着いた。
が、ある変化に気づく。
身体が熱い。つか、無限に力が湧いてくるようだ。
ああ、なるほど。狩りのトキでも、コレなら疲れ知らずだ。
本来は、狩りの前に食えってコトだったんだろうがな。
ま、今夜は……ヘヘっ。
宿に帰ると、明日の準備にかかる。
必要な道具を確認し、リュックに詰めなおす。
……よし。
準備万端だ。
さて、夜は長いぜ。




